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聖女の過去は

それから2週間、禊や神話の話は最小限にして、俺も優子もひたすら過去の歴史を漁っている。


過去の歴史を紐とけば、大規模災害の詳細だけでなく当時行った治療法や治水などの知恵も随所に出てくる。それが俺には涙が出る程ありがたい。


数百年に一度、自分の代でくるかも分からない災害の事なんか、俺も含め詳細に調べた奴はいなかった。


そして、いざ突然災害が起こったら、対処に走り回るのが精一杯で文献なんか読んでいられなかったのが正直な所だ。


先人の知恵に触れ、それを有難く思うにつけ、優子へも口には出さない感謝の気持ちが高まった。



自分の国の事でもないのに、今日も優子は飽きることなく文献を探しては調べている。



…何を、考えてるんだろうなぁ…。



優子を見る度、この疑問が沸き起こる。自分を生贄として召喚した国を救うために毎日を過ごす優子。感謝と好意は日を追う毎に急上昇していくが、正直、優子が本当はどんな気持ちでいるのかなんて、俺は小指の爪の先程も理解出来ちゃいないんだ。


だって、優子からは家族の話すら出ないんだから。


そう思えば思うほど、なんだかイラつく。少しくらい腹割って話してくれれば俺だって…。




「…なぁ優子」



ついに俺は、勇気を出して話しかけた。




そうして聞き出した優子の過去は、なかなかにヘヴィだった。


この世界に召喚されたあの時は、結婚まで考えた男に、なんと別れを告げた直後だったらしい。


「ずっと体調が悪くて、病院で精密検査を受けたのよ。それで…」


優子は痛そうに眉を寄せている。


「病院の…検査結果が出る日にね、急に怖くなってあの人に会いに行ったの」


仕事場から同僚と出てきた恋人は優子に気付かなかった。そしてあろう事か「お前が結婚するとはなぁ」と驚く同僚に「家政婦としては優秀だからな」と彼女の事を評したらしい。


照れ隠しだとしても酷い。

ショックを受けた優子は恋人に声をかけられず、傷心のまま病院に行き、余命半年という絶望的な診断を一人で聞く羽目になった。


恋人が仕事で忙殺され会えないまま…何も言えないまま1週間がたった時、彼女は別れを決意した。


「家族は…心配してると思う…。入院する筈だったから、一人暮らししてた部屋も解約して、荷物も全部実家に送って…あの人にも、別れの手紙を送ったの」


薄っすらと目を開けた優子の目は、遠い元の世界を見ているみたいで、なんだか俺まで切なくなる。

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