聖女の置き土産
優子が召喚されてから丁度一ヶ月。
優子は神に捧げられた。
俺はと言えば牢の中だ。
声高に儀式に異を唱え、あまつさえ儀式をぶち壊そうと暴れた俺は、屈強な騎士どもに捕らえられ、痛めつけられた上で投獄された。
俺は、
優子を助けられなかった。
絶望し、自暴自棄になった。
優子の知識を元にどれだけ被害を減らしても、優子がどれだけこの世界の事を考えているかを語っても、全てが徒労に終わる。
俺が愛してきたこの国は、恩人と言っても過言じゃない優子を、いとも簡単に使い捨てた。
…俺には、そう見えた。
儀式からどれくらいの時が経ったのか、俺は身分を剥奪されて身一つで牢から放り出された。
処刑されるのかと思っていた。この頃には俺の国への信頼は地に落ちていたし、もう、国にも神殿にも、忠誠は誓えないから。
地位も友人も失くし、生きる気力さえも失おうとした時だった。不意に優子の言葉が頭をよぎる。
「絶対に、私と話した事を思い出して」
「考えて、動いて欲しいの。シーファ、きっとあなたにしか出来ない」
ああ、優子。
また守れないところだった。
命は守れなかったけど、たった一つの約束くらい守らなきゃ、男が廃るよな。
人生80年。
彼女の4倍近い人生を生きた。
もう充分、思い残す事は何もない。俺が考えた大規模魔法陣は既に大都市から実装され始め、天災クラスの災害が襲い来るであろう2百年後までには、この世界にすべからく普及するだろう。
あの世で会ったら、彼女は褒めてくれるだろうか。彼女の推論を基に、災害の被害を最大限抑える大規模魔法陣を編み出した俺を。
それとも口の端で笑うんだろうか。名を変え顔を変えてまで、大っ嫌いな頭ガチガチのお偉方を説得するために、なりふり構わずへいこら頭を下げてた俺を。
ーーーそう、良かったと呟いて…興味なさげに本を読み始めたりしてな。うわ、これが一番ありそうだわ。
ああ、何だっていい。
もうすぐ彼女に会えるんだから。