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秋時雨  作者: 徳次郎
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【第7話】

 未由はいつもの時間に自然と目が覚めた。布団の中は裸だったので少し寒かったせいもある。

 こんな姿で朝まで眠ったのは初めてだったから、自分の姿に思わず顔が紅潮した。

 シングルベッドの上には何時も通り自分しかいなかった。

 確かに敦と……

 未由は起き上がって下着を着けると、テーブルの上のメモを見つけた。

 『おはよう!

   俺は仕事だから、先に出かけるよ。

            TUTOMU』


 やっぱり敦と寝たのは夢ではなかったのだ。

 未由は自分が年上に弱い事を知っている。

 ファザーコンプレックスだろうかと、自分でも疑ってしまうのだ。父の愛情を受けずに育った彼女にとって、当たらずも遠からずだろう。

 年上と言っても、敦にしても、辰彦にしても2歳しか違わない。

 しかし、彼女にとって、その僅かな年の差に引かれてしまうのも事実なのだ。




 未由は午後になって、店の外を掃除していた。歩道に投げ捨てられたゴミをちり取りで拾い集めていたのだ。

 空は青々と晴れ渡り、ウロコ雲が薄く浮かんでいた。

 未由は思わず立ち尽くして空を仰いだ。

 どこか遠くへ遊びに行きたい。そんな気持ちにさせる青い空だった。

 そのまま何気なく視線を降ろすと、ふと路上駐車の黒い車に目が止まった。

 この店のまん前に止めてあるのだから、おそらくはお客さんの車だろう。

 しかし、その黒い車が、未由は何故か無性に気になったのだ。

 そろそろと近づいて見る。

 あまり、見たことの無い深い黒色は太陽の光に赤っぽいラメがキラキラと反射していた。

 こんな黒があるんだ。未由はその不思議な黒色に見入っていた。

 何となく見たリヤの黒いガラスには何かの跡が見える。

 ステッカーを貼っていた跡だろうか、光の加減で僅かに何かが見えるのだ。

 彼女はその跡がくっきり見える角度を探して自分の頭の位置を変えた。

 未由はその跡の形を見て、記憶が蘇える。

 あの、恐ろしくも憎らしいあの日の記憶。

 辰彦が車に跳ね飛ばされた瞬間の記憶が。

 そのステッカーの跡。それは、あの時の白い乗用車がリヤガラスに貼っていた形と同じだった。

 未由の記憶の中で、パズルのピースをはめ込むようにピタリと一致した。

 まさか……… この車?

 でも、これは黒いわ。どうして?

 市販のものなら同じステッカーを貼っていたとしても不思議ではない。だがしかし、車のシルエットが同じなのだ。

 そして、貼られていた位置。

 全てが未由の記憶に当てはまった。まるで、間違い探しの二つの画像を照らし合わせるかのように。

 ただ、色だけがまるっきり違うのだ。

 未由は見えない何かでその場に括りつけられたかのように、動けなくなってしまった。

「相楽さん!」

 店内から店長の呼ぶ声がして、彼女の責任感が、その硬直を解きほぐした。

「いま行きます」

 彼女は何時も通りに、元気に返事を返して店内へ駆け込んでいった。




「ねぇ、長谷部」

「なに?」

「あんた、車くわしい?」

「車?どうして?」

「うん、ちょっと」

「俺、バイクしか持って無いからなぁ」

 商品整理をしながら、未由は長谷部に話し掛けていた。

 彼は、スウェットシャツをたたみながら「車がどうかしたの?」

「後から違う色に塗り替える事なんてできるのかしら」

「そりゃ、できるさ。好きな色に替える人もいるから」

 未由は思いもかけない答えに少し驚いた。

「そんなに簡単にできるの?あんな大きなものを」

 長谷部は少し笑って

「確かに大きいから大変だけど、ショップは専門でやってるからどうってことないんじゃない」

「そうなんだ」

 未由は長谷部の応えに、少しだけ感心した。

「車の色がどうかしたの?」

「ううん。別に。何でも……」

 彼女は話を変えようと

「ねぇ、今日入ってきたこのスカートかわいくない?」

 未由はハンギングされた商品を手に取って、自分の身体に当てて見せた。

「えっ、あ、ああ」

 長谷部は急に話を変えられて、戸惑いながら笑みを返した。



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