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プロローグ

小説としては2作目、長編への挑戦としては初作品です。

基本的な部分での誤りや、在り来たりな展開も多々あると思いますが、

そんな所があれば、指導やコメントを入れてやってください。

頑張ります!!

(心が折れない程度にお願いします…。)

夜空に高層ビルの陰が突きささり、その間から月が見え隠れする。

新月でも、満月でもないただの月夜。

そんな普通の夜でも魔物は現れる。

裏通りのビルの陰から、路線脇の細い側道から、たとえ都市でも現れる。

人が毎日腹が減りのどが渇く様に、魔物も腹が減る。

数は少ないけれど、人間界との間に開かれた通路から、

人間界のあらゆる生物の血と魂を食らう為にやってくるのだ。


 少し小柄で小太りな中年男性。シャツは少しはだけ、ネクタイを緩ませている。

スーツの上着を二の腕まで下がった状態で引っ掛け、夜の繁華街の通りからビルの間の狭い路地へと、千鳥足でようやくにして入っていく。繁華街のよくある光景、飲みすぎた男が食べた者をもどしにいくのか、立小便でもするのか、誰も気にはしない。もし誰かが気にかけ声をかけたならば、ほんのり朱色に染まるはずの顔は血の気が無く青ざめており、明らかにそれでないことが見て取れたことだろう。

きっと、急性アルコール中毒か何かで体を壊しているように見え、救急車を呼んでくれたかもしれない。

 だが、『魔物視の者』と呼ばれる人間は違う光景を見る。

紫色の翼をたたんだ鳥のような姿をしている物を。

それぞれの足をしっかりと男の肩に爪を立て食い込ませて、体を頭の上に乗せるように停まっている。翼を広げれば2メートル近くあるだろう大きさで、少々薄い紫色のくちばしの隙間からは、牙をのぞかせていた。少し黄ばんだその牙は見掛け倒しではなく、しっかりと獲物を食いちぎる恐竜のそれを連想させる。体の割には極端に大きな黄色い目玉はきょろきょろと、何かを探す様にあちらこちらに視線を投げかけている。

通常の人間には姿をとらえる事の出来ないこの世ならざる物、そう『魔物』を目の当りにするのだ。酔っ払いではない、何か異様な物を背負った男の異様な光景を。


 魔物に操られた男は路地の突き当りを左に曲がり、更に人気の無いところを目指していた。少々土地勘があるらしい、歩はおぼつかないが目的地があるように進んでいる。そして、もう通りからの光の届かない、誰の目にもつかない暗闇に差し掛かったところで、後ろから声をかけられた。

「もう、喰われちまってる様だな。」

魔物は操っている男ごと振り返った。

通りからの光が逆光となり、声の主は大半が影でシルエットでしか捉えられない。その声の主は魔物の存在を前提として声をかけてきた。魔物はすぐにそう悟り思わず後ずさりする。声の主は一歩一歩と近づいてくる。魔物はぐわっと威嚇の声を上げる。声の主が暗闇に入ってくると、一瞬抜き身の刀が切っ先から柄の方へと反射光を放ち、その存在を明かした。あきらかなる敵意。そして声の主は一旦完全な影となる。さらに近づいてくるにつれ、闇の中の僅かな月光が暗いながらも、陰影によってその姿を暴き始める。足元から徐々に。スニーカーを履いているのが見え、その上がジーンズ、そしてシャツに軽く上着を羽織った上半身まで、徐々照らし出されていく。そして、最後に現れた顔は20歳前後の青年だった。髪はざっくりと切られながらも、その不規則性が自然に見える。

 声の主は魔物から2メートルほどのところまで近づくと左手を腰にやり立ち止った。

光った刀は右手に握り、構えずぶら下げている様な姿勢だった。魔物はもう後ずさりしない、バランスをとる為に翼を一度開き、大きなくちばしを突き出すように開いた。何も聞こえない、何をしているのか分らない。しかし、声の主が一瞬前に立っていたアスファルトにヒビが走る。声の主はもうそこには居ないかった、聞こえない魔物の声が届く前に飛びのいていた。

「もう、出来る事は、始末してやる事ぐらいか…。」

声の主はつぶやくように言うと、刃を魔物に向ける。切っ先は大地に、柄は天を仰ぎつつ右手に握られ、刀身には左手が添えられる。左下から右上と構えられた日本刀の、僅かに沿ったやいばが美しい。魔物が翼を動かした瞬間、声の主はすばやく一歩踏み出す。切っ先は這うような残光を残し、男の真下に潜り込むと消えうせた。今はもう振り上げられた右腕によって月を刺し、怪しく光っている。魔物は声を出す事が出来なかった。くちばしは上下に開く前に左右に開いた。体と操っていた男ごと左右に割れた。一瞬上がる血飛沫は魔物の物なのか、操られていた男の物なのか分らない。そして静かに倒れる。声の主は懐から何か書かれている短冊のような紙を取り出し、魔物の骸にはらりと落とす。そしてその呪符によって魔物と操られていた男の死体は灰になり、僅かな風に流され散っていった。


「そんな小物を狩っていても、らちが明かないわよ。リョウ。」

声の主はリョウと呼ばれた。

「何もしないよりはましさ。」

突然かけられた女性の声に振り向く前に返事をする。

ゆっくりとリョウが振り向くと、そこにはファンタジーに登場する魔法使いの格好をした女性が立っていた。ファンタジーと言っても絵本とかではなく、さながら日本のアニメに登場する魔法使いで、肩幅が広い黒いローブを僅かな風になびかせ、裏地の赤を時折目に焼きつかせる。手には杖を持ち、後ろに下げられたフードは、持ち主の顔かたちを隠す事は無かった。長い髪を結い上げた、端正な顔つきの若い女性だった。

「なんだってこんな所に現れるんだ?話なら家でも出来るだろう?姉貴。」

リョウは刀を青き鞘に納めながら、来客に質問で答えた。

「三日後に清陵せいりょう学園に潜入するわよ。」

「清陵って?」

リョウは驚きながら、しかし何処か不安な表情で訊いた。

「『素養者』が二人も高等部に入るの。一人は進学で『マナ』は多少多いと言う程度だけれど、もう開眼しているわ。もう一人は入学で、開眼こそしていないけれど、とてつもない『マナ』を滲み出している。二人も同時に同じ場所で『素養者』を見つけるなんて、そんな好機は滅多にないし、一人が開眼している以上、早く手を打たないと魔物に襲われる。だから、二人が入学するタイミングにあわせて、私たちも潜入したいの。」

「状況は分ったが、清陵学園ってあれから半年も経ってないぞ。」

「そう、だから下準備に手間がかかる。たぶん入学前日まで家には戻れないから、伝えに来たの。その間にリョウは最近の高校生の話題とか、流行を身につけておいて。それから、学年の希望があるなら聞いとくけれど。」

「いや、そう言う事じゃなくて姉貴が…」

リョウは異論を唱えようとしたが諦める。この口調からすると姉の計画は走り出しており、何を言おうと変わらないだろう。『素養者』の判断がそんなに急に出来るわけが無い。他の地区から行き成りふられた話でもなさそうだ。予期されながらも先送りしていた案件を、思い出したかの様に着手したに違いない。半年前に去った学校へ再び侵入するのだ、しなければならない操作も煩雑だろう。それでもやると言うのだ、まぁ、吹っ切れたと言うのなら、それに越した事は無いか。しかし、ひとの心配をよそに立ち回る姉を勝手なやつだと思う。だが結局は姉弟なのか、怒る気にはなれない。

ちょっと不服のそうな感じでリョウは一年生と答えた。

「わかった。三人とも一年生ね。」

姉はちょっと笑った感じで確認を取る。

するとリョウはあわてて、

「二年生の理数クラスでたのむ!」

と訂正をした。

リョウの背丈少々高い。高校二年生と言われれば「へぇー」とちょっと驚きを受けるが、疑われるほどではない微妙な感じだ。三年生であればそれなりに見えるが、『素養者』との接触年数が減ってしまう。かといって一年生となれば、驚きの反応が強くなる。だから高校に潜入する場合は二年生にリョウが、教師として姉の鏡華きょうかが同時に潜入するのが定石だった。

それに、清陵学園の高等部は普通科しかないが、二年の段階で理数クラスと文系クラスに分かれ、授業の内容も変わってくる。理数クラスに進むと地理の授業がなくなる。リョウはこの地理の授業が大きらいだった。一年生で地理をやるのはウンザリなのだろう。

リョウが不服そうだったので、鏡華が冗談を冗談で了承しただけだ。もちろんリョウが地理の授業が大きらいな事を承知の上で。

「じゃあ、二年の転校生で進めとくから、リョウもお願いね。」

鏡華はそれつげると、突如として消えた。


「本当に大丈夫なのか、姉貴?」

いい逃したわけでもなく、他の誰かに聞いてもらうわけでもなかったが、リョウは月を見ながら胸のうちをこぼしていた。


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