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第24幕 笹本太郎

 笹本太郎は元来生まれついての堕落者と言う訳ではなかった。だからと言ってこの様になってしまったのは、家庭環境が影響したのと言うのも違っていた。彼の父親は小学校の先生、母親は専業主婦という一般家庭で育つ。

 では、なぜこのようになってしまったのか、彼は幼き頃から活発で、そして今の姿から想像できぬほど可愛らしい容姿をしていた。そもそも幼き頃は皆可愛く見えるものであるから、群を抜いて可愛らしいという訳ではなかったのであろうが不細工ではなかった。

 彼が他の子供たちと違った点は、群れることをしなかったことだ。友人を作り、一緒に遊ぶのが嫌だったという訳ではない。しかし彼は常に特別でありたいと願っていた。そして自分は人とは違う、特別だという意識が少なからず幼き心に宿っていたのだ。

 しかし、そのように群れることはなくとも彼には友人が多かった。彼は人見知りとは無縁の馴れ馴れしさを生まれ持っており、それが功を制し彼を親しまれた。

 小学生になってからは、特別でありたいと思う気持ちが次第に強くなってきた。そして、それは言動や行動にも表れ始める。とは言っても彼は特別に運動神経がよいや天才的な頭脳を持っていたと言う訳でもなかったので、普通にしていてはその欲求を満たすことはできない。そこで彼は悪戯やふざけるなどの行為をする事にした。子供が目立ちたい一心でこの様な行為に至るなどよくあることで、ここからして彼は平凡であった。

 学校の給食の一部を鯉など飼育している池に捨てたり、先生の椅子に接着剤を塗ったりなどして怒られる事が多々あったが、彼の頭の中では常に特別な事をした満足感で満ち溢れていた。

 しかし中学生になるとこうもいかない。小学生の時は皆が大笑いしてくれていた悪戯も誰もくすりとも笑わないのだ。それもそのはず中学生にもなって悪戯をするような奴はただの馬鹿である。この時に自分は平凡だと気が付き己の素行を正せばよかったのだが、自分は特別であるという殻に閉じこもるように人と接しなくなり、学校にもあまり行かなくなった。

 つまりは、自分はやればできる人間であり、今はやってないだけだ、と自分自身に言い訳をする事にしたのだ。

 学校に行かない状態であったが、彼の状態はグレているのとは違った。ヤンキーや不良、これらにどのような区別があるのかは明確に分からないが、彼はそれらにはならなかった。その理由は単純明快で面倒だったのだ。不良たちはグループを作り、先輩や後輩などの関係が強い、これなら学校生活と変わらぬではないか、そう考えたのだ。

 つまり群れる行為はこの年になっても彼のタブーであり、忌み嫌うもであった。

 家でごろごろと過す、近所をぶらぶらと散歩、そんな事をして中学時代を過ごした。両親はそんな彼の性格に不安を抱き、なんとか学校に行かせようとしたが、叱っても泣いて頼んでも、反発するわけではなく、ごめんごめん明日はちゃんと行くさ、などと笑いながらひょろりとかわしてしまう彼をどうする事も出来なかった。現に悪さをしている訳でもないし、家庭内での素行も悪い訳ではないので、両親はこれもまた仕方がないのかもしれない、と諦め始めた。

 そんな有様であるから、成績は凄惨なる結果で、高校進学するなら地域でも悪評高い学校に入学する事は決定的であると思われ、実際に教師である父親もそうなるであろうと予想していた。それであっても両親は進学することを希望していた。この不景気の中、中卒とは今後の大きなハンデになるであろうと考えていたのだ。子供の将来を考えると両親の希望は当然である。だが当の本人はと言うと、両親の心配など知りもせず、かなり前の段階で高校へ進学することは決めていた。その理由は彼の頭の中に働くなどという概念はこの少年は持ち合わせていなかったからだ。今の生温い生活が永遠に続くことを望み、それ以外の選択肢を一切排除した。

 そして、驚くべきことに周りの人の予想を裏切り、彼は地元でそこそこの公立高校に進学した。彼がこの高校に合格したのは、単に運が良かっただけだったが、この事は彼に自分はやればできる人間だ、という勘違いを完全に植え付けた。こうして彼の高校時代が、大きな勘違いと共に始まった。


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