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魔王さまは時代遅れ  作者: 小野寺広目天
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第七話

 指定の場所で、光、薫、ミストとフォード・スパイダースリーがレンタカーを降りた。

 倉庫街から少し離れたビジネス街だ。ドローンを伴った武装の一行は目立ちそうなものだが、この時間の社畜カンパニー・スレイブたちは、会社から一歩も出られない奉仕活動を余儀なくされている。

「じゃ、わたしは車で待ってるっすから。ってもドローンが同行するわけっすけど」

 車の後部座席で、シャインは眠るようにVRに没入している。本来は没入状態で家の外に出るのは危険だが、直接依頼主のもとに行かなければならないので仕方がない。

「で、ここからの会話は思考通信でいきますからね」

 シャインの声が直接光の頭に響く。VRゲームをするのに使ったカチューシャ型バイオセンサーを頭に付けることで、声を出さずに会話ができるというわけだ。

「思ったこと全部伝わっちゃうのは困るなあ」

「心配いりませんわ。伝えるという意思がある言葉しか伝わらないようになってますの」

「そっか、じゃあ薫が夜中、ベッドの中で何をしているかとかは伝わってこないんだ」

「なっ、なにを! そんな……破廉恥ですわ」

「え、破廉恥なことしてるの?」

「あうっ……」

「いじめてやるな、バカ」

「はいはい。それにしても……」

 光は薫の姿をもう一度眺める。

 薫の衣服は、黒装束と呼ばれる真っ黒なキモノだった。それに目だけを出した覆面、猫耳のカチューシャ。猫目とあいまって、まるっきりその姿は、化け猫そのものだった。

「聞こえてますわよ。誰が化け猫ですの」

「ああ、不便だなあ……」

「伝えたいという意思があなたの中にあるんですわ」

「まあ。だがその意見にはわたしも賛成だ」

 運動着の上下に目出し帽とゴーグルのミストが、思考通信に割り込んできた。

「目だけでも猫なのに、カチューシャまで猫耳。狙いすぎてないか?」

「これはセンサーになっておりますの。空気を読み取るようにできておりますから」

「空気を読むだけなら魔力をつかえばいいのに」

 光が声に出さずに言った。薫は即座に言い返す。

「あなたほど空気を読めない人に言われたくありませんわ!」

「なんだと? 僕は空気を読んだ上で最適なぶち壊し方をしてるだけだぞ!」

「よりたちが悪いですわ!」

「声にでてます、薫」

「うっ……わたくしとしたことが……」

 やがて一行は倉庫街に到着する。

「先導するから周囲の警戒をお願いしますね」

 各自のARに地図が表示される。目的地までのルート、警戒箇所が色分けされている。

「一旦止まってください、ここの監視カメラにダミー映像を……と、OKです」

 シャインはタイミングを見計らいつつ、セキュリティにクラッキングをかけていく。はじめに一度に無力化することもできるが、侵入が相手に伝わるリスクを想定しているのだ。

「で、ここが目的の倉庫。地図を再確認してくださいね」

 ドローンがシャッター横の勝手口に近寄った。電子キーではなく、物理キーを使っている古い扉のため、ドローンを直接接触させてこじ開ける必要がある。

 だが、それもシャインにはたやすい。瞬く間に鍵は開いた。

「開けるぞ」

 ミストが片手に銃を持ってゆっくり扉を開ける。同時にドローンがセンサーを働かせながら突入。一歩後から薫、光が続いて、最後にミストが扉を閉じる。

「拍子抜けですわね、なんの気配もしませんわ」

「セキュリティも突破できてます、が……。罠の可能性も考えたほうがいいっすね」

 言ってドローンはシャッターの操作パネルに機械を仕掛ける。

「なにやってるの?」

「ワイヤレススイッチす。これ、遠隔操作で開くようにしておこうと思いましてね」

「ふうん……」

「行きましょう、ここからの先導は薫にまかせます」

「かしこまりましたわ」

 やがて一同は難なく倉庫の奥につく。全体的に古びた倉庫の、部分的に新しくなっている扉には、最新型の電子キーが取り付けられていた。

「間違いなさそうですね。このタイプなら……」

 タッチセンサーにマニピュレータを近づける。ピッと音がして、キーが解錠された。スライド式のドアが自動的に開くと、そこはビジネスホテルのような小さな部屋だった。

「きみたちは……?」

 デスクには若くない男が座っていた。セルコンを通じてCRIを照会する。伊藤藤通に間違いない。

「アンシン・コーポレイトに雇われたスイーパーですわ」

 打ち合わせ通り、ドローンの替わりに薫がそう告げる。ドローンよりも、ひとの形をしていたものが告げたほうがいいだろうとの判断だ。

「急いでいますので質問は一つまでにしてくださいまし」

「大丈夫だ、荷物もブリーフケースひとつにまとまっている」

「かまいませんわ。ですがご自身でお持ち下さいまし」

 伊藤が立ち上がったのを確認して、薫は部屋を出る。そして気配を探った。

「……やはり囲まれておりますわね」

「入口付近に、人数は……五人です。一人はオウガですか。……やっかいですね」

 シャインが、クラッキングしたカメラで見たままを伝えた。

「オウガ……ですの?」

「ええ、珍しいですね」

 オウガは魔法使いの一種だ。大きな固体では二メートル半もする巨大な体躯と、数本の角をもつ種族であり、肉体強化魔法をして、人類を苦しめた。繁殖能力が弱いことと、魔王が倒れた後も最後まで魔法使い側についていたことから、人口は多くない。

 そんな彼らであるが、都市部でその姿をみることはめったにない。背の高い彼らの大半が、天井の低い都会暮らしを嫌い、田舎で農業や林業に就いていることが多いからだ。

 だが、もちろん都市生活を気に入るものも少なくはない。その代表が、警備員やスイーパーなどの荒事師である。ライトマシンガンすら拳銃のように使いこなし、パンチですら剣を握ったほどのリーチがある彼らは、一人で数人分の働きをする。

「獲物はわかるか?」

「予想通り、四人はサブマシンガンです。オウガは弓矢と斧を担いでいますね」

 斧、と聞いて薫の猫目が輝く。

「わかりました。オウガはわたくしにおまかせください」

「やれやれ……また薫の悪い癖がはじまったか」

 狭いドアを抜けるのは危ないだろう。シャインが仕掛けていたシャッター開閉装置が幸いした。トラック二台くらいなら同時に通れる大きさのシャッターを開ける。

 同時に風切り音をあげて、音速で矢が飛び込んできた。

「ひっ」

 オウガ用の剛弓から放たれた太矢は、伊東の持っていた防弾ブリーフケースを貫通して、コンクリートの壁に縫いつけていた。滑車を用いて何倍にも力を増幅するその弓は、半端な銃弾を凌駕する威力を放つ。

「ばか、隠れろ!」

 箱を盾にしていたミストの声が飛ぶ。慌てて光は伊藤を押し倒し、障害物の陰に隠れた。

 同時に、ドローンが煙幕を張る。煙幕を無力化する装置は二〇世紀でも存在していたが、その装置を無力化する煙幕を無力化する装置を無力化する、イタチごっこの末の最新型だ。

 薫の足音が響いた。煙幕の中でも薫の耳にはすべてが把握できている。

「はあああああっ!」

 気合一閃、薫の刀が煙幕を切り裂きオウガを襲う。

 だがオウガの対応も早い。弓はとうに捨て、背中の斧で斬撃を受け流した。

「真ん中で二人が戦ってる限り、銃は撃ちづらくなってるはずっす、今のうちに」

 シャインがドローンを先行させる。光も伊藤を伴ってその後を追った。

 しかし、シャインの予想を裏切ることが起きた。

 ころころ……光の足元に何かが転がってくる。

「避けろ!」

 ミストの声が飛ぶ。だが避けてどうにかなるものではない。破片手榴弾だ。

「任せろっ!」

 反射的に、光はそれを持ち上げ、投げ返す。煙幕の向こうに、それは消えていった。

 しかし、爆発は起きない。

「あれ……不発?」

「いや、安全装置だ。自分の近くでは爆発しないようになってる高級品だ」

「そんな、ずるい!」

 薄れていく煙幕の向こう側で、一人の男が手榴弾からピンを抜き、投げようとした。

「あのピンがそのセンサーかな?」

「そうっすね。あれがある限り、爆発はしないっすよ」

「だったら……」

 光は意識を集中した。ブラのホックを外すより簡単だ。

 二人の男が持っているピンに、それぞれ見えない手を引っ掛ける。そしてそのままこっちに引っ張ってくる。それで終わりだ。

 バン!

 四人のうち至近距離にいた二人がそれぞれ倒れる。

「突破するっすよ!」

「おう!」

 フォード・スパイダースリーには、毎分一〇〇〇発の弾丸を吐き出すベルト糾弾式のライトマシンガンが載っている。

 弾幕を張る形で二人のスイーパーの行動を阻害し、そこにミストが・五〇〇S&Wを叩きこむ。命中。

「思ったほどじゃないっすね」

「薫は?」

 薫と対峙するオウガは、背中に手榴弾を浴びていた。それだけではなく、薫につけられたと見える刀傷もいくつも見える。にもかかわらず立っているあたり、恐るべき強靱性だ。

 薫は薫でオウガの巨体を盾にしたのだろう、怪我は見られない。

 薫が刀を振るう。オウガはそれを斧で受け止め、振り返す。

 オウガの斧を薫は受け止めない。刀で弾くように横に流す。そしてそのまま踏み込み、斬りかかる。体格によるリーチの差があるため、またオウガも身を引いているため、ほんの少しの差で薫の刀は届かない。身にまとった革ジャケットが薄く切られるにとまる。

 オウガの斧は、壁を砕くほどの超合金製バトルアクスだ。だがそれをわずかな動きで力の向きを変える薫の腕もさることながら、それを避けられてすぐ身を引くオウガの腕もなかなかのものだった。

 だんだん、オウガの動きに焦りが見えてきた。オウガはシャインの扱うドローンのような、金属製のもの砕くために連れて来られたのだ。それが蓋を開けてみれば、一番背の小さな猫娘と斬り結ぶのが精一杯。しかもその間に仲間はすべてやられてしまっている。

 だが、それは必ずしも薫の有利ではない。至近距離で斬り結んでいる以上、ミストもシャインも迂闊にオウガを狙い撃つことができない状態だ。

「先に行っててくださいな。少しこの人と遊んでから行きますわ」

 薫が思考通信を送ってきた。

「あのゲームオタクめ、敵を倒しても経験値なんかもらえないってのに」

「だ、大丈夫なんですか?」

 それまで自走式荷物だった伊藤が、ようやく言葉を発する。

「薫なら大丈夫っす。行きましょう」

 薫とオウガを残して、あとの一行はその場を去っていった。


「いいのか? 置き去りで」

 オウガが口を開いた。その隙を狙って刀が空を斬る。しかしオウガもそれは読んでいたか、超合金製バトルアクスで防御する。

「かまいませんわ。なにせわたくし――」

 薫の構えが変わる。刀を握った両手を顔の前に揃え、刀が天を仰いだ。

「ブルガコフ兄弟社が採算を度外視して作ったコンセプトモデルですのよ」

「とうに潰れた会社じゃねえか」

 誘われたとみて、オウガが動く。カウンター狙いなのはわかっている。だが、この体格差と威力があれば、防御ごと叩き切れるはずだ。

 斧が横薙ぎに振るわれた。

 きいんっ。固いもののぶつかる音がした。

「くっ……」

 薫の手首に、大きな切り傷が走る。

 かつんと、軽いものが落ちる音が、あっけなく響いた。

「うがああああああああああっ!」

 オウガが吠える。

「畜生、俺の角をっ!」

「あら、ごめんあそばせ」

 薫は相手のリーチのギリギリ外側に立ち、手首を引いた。完全には逃げられず手首に傷を負ったが、その瞬間につきだした刀が、オウガの一対の角を片方、切り飛ばしたのだ。

「狙いは首でしたのに」

「殺してやるッ!」

「そういう言葉は、殺してからお言いなさい」

 逆上したオウガを仕留めるのは簡単だった。上段から叩きつけられる斧に刀を当てて筋をそらすと、そのまま左手を刀から外し掌底をオウガの腹に叩き込んだ。

 あとは一瞬だった。

 オウガの胸に刀が突き立てられる。

「っはあ!」

 オウガは盛大に血を吐き、薫が真っ赤に染まる。

「もう終わりですか?」

 薫は掌底を当てたまま、刀を引き抜く。その反動で、オウガはどうと音を立てて、コンクリートの路面に倒れた。

「もう少し遊んでくださると思ったのですが。残念です」

 薫は懐から紙を取り出して刀を拭うと、鞘に納めて立ち去った。

 手首の傷に、出血はなかった。


 車がアンシン・タワーの地下駐車場に到着した時、光と伊藤はそろって胃の中の物をエチケット袋に出していた。

 ちなみにこの車はアンシン・コーポレイトが処分してくれる手はずになっている。

「酔い止めも効くときとそうでないときがあるんですねえ」

 昨日アンシン・タワーに来たときは、ミストも気遣って少し優しめの運転をしていたし、酔い止めも効いていたが、今日は逃走である。徹底的に街中をぐるぐる回って追手がないことを確認してからなので、当然走る距離は長いし、運転もよりいっそう荒かった。

「朝ごはん食べないできたんだけど、胃が痙攣して余計つらいかも……」

「まあ、どっちにせよここまでくればほとんど大丈夫っす」

 一行は地下駐車場の受付でCRIを照会する。すると上階でバラニナがキーを開け、エレベータに通された。今回は私室ではなく、三六階の社宅フロアだ。

「いやあ、ご苦労様でした」

 エレベータを降りた時、やはりバラニナはエントランスホールまで迎えに出てきていた。例のメイドも連れ立っている。

「はじめまして、ミスター・伊藤。わたくしがバラニナ中宮です。ええ、ええ。ここならもう安心ですよ。なにせアンシン・コーポレートのアンシン・タワーですからね。お疲れでしょうからお話はまた後ほど。ウィステリア、ミスター・伊藤をお部屋にご案内してさし上げてください。それから、スイーパーの皆様方は応接室へどうぞ」

 言うことを言い切り、バラニナはさっさと歩き出してしまう。伊藤はメイドに付き添われて数ある部屋の一つへ送り届けられるようだ。

 光たちはそのフロアの中心にある応接室三六〇一号室に通された。

「いや、お疲れ様でした。ミス・氏原は居らっしゃらないようですが別行動ですか?」

「あ、はい。別行動をしておりまして……」

「そうでしたか、いえ、お怪我などでなければ幸いです。なにせオウガは手強いですからね。せっかく紅茶の淹れ方を勉強したのに、お見せするお相手が別行動でしたら腕のふるいようがありません。いや、失礼。皆様にも楽しんでいたければいいのですが」

「あ、いえ……。その……」

「ええ、ええ。わかっております。わたくしはどうも話が長くてよくないと言われるんですが。上司にもこれでよく叱られておりまして。そのかわり行動は早いのが自慢です。謝礼はセルコンに入金しておきました、ご確認ください」

「はい、いや、これは……」

 シャインが視界の隅にARで表示されている新着アラートを選択する。そこにはアンシン・コーポレイト経理課の名目で、契約より若干多めの金額が入金されていた。

「あなた方の仕事が早いので、少々色をつけさせていただきました。いえいえ、これはわたくしからの感謝の気持ちでして個人資産から、まあわたくしにとってはほとんど小遣いのような額ですのでどうかお気になさらず。ええ、受け取ってください」

「ですが……」

「わかりました、それではこうしましょう。多いぶんは口止め料ということで」

「それは、まあ……もちろん遵守ですが……」

「それを徹底していただくための追加契約ということで、受け取ってください」

「はい、それでは、ありがたく頂戴いたします」


「気づいてた?」

 トヨタ・オヒメサマに乗り換え、アンシン・タワーを離れてしばらくして、光は言った。

「何にっすか?」

「バラニナさんは、薫がオウガと戦ってること、どこで知ったんだろうね」

 しばし沈黙が支配する。

「赤!」

 シャインが交通信号の停止表示を叫び、ミストが急ブレーキを踏んだ。

「すまん。考え事をしてた」

「らしくないっすよ。っても、無理もないですね」

「光、バラニナについては多くを気にするな」

「いや、でも知っておいた方が知りたくなくなると思いますね」

 ミストは言ったが、シャインは反論した。

「ちょうど薫もおりませんし、今のうちに話しましょう」

「……あたしゃ知らないからな」

「どこからお話ししましょうかね。ええと、アンシン・タワーがむかし、ブルガコフ・バーシニャって呼ばれてたってことから行きましょうか」

「ブルガコフって……薫を改造したっていう?」

「そうです。去年まではアンシン・タワーと一帯の建物は、ブルガコフ兄弟社のものでした。ですが、ブルガコフ兄弟社は去年、薫の脱走のあと、倒産してるのです」

「倒産って何?」

 光の時代、まだ企業という概念はいまほど発展していなかった。そのため企業用語に関しても光はわからないことが多い。

「会社がなくなったようなもんです。といっても、会社そのものは残ってるのですが、世界規模企業ワールズ・カンパニーの座からは転落しました。代わって世界規模企業ワールズ・カンパニーにくわえられたのが、アンシン・コーポレイトなのです」

「ううん、いまいちピンとこないけど」

「ブルガコフ兄弟社が倒産する直前に、一人の役員が転職をしたんです」

「あ、それって……」

「そうっす。それがバラニナ中宮です。経済界ではちょっとした有名人でしてね。色々な噂があります。その中の一つが『バラニナ中宮は悪魔である』というやつです」

 この五〇年あまり、人類を陰から支配する謎の存在の名前を、シャインは口にした。

「こんな噂もあります。『ブルガコフ兄弟社は悪魔に見捨てられ、代わって悪魔と契約したアンシン・コーポレイトが成長した』ってね」

「そのこと、薫は知ってるの?」

 かつて自分を兄から引き離し、改造したブルガコフ兄弟社。それを陰から支えていた悪魔が、自分の今の雇い主であるということ。

 そして――薫の兄は、生きていて、その悪魔の監視下にあるということ。

「さあ、知ってるかもしれないし知らないかもしれません。確認したことないっすからね。ま、お互い面識はないようですが」

 シャインはとぼけるように言った。

「冷たいかもしれないけど、薫が深入りしてほしくないところには深入りしないようにしてるっす。わたしらもそれぞれまあ、後ろ暗いところはありますから」

「知ってても関係ない、ってところだろうな」

 運転席のミストが言った。

「薫が憎んでるのはブルガコフ兄弟社であって、その陰の悪魔じゃないんだろうよ」


「遅かったですのね」

 三人が帰宅した時、薫は一人優雅に紅茶を飲んでいた。すでにキモノに着替えている。

「ボート、助かりましたわ」

「こういうこともあろうと思っての二段逃走ルートっす。実はもう一個ルートを隠してましたが、使いませんでしたね。あ、シャワーはミストが先に使っていいっすよ」

 言って、シャインはフォード・スパイダースリーを連れて自分の部屋に戻っていった。

 ミストも着替えをとりにだろう、自分の部屋に戻っていった。

 あとには光と薫が残される。

「薫」

 光は真剣な目で薫を見つめた。

「なんですの?」

「お兄ちゃんって呼んでもいいんだぞ」

「お断りします。わたしのお兄さまはただ一人ですわ」

 薫の答えは、そっけないものだった。

「わたくしはお兄さまとゲームで勝負して、一度も勝ったことがありませんの。あなたはどうですの? 手榴弾を投げ返された次の手が考えつきますの?」

「手厳しいなあ……」

「どうしたんですの? いきなり」

「僕の気まぐれに理由なんかないさ」

「……そうですの?」

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