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秋時雨  作者: 徳次郎
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プロローグ

このお話の主人公相楽未由は、超能力を持っています。しかし、それは非常に些細な能力で、日常に掻き消されるほどのものです。ラストまでは…

 大通りの交差点で彼女は信号待ちをしていた。

 大通りと言っても、都心から少し離れたこの道は、昼間は意外と空いている。

 しかし、だからと言って、歩行者信号を無視して渡れるほどではない。

 相楽未由は横断歩道の向こう側で信号待ちする少年が気になっていた。

 ランドセルを背負っているが、身体が小さい為、まるで大荷物を背負っている行商のようだ。

 彼は、ランドセルから取り出した、ゲームボーイで遊んでいる。確かに歩道から出ている訳でもないし、近くに自動車の出入り口があるわけでもない完全な安全地帯だ。ただ、周囲の状況を一切遮断したような行動が、未由から見て不安だったのだ。

 未由の横には髪の半分白いオジサンと、サラリーマンらしいスーツの男性が二人いた。通り向こうの少年の周りには、行き交う人が2〜3人。

 その時、車が一台交差点に差し掛かった。

 どう言うタイミングで行けると思ったのか、右折待ちをしていた車が動いた。

「ぶつかる!」

 未由でなくても、明らかに判っただろう。

 未由は、あの少年に視線を移した。

「やっぱり……」

 目の前で車がぶつかる。その瞬間も、男の子はゲームに夢中だった。

 未由は目を凝らして少年の手元を見つめた。

 男の子の手からスルリとゲームボーイが抜け落ちて、歩道を転がった。

 男の子があわてて追いかける。

 四角いゲームボーイがまるで野球のボールのように何処までも転がった。

 その直後、凄まじい音が響き渡り、男の子が振り返ると、衝突で弾かれた乗用車が横断歩道のたもと、ちょうどさっきまで彼がいたその場所に突っ込んで来た。

 男の子は、思わずゲームボーイを掴む前に、自分も転げてしまった。

「ふう。危ないよ……」

 未由の額を汗が伝った。

 事故車の周りには、瞬く間に人が集まって、直ぐに救急車を呼んでいるが、重傷者はいないようだったので、未由は青になった横断歩道をそのまま渡った。

 男の子は通りかかったオバサンに起こされて、怪我は無いか聞かれていたが、何でも無い様子だ。

 未由はその横を通り抜けて、学校に向かう前に、CDショップへ向かった。

 相楽未由18歳。彼女は定時制高校へ通う、ちょっぴり訳ありの普通の女の子だ。



「未由!」

 同級生の豊崎麻須美が後から駆けて来て、未由の身体に絡みついた。

「麻須美、またクマでてるよ」

 未由が麻須美の頬をつついて笑った。

「そうなのよ、寝不足でさぁ」

 麻須美は少しだけ悩ましげに言う。

 彼女は寝不足が続くと直ぐに目の下にクマができるのだ。

「よう」

 高瀬敦が声を掛けて来た。

「あれツトムくん、今日は早いね」

 麻須美の言葉に彼は「ああ、今日はたまたま仕事が少なくてね」

 高瀬敦は親の建設事務所を手伝いながら、夜間高校へ通っているのだ。

 彼だけではなく、夜間高校へ通う連中はみな何らかの理由を抱えて、全日制へ通えない人たちだ。だから、生徒の年齢も様々で、鈴木麻須美は未由と同じ18歳だが、高瀬は今年21歳になる。しかも、未由たちより学年が一つ下なのだ。

 定時制は、大抵の場合4年制である。未由と麻須美は4年生だが、高瀬はまだ3年生だ。

 校舎はいたって普通。昼間は全日制の生徒が通う、ありふれた学校だ。

 ただ、定時制の生徒が利用できる教室は決まっている。

「あぁあ。運動会の準備なんて、めんどくさいなぁ」

 麻須美が呟いた。

 定時制も、全日制同様に学校行事があるのだ。年の離れた者同士が集まって行う行事は、サークル活動に似ている。

「しょうがないよ」

 未由は笑って麻須美の肩を叩いて「でも、半分くらいしか出ないらしいよ」

「あたしも出たく無いけど、体育10単位は大きいよね」

 運動会や遠足のような行事は、体育の単位に含まれているだ。

未由は、夕映えにぽっかりと浮かぶ雲を見上げて

「さ、今日もがんばろ」


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