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ギルド最強の孤高の剣士は、ぽやぽや受付嬢にご執心  作者: 工藤 でん


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ガルドバス

強すぎる剣士、憧れますよね。

その恋愛事情に突撃。

 『狂剣のガル』

という二つ名を上げれば、あのギルドのあいつだと、冒険者の間ではすぐに分かる。最強で最恐。数多い冒険者の中でも圧倒的な迫力でその存在を知られる男だった。


そんな、実力者として崇敬されているガルドバスが、ある日ギルドに衝撃を与えた。

蜂蜜色の髪をしたぽやぽや新人受付嬢に、ガルドバスは鋭い眼差しを突きつけていた。



「……ミノンおまえ、彼氏いないな」

「いないですー。生まれてこの方いたことないですー……って。

……なんでまた、そんなことを?」

「俺と付き合え」

「……!!」

「恋人として付き合えって言ってんだ」

「……っ……っ……!!!」

「……?

 ……聞いてるのか。何とか言え」


爽やかな日差しの降り注ぐ、とあるギルドの朝。

ガルドバスによる公開処刑……じゃなかった、公開告白に、ギルドの空気は震撼したのだった。



◇ ◇ ◇



この街にはいくつか冒険者ギルドがある。その中でも、高難易度の依頼を確実にこなす冒険者として、必ず名前が挙がる男、それがガルドバスである。


パーティには所属せず、ソロ活動でAランクに駆け上った強者だ。凄まじい攻撃力と耐久力を備えた剛腕の冒険者で、実力は頭一つ抜きん出ていると、誰もが認める男だった。


 そういう剣士だから、所属ギルド『愚者の頂』に彼が入ってくるだけで、その場の空気は変わってしまう。ただそこにいるだけで、抜き身の(やいば)を突きつけられるような緊張感を持つ。和やかにわいわいしていた冒険者たちの間に、緊張で張りつめた空気が流れた。誰もが真っ当に目を合わせないようにするものの、その存在感に目を向けずにはいられないのだ。


『狂剣のガル』こと、ガルドバス・レイは、周囲で錯綜する視線を気にもせず、いつも通り壁に取り付けられた依頼ボードに目を通していた。難易度の高い依頼はボードの高所に貼られるため、彼の下顎も心持ち上を向いた。鋼色の髪でスッキリとした容貌は端正なものだが、それを台無しにするほど目つきが悪い。黒い瞳の眼光は、とにかく鋭く、重かった。



そんな緊張感のあるギルドのロビーに、「あわわわ、いらしたです、いらっしゃったですー」という、間の抜けた女性の声が聞こえてきた。近づいて来たのは、小柄な体に冒険者ギルドの制服を身につけた若い女の子だ。蜂蜜色のくせ毛が、賑やかにガルドバスに向けてぺこりと下げられた。


「ガルドバス・レイさん、おはようございまーす」

「……ミノンか」

「わあっ、いきなり睨まないでください。怖いです」

「睨んでない。

要件は」

「ガルドバスさんに、指名依頼が入ってますよー」


蜂蜜色の髪と瞳の受付嬢ミノンは、冒険者ギルド『愚者の頂』に入った新人職員である。

ぽやぽやした若いミノンは、良くも悪くも空気が読めない子だった。ガルドバスの放つ威圧感にも気付かない。毎度ガルドバスのキツすぎる目を見てから、ぎゃーこわーい、となっている。


ギルド職員の誰もが、冷徹な空気を纏うガルドバスとの接触を避けたがる。何もしてなくても雰囲気が怖い人なのだ。とにかく見た目のガラが悪い。依頼の手続きをするために相対するだけでも、普段かいたことのない汗が出てくる。

ということで、最近はミノンがガルドバスの専属のようになっていた。


ミノンが手渡した依頼書にガルドバスは目を通した。内容に軽く眉をひそめている。お気に召さない依頼なのだろう。ガルドバスの周囲の気圧が低下した。気のせいか気温も下がった気がした。周辺にいた冒険者たちが、びびって三歩ほど後ずさったほどだ。


「……Sランクパーティ『黒豹の牙』の、助っ人依頼か」

「Sランクの依頼で、厄介そうな案件みたいでー。『狂剣のガル』の力を借りたいと」

「こっちはソロでやってんだ。あいつら、そろそろ察しろ」

「ありゃ、お知り合いですか」

「俺への依頼は三度目。同じギルドでトップ張ってんだ。知り合いくらいにはなる」


それどころか、ガルドバスは『黒豹の牙』から熱烈に入団を希望されている。暑苦しいくらいに勧誘されている。おかげでますますガルドバスの心証は悪くなっているのだが。


リーダー以下五人のメンツの顔を思い出して、ガルドバスは重いため息をついた。血の臭いがするようなため息である。今、ガルドバスの脳内で『黒豹の牙』は討死したな、とミノンは悟った。


「……まあいい。面白そうな依頼も出てねえし。その依頼、受ける」

「そうですかー。よかったですー」

「で、終わったら、奴ら一人ずつ絞める」

「こ、殺しはよくないと思いますー」

「じゃあ、捻る」

「どっちにしろ、死んじゃうんじゃないですか?

では、依頼受諾の手続きをあちらのカウンターで……」

「ああ、そうだ。ミノン」

「はいですー」

「お前に話がある」

「なんでしょー。ギルドの裏にできた新しいお菓子屋さん情報なら、もうゲットしてますけど」

「そんなん知るか」

「知らないんですかー。ココナッツの入ったクッキーが絶品なんですよお。ザクザクなんです、ザクザクー」

「真面目に聞け」


ガルドバスは冷え冷えとした黒い瞳でミノンを見下ろした。冒険者ではないミノンは、殺気など感じたことは無い。だが、これがもしかしたら殺気かなあと、貼り付けた笑顔のまま思った。なんか、ぴりぴりする。


「ミノン」

「は、はいー」

「……ミノンおまえ、彼氏いないな」

「いないですー。生まれてこの方いたことないですー……って。

……なんでまた、そんなことを?」

「俺と付き合え」

「……!!」

「恋人として付き合えって言ってんだ」

「……っ……っ……!!!」

「……?

 ……聞いてるのか。何とか言え」


何を言われたのかすぐに分からなかったミノンは、言葉を咀嚼し飲み込むまで、しばしの時間が必要だった。そして、ガルドバスから発せられた真っ直ぐで低音な愛の告白が怖すぎて、そのまま膝から崩れ落ちた。怖い。マジで怖い。


私、死んだかな。なんか意識がハッキリしない。

石の床に手をついて、ミノンは心神喪失からゆっくりと復活した。床についた、手が冷たい。冷たさを感じるということは、かろうじて生きてるようだ。

 私、まだ生きている。


死ななかった、けど、これって死刑宣告だろうか。交際を断ったら死ぬやつか。それとも付き合ったら死ぬやつ?

いや、そもそも恋人になるのって、こんなに命がけのものだっけ? あれ? 世間で語られる、『きゃっきゃうふふ』な告り告られって、こんな大量の冷や汗出るんだっけ……?



ギルドはしんと静まり返っていた。周囲の人間たちは、息を飲んで遠巻きにこの現場を見つめていた。そして、誰もが思った。


 これは、事故だ。

 ガルドバスが起こした、理解不能な事故である。ミノンは悪くない。ミノンは事故に巻き込まれた被害者だ。

ただ誰一人として、被害者救済の手立てがいっこも思い付かなかった。



それよりも、彼らはここに居合わせた偶然に感謝していた。おそらく、世界で一番恐ろしい愛の告白だった。告った方も告られた方も今だに凍結したままだが、確かに愛の告白だった。あれを目の前でリアルで見てるだなんて、なんてラッキーなんだろう。


すげえ、の見た。

こんな怖い告白、初めて見た。

あの『狂剣のガル』が、孤高の最強剣士と呼ばれた男が、ぽやぽやしたギルドの女の子に、衆人環視の中ガチ告白。しかも相手は膝砕けてるし。それを見下ろすガルドバスの視線は、魔王のそれだし。


こんな衝撃エピソード、誰かに話さずにはいられない。今すぐにでも、誰かれ構わずぶちまけたい。面白おかしく話したい。

なあ聞いてー、たった今ギルドですんげー告白があってさー……



その後、ギルド『愚者の頂』では、疾風のごとく『狂剣のガル』の愛の告白の噂が、広く飛び交ったのだった。




 

全七話でお届け予定です。

毎日投稿します。


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