聖女の遺言
「引越し直前の空っぽの部屋で泣いて泣いて…」
やっと涙も枯れたと思ったら、もうこの世界に居たという。
「状況的に世を儚んで…って思われてるでしょうね」
そう言って優子は寂しそうに笑うけど、全然笑えねぇよ、それ…。
「でも、やれる事があって良かった。病気の事もあの人の事も考えたくないから、調べ物に没頭して逃げてるのよ。ただ…」
「ただ?」
「家族には…会いたい…。会いたいよ、本当に」
顔を逸らした優子の目には、今にもこぼれ落ちそうな程の涙が見えた。
こっちの都合で優子を召喚した爺さん達を、本気で呪ってやりたい。
3週間が経つ頃には、この大規模な災害のサイクルも、被害の傾向も、その予兆すらも分かるようになっていた。
膨大な資料を読み込んで、聖女:優子は告げる。
「大規模な災害が起こる前、必ず空に予兆が現れるのね。膨大な量の星が降るって記述が必ずある」
「ああ、だが星が降っても被害が大事に至らない事も多いぞ」
「そう、被害の大きさは別の要素が関係してるんじゃないかしら。周期的に起こる猛暑と海面の上昇、それがこの星降りと合わさった時に…この大規模災害は繰り返されているみたい」
星が降れば地震と竜巻が頻繁する。なぜか鳥や魚が大量死する。この世界では常識と言っていい事だ。
「そしてこの2つの周期が重なった時、死亡率が凄く高い伝染病が発生するの。海面が高くなってるところに天候も不順で、一方では豪雨で洪水、一方では日照りからくる飢饉。頻繁する竜巻と地震。そこを伝染病に襲われたら…弱った体では耐え切れないんでしょうね」
優子はそう言って瞑目した。
俺も、何も言えずに押し黙る。今まさに俺達が直面している状況なだけに、彼女の言葉は突き刺さるように痛かった。
「今はとにかく一人でも命が救えるように、治水や伝染病の対処をするしかないんでしょう?私には専門的な知識はないけど、私の世界でおおまかどんな対処がなされてたかくらいは話せるわ。役に立てられる知識は何だって使って」
顔をあげた優子は、何故か挑むような目をして俺を見る。
「そして、この災害が収まったら… 絶対に、私と話した事を思い出して」
ドキリとした。
優子は自分がいなくなる事を前提で話している。
「数百年後にまた生贄が召喚されたりしないように、少しでも被害が軽くなるように、考えて、動いて欲しいの。シーファ、きっとあなたにしか出来ない」




