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現実の恐怖

弥佳は教室に戻り、すっかり帰り支度を済ませている自分の席で立っていた。教室には誰もいない。用事は済んだと言うのに、とっとと帰ろうと言う気がしない。一つ一つの動作も、重く、遅かった。ボケっと突っ立っていると言う表現の方が、的を得ているかもしれない。

「ゴブリンやオークか…。」

弥佳はそうつぶやくと、鏡華からもらった地図を折りたたんで鞄の中に入れる。

人間が怖いのならば、人間を食べようとしなければいいのに。原始人が命がけでマンモスを倒し、食料にしていたのと同じだろうか?いや、そうでもないように思える。今の時代、もっと安全にしとめられる食料があるはずだ。人間が飼育している牛や豚とか…。

(ああ、オークが豚を食べたら、共食いになるのかな?)

思わずくだらない事を考えてしまう。だが、少なくとも現実では、ゲームの様に、主人公のレベルを上げるために登場する、やられキャラでは無いという事だ。むこうも必死。生活があり、生きて行こうとする生存本能を持っている。

「ふぅ」

思わずため息が出る。

 その時、教室の後ろ側の扉が急に開き、男子が飛び込んできた。純一だ。荷物のまとめてある自分の席にたどり着くと、鞄を開け、紙の束をねじ込んでいる。

「古堅君、クラブの見学会?」

純一はちょっとびっくりしたようだった。おそらく、弥佳に気付いていなかったのだろう。

「笹木瀬さん!あぁ、びっくりした。」

純一は弥佳に気がつくと、手を止め、弥佳に向き直って応えた。つまり、答えになっていない訳だが、それ以外のことなど、まずありえない。

「うーん。」

弥佳は唸る。そして、人差し指と親指をあごのラインにあてがい、ちょっと眼を細め、品定めするように純一をみる。ちょっと腰をかがめ、一歩、二歩と近づいたときに結論を言った。

「美術部でしょ?」

「えっつ!そう!美術部!どうして判ったの?ひょっとして何か付いてる?」

そう言うと純一は、絵の具でも付いているのではないかと、自分の制服を引っ張ったり、体をひねったりして、あちこち調べている。

「おどろいた?」

弥佳が、ちょっと笑顔で訊く。

「おどろいた!本当に、なんで判ったの?」

純一は、何故判ったのか、本気で不思議がっている。

「0点~!、ただ適当に、想像で言っただけだよ。」

「そうなの?なんか服に付いているとか、こう、観察眼とかじゃなくて?」

「観察なんてしてないもん。あれは、『フリ』だよ、『フリ』。それをどう返すかがポイント。」

弥佳は左目をつむり、右目の前で、指でわっかの形を作くると、そこを覗くように純一を見る。

「だから古堅君は、『0点』。」

そして、弥佳は笑った。


朋美と優は階段を駆け上がっていた。

「そんな、走らなくても良いじゃない?」

ちょうど踊り場のところで優は悲鳴を上げる。朋美はバッグ二つを肩に掛け、鞄を一つ持っていたが、それでも、二段抜かしでとっとと先を行こうとしていた。

「あ、ごめん。」

朋美は下で息を切らしている優のところまで、一旦降りてくる。

 学校が終わるとすぐに教室を出て行ったこの二人、しかし、そのまま家に帰ったわけではなかった。再び同じクラスになった幸運を、学校近くのスターバックスで祝っていたのだ。まぁ、普通にだべっていただけだが。バスの来る時間でもあるし、そろそろ頃合かと店を出ようとしたときに、朋美が自分の鞄を忘れてきた事に気付いた。鞄は必ず持って登校しないと風紀委員に怒られてしまうので、鞄を取りに舞い戻ってきたわけだ。

 優はそのまま帰ってしまっても良かったのだが、わざわざ付き合ってくれたので、荷物は全て朋美が持っている。だから優は何も荷物を持っていないのだが、朋美の体力は伊達じゃなかった。それで今、手ぶらの方の優がギブアップしたところだ。

「いや、鞄を忘れるとは、盲点だったな。」

朋美はしれっという。

「もう、忘れるなら、教科書を忘れてよ。」

息を整えながら、優は訴える。こちらは忘れても風紀委員にチェックされる事はないし、本来名前が書いてあるのが条件だが、今日は置いて帰っても良い事になっている。

 それでも仲のいい二人だ。優の息が整うと、今回の教科書はあーだ、こーだ、言いながら、教室に向った。教室の後ろ側の扉に近づくと、なぜか扉が開いていた。そして、前を歩いていた朋美が急に立ち止まる。優は思いっきり朋美に追突してしまった。

「もう、今日は…」

優が抗議の声を上げようとするが、振り返った朋美は口元に指を立て、静かにする様に合図する。改めて教室をそっと覗くと、弥佳と純一が二人きりで楽しそうに会話している。

「こ、これは…、学級委員?」

優は学級委員として、仕事の話をしているのかと訊きたかったのだ。朋美を見ると、朋美はニタッとした顔つきで、両手を上げ、さぁ?とジェスチャーで応えた。


 「じゃあ、例えばどんなの?」

純一のこの質問は、純粋な質問だ。弥佳のセンスを試している訳ではない。純一にとっては未開の文化との接触なのだ。

「たとえば?ん~そうだなぁ…」

弥佳は純一を指差す。

「『流石は笹木瀬弥佳!我が封じしオーラを見破るとは!』とか。」

声色も、純一のまねをしながら言う。お世辞にも似ているとは言えなかったが。

「そ、それが面白いの?」

「というか、ノリだよ、ノリ。それが面白いんだから。」

(私、何でこんな話をしてるんだろう。もっと大切な事を考えなきゃいけないのに…。)

弥佳の思考。

「そーか、笹木瀬さんは何時もノリだものね。」

「それどういう意味?」

弥佳は拳を上げ、殴る振りをする。純一は両手でそれをガードする振りをする。

「古堅君も趣味はゲームと絵でしょ、ゲームキャラの萌絵とか描いて、喜んでいるんじゃないの?変態。」

弥佳は自分の机に腰掛けた。

(あれ、何で私、古堅君の趣味がゲームって覚えているんだろう、自己紹介なんて聞いてなかったのに。)

不思議だった。純一と話をしながらも、何処かが何か別の事を考えている。知らないはずの事を知っている。なんだろう。弥佳の思考は複数同時処理マルチタスクになっていく。

「描けないよ。美術部といっても彫刻だもん。」

「彫刻?」

「そう、始めたばかりだけどね。この清陵は彫刻もやっているって聞いて、一も二もなく、この学校に決めちゃった。」

「お母さんに言われただけじゃなくて、自分でも考えて清陵ここを選んだんだ?」

「彫刻やっているよって教えてくれたのが、母さんだからね。」

「うーん、じゃあ、古堅君の趣味はゲームとフィギュアだね。」

「どうしても、僕の事を変態扱いしたがっているでしょ?」

純一は笑う。弥佳も笑う。

(本当に何をしているんだろう。現実逃避かな?)

「ねぇ、笹木瀬さんもゲームやるんでしょ?今度、何かのオープンワールドで会おうよ?」

「私、RPG嫌いだから。」

(RPG嫌い?今でも嫌いなの?)

『視えてしまうもの』の正体をしり、その存在を肯定してくれる人物が現れたとしても、RPGは嫌いなままなのだろうか?

「別にRPGじゃなくても…」

「ごめん。」

弥佳は自分の机から降りると、純一の台詞をさえぎった。

「なに?」

純一は、何を謝られたのか判らずに訊き返す。

「色々、ごめんなさい。失礼な事言ったりして、私、変だから謝っておく。」

「そんな事、友達と騒いでいれば羽目をはずしたりもするさ。」

(ちがうよ。)

「違うの。変なのは今の私。もう二度とこんな私は居ないかも知れない。だから、謝っておいたの。じゃあ、私先に帰るね。」

そう言うと弥佳は、バッグを肩に掛け鞄を持つと、教室を出て行った。

一人残された純一は、困った様子でぼそっとつぶやいた。

「先にと言われても、同じバスになっちゃうんだけどな。」

結局、純一は弥佳の為に、バスを二本、遅らせることになった。


 「わっ、出てくるよ!」

優が小さい声をあげた。

朋美と優はあわてて他のクラスへ隠れる。弥佳は気付かずに通り過ぎて言った。胸をなでおろす二人。しかし…。

「ねぇ、私達もバス、どうする?」

「うーん。」

朋美は唸った。


高速バスを降り、家に向かって住宅地の中を歩いている道中だった。電柱の影から、小さな子供が頭を出したり、引っ込めたりしていた。かくれんぼだろうか?今時そんな遊びをする子供はいないか…。誰かを探しているのか、待ち構えているのか。

(そんな事していると、将来ストーカーになっちゃうぞ。)

弥佳は苦笑する。

 てくてくと、そのまま歩いて、電柱を過ぎ、ちょうど子供が真横に差し掛かろうと言う所で弥佳は気付いた。この子、何も見ていない。こっくり、こっくり、頭を動かしているのは、夜遅くの電車の中で、つり革につかまった中年のサラリーマンが居眠りをしているような動きだ。完全に、能動的な動きじゃない。そして、子供は一旦俯いた。目の辺りで何か動いたような気がする。そして、次に顔を上げたときには、目を大きく見開いていた。そして、そこに眼球はなかった。そこにあるのは空洞。

(ひっ!)

弥佳が一歩たじろいだ時に、脇から注ぎ込んだ光は、その空洞の奥まで差し込んだ。何も無い。脳も、本当に何もない、空っぽの頭蓋骨。目を見開いたのではない、目蓋がえぐられたのだ。そして、この角度なら見える。頭蓋骨の中でうねうね動くもの。

そして、右目のあった穴から20センチほど飛び出した。緑色の蔓?触手?ちょっと紫がった丸い斑点のならぶ蔓が、空をうねうねと、うねる。次の瞬間、子供の右頬にビタ!と貼りつく。そして、何かを巻き込んで、右目の穴にするりと引っ込んだ。蔓の張り付いていた頬の肉が剥がれていた。右目の穴から右耳まで、そして下は顎まで。頬骨と下顎の骨、それから、奥歯ニ、三本が剥き出しになる。

(いや、なに?)

弥佳は鞄とバッグを手放すと、口を覆った。そして、足元をふらつかせながら、じりじりと後ろに下がる。それが体を動かせる限界だった。逃げる事が出来ない。恐怖に身を震わせ、視線を逸らす事も出来なかった。


 じりじりと下がって行くと、次第に全様が見えてくる。子供の後ろには、高さ2メートル50センチ、直径70センチほどの樹がいた。だが、幹や枝の全てが暗い緑色で、上部は枝分かれしているが、葉などは付けていなかった。下から1メートルほどの部分から、根と言って良いのか、太い、うねるものに分かれ、広がっている。そして、子供の下半身は、その根の部分に取り込まれ、全く見えない。子供の体はやや前項姿勢に捕らわれており、魔物は、全体にまとわせている細い蔓の約半数を、背中へ突き立て、体内をまさぐっている様だった。

 今度は蔓が子供の背中から、長い内臓を引っ張り出した。腸だ。高さ2メートルほどまで引き上げると、樹の中央が縦に70センチほどぱくりと開き、蔓は腸の端をそこへと運び込む。腸はまだ繋がったままだ。触手はさらに腸を引っ張り出そうとするが、何かに引っかかったのか、ぴんと張ってしまって出て来ない。さらに触手は力強く引っ張ったようだ。腸はプチンとちぎれて跳ね、勢いで樹の口周りに貼りつく。その時、血か、肉片の一部が、弥佳にもピピッと降りかかった。弥佳は口を手で覆いながら、必死に悲鳴をこらえる。樹に貼りついた腸からは血がにじみ出た。触手はその腸を器用にまとめると、口に運ぶ。口周りは血まみれに汚れたが、血はすっと樹に染み込んでしまい、後も残らない。

(喰われる!)

弥佳はそう思った。そして…、

「プァ!!」

急にトヨタのプリウスにクラクションを鳴らされる。

(はっ?)

弥佳は車のまん前に立っていた。弥佳が振り向くと運転手と目が合う。魔物の方を向いてから、引き下がったので、道の中央へ出て来ていたのだ。どれくらいの時間、車の邪魔をしていたのだろう…、車が近づいて来ている事にも気が付かなかった。プリウスがモーター駆動で音もなく近づいて来たから?いや、ダンプカーだって気が付かなかっただろう。そんな精神状態ではない。

 「プァ、プァ!!」

プリウスの運転手は、目が合っても退こうとしない少女に苛立ったのか、またクラクションを鳴らす。二度目のクラクションが弥佳を突き動かした。弥佳は鞄とバッグに飛びつくと、ひったくる様につかみ、目を閉じながら走り出す。弥佳は何も考えられない。怖い!怖い!体が勝手に動く。走って、走って、その場から逃げようとする。

「お、おい!」

プリウスの運転手は扉を開くと、車から降りた。謝りもせずに駆け出していった少女に、文句の一つも言いたかったのか、挙動のおかしい少女を不思議に思ったのか。そして、少女の見ていた方を見ると、悲鳴を上げた。


(たすけて!たすけて!)

弥佳は心でそう叫びながら走り続ける。

「うわぁ」

後ろから悲鳴が聞こえる。プリウスの運転手だろう。彼には魔物は視えない。だから事の本質を知る事は出来ないだろう。子供の肉や内蔵が、次々と消えていく理解しえぬ醶い光景を見たのか、視えぬ何物かに捕らわれ、喰われる苦痛を味わっているのか。そのどちらか…、いや、その両方かも知れない。

(電話!)

一瞬そう思ったが、もう自分は安全圏にいる。大丈夫だ。心は完全に恐怖に支配されていたが、それは確信できた。そして、悲鳴の主は、今更間に合わない。そして、何より、電話番号はこの時の為に教えてもらったものではない。電話番号は、鏡華が後から書き加えていた事を思い出す。今、使うべきものではない。


 目を瞑って走り出した弥佳。何処をどう走り、いつから目を開いていたのかさえ記憶が定かではなかったが、自宅にたどり着いた。玄関で靴を脱ぎ捨て、荷物を放り出すと風呂場へ向った。風呂場の前で着ている物をすべて脱ぎながら、洗濯機に投げ入れていく。洗剤の箱をつかむと、洗剤をスプーンで掬おうとするが、震えてこぼしてしまう。箱ごと洗濯機に突っ込むと、適当に洗剤を振り入れ、扉を閉めてスイッチをいれる。洗濯機のドラムが左右に少しずつ回ると、注水を始めた。弥佳はそのまま風呂場の扉を開き、シャワーを浴びる。血を、肉片を、少しでも早く流し去りたかった。

(何なのよ!何なの!!)

判らないはずがない。これまで何度も視てきた、そして今日、鏡華から伝えられた魔物だ。しかし、今迄、魔物が人を喰っている所は視た事がなかった。鏡華の言う通りだった。人を喰う。

(あんなの無視できっこない!戦うことも出来ない!!)

恐怖から涙があふれてくる。だが、涙がそのまま頬をつたう事は無い。頭上から降り注ぐシャワーのお湯が、涙を押し流していった。

 熱いシャワーを浴び終わると、少し落ち着いた。着替えも何も用意してなかったが、幸い、昨日洗濯物にだしておいた物が仕上がっていて、たたんで置いてあった。バスタオルを取って髪と体を拭くと。下着を取り、身につける。着替えは外出用の物だったので、着る気にはなれない。とりあえず、バスタオルを体に巻く。テレビや漫画の様にうまく隠しきれなかったが、下着を身につけているから、それだけましか?そのまま、二階の自分の部屋まで走った。

 自分の部屋に入り、扉を閉めると、取っ手のサムターンを回して鍵をかけた。カーテンを閉じると、バスタオルを取り捨て、タンスから生理用品を取り出してショーツに取り付ける。パジャマのズボンをはき、上の袖を通しながら机の前に座る。鏡で自分の姿を見てみるが、血などは付いていなかった。

「ふぅ」

弥佳はため息をつくと、椅子に座りながら項垂れた。


 ちょっとの間動けなかったが、気を取り直す。いや、その努力をした。パジャマのボタンを留め終わると、ベッドに体を投げ出す。それからもぞもぞと、布団に包まり始めた。そして自問自答する。

(魔物を視てみぬ振りって出来るの?)

弥佳は考えた。あんな凄惨な光景を無視する事が出来る人間など、いるのだろうか?監察医はもっとひどい死体を解剖しているのだから、あんな光景も慣れるのかもしれない。だが弥佳は否定する。監察医が解剖しているのは死体だ。今日視たの光景は、生きたままの人間が解剖されるさまに等しい。視ているものが同じでも心持が違う。それでさえ、慣れると言うのだろうか。

(戦うことは?)

もし、今日の魔物を退治しようとしたら、魔物はどう抵抗してくるのだろうか。多分、あの蔓だろう。だけど、うねうねと迫って来るのだろうか?それとも鞭のように、すばやく空気を切り裂きながら飛んでくるのか?それに、毒は?いろんな考えが浮かぶ。しかし、近づくまで気が付かなかった。電柱と壁の間から見えていたはずなのに…。そんな事で戦えるのだろうか。だが、恐怖に硬直している時間も襲われることなく、生き延びたのは事実だ。案外、餌などを使えば、楽に戦えるかもしれない。

(でも、餌って、生きた人間!!)

それに、車の運転手はどうなったのだろう。もうわけが判らない。

「痛たた。」

大切な事を考えているのに、それ所ではない筈なのに、思い出した様に、お腹がシクシクと痛み始める。もう終わるはずなのに。今、この痛みは耐えがたい。仕方がない。弥佳はベッドからでると台所に向う。台所では母親が夕飯の用意をしていたが、今は誰とも話したくない。こっそりと冷蔵庫から水のペットボトルを取り出すと、そそくさと部屋に戻った。

 自分の部屋に戻ると、やはり鍵をかける。小物入れにも鎮痛剤があったはず。引き出しを開けるだけですぐに見つけた。一錠取り出す。透明なカプセルに入った、綺麗な青緑色。その時ひょんな物に目が停まる。ずっと以前、魔物が視え始めた頃、心配した両親に、無理やり連れて行かれた病院で処方された薬。デパスと書いてある。

「これって、まだ大丈夫なのかな?」

心を落ち着ける薬らしいが、処方薬には消費期限が書かれていない。

「ま、いいか」

用量は二錠と書かれている。弥佳は鎮痛剤とデパスを飲むと、またベッドに横たわる。

「弥佳!弥佳!」

母親が呼ぶ声が聞こえる。靴も脱ぎっぱなし、荷物も放り出してきたから、それに気付き、怒っているのだろう。弥佳は何も応えなかった。頭からすっぽり布団をかぶり、外界を拒絶した。

(ごめんなさい。)

それから、ニ、三度呼ばれたような気がしたが、意識が遠のき、弥佳は眠りに落ちて行った。


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