表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋時雨  作者: 徳次郎
6/18

【第5話】

「ねぇ、これからご飯でも食べに行く?」

 授業が終わって声を掛けて来たのは麻須美だった。

 彼女もまた、未由の家庭事情は知っている。ただ、麻須美自身も、離婚した両親の元を離れて自活している身だ。

 彼女の実家は千葉の松戸なのだと言う。小さい頃から両親の仲は最悪で、弟と二人、何時もびくびく暮らしていたと言う。

 夫婦喧嘩が始まると、父親は家のものを片っ端から壊し出すそうだ。

 それなりの企業勤めをしていた父は、また直ぐに壊した物を買い揃えるらしく、家の中は何時も新製品で溢れていた。

 そんな中で暮らしていた麻須美は、お店で酔っ払いが多少暴れても動じないのだと言う。

 暴れる父の行為がトラウマになったのではなく、それに比べれば何でもなく感じるそうだ。

 それだけ、父親の暴れ方は凄まじかったのだろう。

 麻須美の両親も、未由と同じ頃離婚したらしい。

 未由と麻須美が最初に弾んだ会話は、親の離婚話だったほどだ。

 中学を卒業して直ぐに、麻須美は東京へ出てきた。地元で知り合いだった人が、池袋に店を構えて、それを伝に仕事にありついたのだと言う。

 二つ歳の離れた弟も、今は家を出て高校の寮に入り、浦安で暮らしているそうだ。

 女友達とは言え、そこが、長谷部とは違う所だった。

「ああ、ごめん、今日は約束があるんだ」

「えぇぇ、未由。さては男できたな」

「そんなんじゃないけど」

「じゃぁ何よ。誕生日に親友の誘いを断る用事って」

 その時、未由の携帯が鳴った。

 鞄から取り出した電話に出る彼女の横で麻須美が

「ほら来た。男からの誘いだ。いいなぁ、いいなぁ」

 未由は笑いながら、麻須美が自分から離れるように手で押しやって

「もしもし」

「あ、俺」

 長谷部だった。

「ああ、今ちょうど授業が終わった所」

「どうする?」

「うん。大丈夫なんだけど………」

 未由は少しためらいながら「友達も一緒じゃダメ?」

「友達?」

「うん。学校の友達なんだけど」

「別にいいよ。今日は未由の誕生日なんだから」

 長谷部は何もためらわずに言った。

 長谷部の電話の向こうで、「やったぁ」と言う声が小さく聞こえた。

 横で会話を聞いていた麻須美の声だ。

 長谷部は思わず笑いながら、時間と待ち合わせ場所を決めて電話を切った。

「ほんとにあたしも行っていいの?」

 電話を切った未由に、麻須美が言った。

「もちろん。別に彼氏って訳じゃないから」

 未由は電話を鞄に仕舞いながら

「それにあんた、今日わざわざ仕事休みにしてくれたんでしょ」

 そう言ってから歩き出した。

 未由は、麻須美がそういう娘だと言う事を知っている。だから親友でいられるのだ。

 麻須美が食事に誘ってきた時点で、彼女が今日わざわざ仕事を休みにした事はおのずと予想がついた。

「へへぇ、さすが未由、よく判ったね。超能力でもあるんじゃないの?」

「あんたの考えなんて簡単にわかるよ」

 2人は江古田から電車に乗って、待ち合わせの練馬へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ