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第17幕 笹本太郎

 パチンコ店から出た私は、爺と再び駅前まで戻っていた。

「ところで坊主。名前はなんていうんや?」

 歩きながら爺が尋ねる。

「そう言えば、まだ名乗ってなかったようだな。笹木太郎だ。爺は何という名前なのだ?」

「爺は止めい。わしは二階堂玄介じゃ。皆にはゲンちゃんとういう愛称で親しまれている大阪の人気者じゃ」

「何がゲンちゃんだ。この骸骨爺が、しかも大阪の人気者とはよく言えたものだ。そのようなこと聞いたことないぞ。玄爺と呼ばせてもらおう」

「好きにしたらええわい」

 そう言って、骸骨爺、改め玄爺は駅の階段をこつこつと登って行く。幼稚園の子供たちが団体で降りて行くのとすれ違う。遠足にでも行くのだろうか。一様に手を繋ぎながら楽しそうに会話をしている。玄爺は階段を登り、さらに直進して行く。そして、少し進んだところで突然止まった。

「ここは、コインロッカーではないか、どうしてここに?」

 そこには、駅のどこにでもあるようなロッカーが設置されている。百円で一日その中に荷物を保管できるものだ。コインロッカーは意外に需要があるのか、八割がた使用中であるようで、鍵が付いていない。

「金をやな、コインロッカーにしまおうと思ってるねん」

 玄爺はコインロッカーを端から順に眺めながら言う。

「なぜ、金をコインロッカーに入れる必要があるのだ? 自分で持っていたらいいだろう」

「まあ、ええやないか、自分で持っておくのが嫌やねん。こんな大金持ってたら盗まれそうやろ」

 ああ、恐ろしい、というように両手を上げて話す。その間もコインロッカーから目を離そうとしない。以前にその様な体験をしたのであろうか。

「だが、何もコインロッカーに入れなくともよいではないか。銀行に振り込めばよかろう。駅の近くに銀行は沢山あるぞ」

「銀行はあかんねん。運が下がる。なんでわしがコインロッカーにこだわるかと言うとな、ここに金を入れっとったら安全やろうってのもあるし、その結果、金が増えるようになる気がするねん」

 これは、また訳の分からないことを玄爺は平気で話し出す。そもそも、その金の半数以上は私のものであろう。しかしながら、先ほどパチンコでの快進撃は玄爺あってこそのもの、その玄爺がここに保管すると金が増えると言っているのだ、一体どうしたら良いのやら。

「玄爺よ、そこには例の天使はいるのか?」

 私はコインロッカーのここら辺に、と手で円を描き尋ねてみる。

「天使は見えへん、これはわしの勘じゃ」

 さてどうしたものだろうか、頼みの天使は見えないとの事だが、この爺の勘とやらも馬鹿に出来ない気がする。それにコインロッカーに入れる事に関しては問題ない。

「玄爺がそう言うなら、コインロッカーに入れておこうではないか」

 私がそう了承すると、玄爺はそそくさと金をロッカーに入れた。

「最近胃が悪いんや、だから意に胃にいい。1211にするわ」

 そんな事を言って、硬貨が投入され、中へ落ち込んで行く音が聞こえる。そして鍵を閉める。つらない語呂合わせだ。そのような事を言う人間はこの世に二人といないだろう。もちろん私は無視している。鍵を閉め終わった玄爺は、よし、完璧や、と言って番号の書かれたコインロッカーの鍵をポケットに放り込む。

 そして、意気揚々とした雰囲気の玄爺は、少し跳ねながら階段を下りて行く。私は後を追いながら、玄爺も大概変な奴だが、同調してしまう私もなかなか変人だなとどこか思った。


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