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ギルド最強の孤高の剣士は、ぽやぽや受付嬢にご執心  作者: 工藤 でん


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休日を共に 2

最終的にガルドバスが討伐した魔獣は五十九体。ヒュージブル以外の魔獣も混ざっていたが、ほとんどが巨大な牛であった。

 これはEランクどころか、Cランク級の討伐依頼内容だ。ランク査定が甘かったようである。


ガルドバスは特大の空間魔法がついたカバンに、討伐した魔物を入れて持ち帰ってきた。

通常、D・Eランクの冒険者の収入では空間魔法付きのカバンなど高価で持てない。そのため、高く買取される角などの素材や、持てるだけの肉を持って帰るものだ。だが、Aランクのガルドバスである。討伐した魔物を丸ごと全部持ち込んできたのだ。村長の誤算であった。


 結局魔獣は、リエソン村にある倉庫に血抜きをしつつ仕舞われていった。村の男衆の仕事は、防護柵作りから魔獣の血抜き・運搬作業に切り替わっていた。倉庫には急遽、冷蔵機能のついた魔道具が取り付けられている。早くしないと傷んでしまうので、しばらく村人総出で魔獣の解体と保存作業に忙殺されるだろう。


魔物はすべて村が買い取ったので、リエソン村はしばらく牛肉に困ることはなくなった。肉を加工して近隣に売りに出せばかなりの金額にもなる。きちんと処理された角や皮も高く売れる。何より討伐費用が格段に安かった。ガルドバスは本当にEランクの討伐費用しか受け取らなかったのだ。

ガルドバスによるにわか景気が、リエソン村を訪れていた。



 剣を洗いたい、というガルドバスをミノンは実家近くの井戸へ連れて行った。戦闘で使った剣は早めに専用の薬剤を希釈した液体で洗った方がいいのだそうだ。魔獣の持つ魔素が剣の性能を下げることがあるという。


ガルドバスが汲み上げ井戸を慣れた手つきで扱う様子を、ミノンは珍しいものを見るように眺めていた。

 ギルドのエースである『狂剣のガル』が、うちの古い井戸使ってるー。変な感じー。


「ガルドバスさん、ありがとうございました」

「あ?」

「魔獣を討伐してくれて。あんな数の魔獣に襲われたら、村はぐっちゃぐちゃになってました」

「ああ」

「あの、どうして討伐依頼受けてくれたんですか。報酬も低いのに」

「……村の連中もそんな事言っていたが。

 逆に見過ごす方が、気分悪くないか?」


 ガルドバスは鞘から愛刀を引き抜いた。大剣だが、一般的に大剣と呼ばれているものより細身なものである。刀身が細身なのは、取り回しの速度を上げるためだ。

通常の大剣は斬るというより剣でぶん殴るような使い方をするが、ガルドバスの剣は斬るためにある。刃は鋭く研ぎ澄まされて硬質に光っていた。ガルドバスはそこに丁寧に薬液をかけていった。


「村があって魔獣が出て困っていて、たまたま魔獣を狩るプロの俺がいたんだから、狩るのは当然だろう」

「でもですね。ガルドバスさんは高ランクの冒険者さんですから。高ランクの報酬を請求してもいいですよね」

「それ、ぼったくりって言わないか? 仕事としてはEランクの仕事しかしてねえんだ」

「うーん? でも皆さん、それが当たり前だと思ってますよ?」

「その皆さんの方が、どうかしてるだろ」

 

間違ったこと言ってるか、とガルドバスはなんでもない事のように言う。


 ミノンは丁寧に剣を拭いているガルドバスを盗み見た。先ほど五十九体の魔獣を討伐してきた男は、いつものように冷酷そうな圧が出ているが、いつもより凪いでいるように見えた。剣の刃先を確認している姿は道具を扱う職人のそれで、仕事終わりに仕事道具を手入れしているベテランの姿だった。


 あとな、とガルドバスは空を見上げた。眩しそうに、黒い瞳を細くしている。晴れ渡った青い空に、ちぎれたような雲が幾筋か流れていた。


「この村、駆け出しのころに来たことがあるんだ。やはり魔獣の群れの討伐で。その時俺は、何の役にも立てなかった」

「ええ? 『狂剣のガル』が?」

「俺だって初めからこうだったわけじゃねえ。しかもあの時は俺だけ怪我をした。勇み足で連携の確認もせず突っ走ったから」

「今のガルドバスさん見てると、信じられないですねえ」

「バカみてえに突っ込んで行ってたからな、実力もねえくせに。

 まあ、今日はあの日のリベンジみたいなもんか」

「ガルドバスさん……」


穏やかな口調のガルドバスは珍しい。ミノンは改めてガルドバスを眺めた。やっぱり風格や威圧感は半端ないし、パッと見ガラが悪くて近寄り難いのだけれど。


ガルドバスが普通の人に見えていた。初めてのことである。

今までどちらかというとバケモノの枠に入れられていた彼氏だが、どうやら普通に人間で、しかも結構真っ当な部類だ。雰囲気も目つきもめちゃくちゃ怖いけど、言っていることはいたって普通。それどころか、そうありたいと思えるほど、理知的で常識的。


 ……こういう人が、私を選んでくれたんだ。


 唐突にそう思って、ミノンはあれえと首を傾げた。

身体の真ん中が、もぞもぞする気がした。ガルドバスを見ていると、ますますもぞもぞしてくる。たまらずに、身体をぐねぐねしてしまった。なんだろうこれ。くすぐったいな。

もぞもぞ、もぞもぞ。


 そういえば、とガルドバスがふっと息を漏らした。

 見てなかったけど、今の。

 ……笑った?


「当時、俺は怪我して動けなかったから、この家の近くでうずくまってたんだ。討伐隊の連中は、村から感謝の宴みたいなの開いてもらってていなくてさ」

「宴、参加しなかったんですか」

「できねえよ、かっこ悪い。イキってたくせに一人だけ怪我して恥ずかしくて。回復ポーション使ったとはいえ、まだ傷も痛えし。すぐにでも帰りたいのに一人じゃまともに歩けもしねえ」

「ありゃー」

「そんな最悪な気分の時に、蜂蜜色のふわふわした髪のガキが俺んとこ来たんだ。後ろで親が見てたから、気を使った大人が俺んとこにガキを寄越したんだろ。蜂蜜色のガキはにっこにこしながら『おにーちゃん、ありがとー』って、菓子をくれた。

……あれ、おまえ?」


 ……ミノンはもちろん覚えていない。

だが、村長が言うことには、以前魔獣が出たのは十三年前。当時ミノン、五歳。この村でふわふわの蜂蜜色の髪しているのはミノンとミノンの父親だけで、ミノンは子供の頃から人見知りを全くしない。


……私だ。

 ずっと小さいころに、私はガルドバスさんと会っていた。知らぬ間に会話を交わしていた。


うわあと動揺しながら、ミノンはガルドバスを盗み見た。やはり少しだけ笑っているような気配がしていた。


「な、なななんで私だと」

「おまえ、誰にでも躊躇いなく話しかけるの得意だろ。ギルドの職員で俺にまともに話しかけてくるのは、ギルド長とおまえだけだ」

「でも!」

「あの蜂蜜色のガキと出会ってから、蜂蜜色は俺にとって雪辱と賞賛の象徴だ。二度とミスを犯さない戒めと、俺なんかでも誰かの役に立つことがあるって自信と。多分そういうのぜんぶ引っ括めて、昔はよく、夢に蜂蜜色のガキが出てきた」

「……ガルドバスさん」

「最近は、リアルで会えるようになったがな」


 うわー、とミノンは両手で顔を覆った。

 こんな偶然って、あるの。

 こんな小さな村で会ったことのある二人が、違う街の一角で出会うとか。しかも付き合いだすとか。

 ガルドバスの様子を窺うと、彼はすでに確信に至っているようだった。いつもよりほんのりと、口角が上がっていた。ガラの悪いのはそのままだけど、気を緩めているのが分かる。それがミノンの前だから、と思うと、胸のもぞもぞが強くなった。


 このもぞもぞが、自分の鼓動が早くなったからだと気づいたミノンは、ハッとした。

親友の、自称・恋の戦士が言ってたよね。 彼氏ができると、ウッキウキになるんだよ、って。

 もしかしてこれが、彼氏ができてウッキウキ現象? ついに私にもウッキウキが訪れたの?


 でも、ちょっと違う。

彼氏ができてウッキウキ、ではない。そういう感じじゃない。これはちょっと、違う感じがする。

 私の今の気持ちを、正確に表すなら。

そうすると、これは。


 ――自分の彼氏がガルドバスさんなのが嬉しくて、ドキドキ。


 うわあ。

うわあああ、なんだそれ!

 浮かれてるよお。

 浮かれすぎだよ、はしゃぎすぎだわ。

 恥ずかしい。恥ずかしいけど……。


 私、ガルドバスさんが彼氏で、嬉しいんだ。

 私ってば、ガルドバスさんの彼女でウッキウキで、私を選んでもらってバックバクで、嬉しくてドキドキしてる。

 でも言えない。そんなの本人には絶対言えない! だって恥ずかしすぎるでしょ!


 ミノンの内心の大騒動に全く気付かず、鞘の中にも薬液をじゃぶじゃぶかけているガルドバスに、ミノンは尋ねた。


話題を変えよう。なんだか余計な事言いそうだし。ガルドバスさんが何考えてるのか、気になってしょうがないし。

だから、考える前に口が動いていた。


「あ、あの! あんなにたくさんの魔獣を討ち漏らさないって、どうやるんですか? 魔獣だって逃げちゃいますよねー」

「ああ。わりと簡単。

魔道具で、魔獣を寄せる香があるのは知ってるか」

「ギルドでも扱ってますー。吸魔香、ですね。半径一キロ以内にいる魔獣のヘイトを集める魔道具です。魔獣を一か所に集めるのに有効な」

「通常の三倍量を使った」

「へっ?!」


ミノンは驚愕してガルドバスから距離を置いた。魔獣を集める魔道具、三倍量使用。あれは、かなりな劇薬で、短時間ながら効果が高い。ガルドバスが帰ってきたとき香ったのは、その臭い。

ガルドバスはなんでもない事のように平然としながら、剣を鞘に納めた。


「普通は地面に置いて使うが、小さな鉄のカゴに入れて首からぶら下げとけば、俺がどこにいようと魔獣の方からやってくる。かなり楽」

「それ、ダメなやつですよお! 禁止されてる使い方です! 冒険者ギルドの研修会で言ってました!

どこから襲われるかわかんないし、徹底的に魔獣に追いかけられる、危険な行為です。予定外の魔獣まで引寄せることもあるんです! 絶対やっちゃダメなやつですからあ!」

「うるせーな。効率が一番いいんだ。ただ、身体に臭いが付くのだけが難点だ」


 ガルドバスは自分の肩を嗅ぐようなしぐさをした。装備には洗浄・防臭機能もついてるんだが、まだ臭うか? などと言っている。

 

 いや、自殺行為のような魔道具の使い方して平然としている、あなたの方がおかしいってば……。

 


 やっぱりミノンの彼氏は、まだバケモノ枠の中かもしれない。



化け物級の戦闘力の持ち主であるガルドバス、実はかなり常識的。


昔話のミノンちゃんは、ガルの中では天使みたいに見えていたことでしょう。いや、今も?

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