1話「ようこそフィオスデーラへ」
「……はぁ!?」
「おっと反応がよろしい」
目の前のネズミの耳を持つ男は何を言っているのだろうか。そもそも人外もそのフィオスデーラとやらも全て意味がわからない。
「…いや…いやいや……ちょっと整理させてくれ…」
「ごゆっくりどうぞ?」
たしか俺は手紙を届けようとして変なところにあった小屋に行って得体の知れない空間に吸い込まれてはずだ。
…吸い込まれた?
「そういえばさっきの扉は!?」
「うん?もしやそこのことかい?」
そこと指された場所を見ればただの木製の壁に窓が付いているだけだった。
扉が無くなっていた。つい先程まであったはずの扉が。
信じられずに立ち上がり、窓へ近づいた。
「…なんだこれぇ!?」
そこから見える景色は知っているものとは全く違っていた。先程のネズミ男のような、動物の耳と尻尾を持った人たちが歩いていたり、空には神話でしか見たことがないドラゴンのような生物が飛んでいたりと現実にはありえないような光景が広がっていた。
「君、すごい反応面白いね」
「ずっっっと笑ってたなそういえば…」
後ろで笑いすぎからか目元に涙を滲ませそう言った。こちらは全く面白くないのだが。
「とりあえず落ち着きたまえ。知りたい事はたくさんあるはずだからね」
笑いの波が収まったのか、近くのテーブルと椅子があるところに促される。俺はほんの少しの警戒心を交えながら椅子に座った。
「まず、何から話そうかな。何が知りたい?答えられる範囲で答えよう」
「…とりあえず、ここどこなんだ?…あとチュアって人に手紙を渡したくて用があった……あれ?手紙は?」
思いついた疑問を投げかけつつ、鞄から手紙を出して見せようとしたが、どこを漁っても見つからない。ここに投げ出された時に落としたのだろうか。
「手紙はこれのことかい?」
目線を向けると男の手元に見せようとした手紙があった。個人の情報を見られてはいけないとテーブル越しに手を伸ばす。
「それ!ちょっ返してくれないか!?」
「ふっあははは!すまないね、礼儀がなかったかな」
一頻り笑ったあと、自己紹介をさせてくれといい、持っていた手紙の宛名の文字をこちら側に向けた。
「私はチュア・ミアンディ。どう呼んでくれてもいいよ」
「チュアって君のことだったのかよ…!?」
驚いたかい?と伏せがちの目を細めながらこちらを見てくる。笑うんじゃない。
とにかく手紙本人だったらしいことがわかり、安堵感からドカッと椅子に座り直す。
「はあぁああ……早く言ってくれそれ…」
「失礼失礼。反応が面白そうだったからついね」
「"つい"でやるな?…俺はムーン・ライカー。よろしく」
相手が自己紹介したなら俺もと思い、簡単に名前だけを言う。
「よろしくね、ムーンくん」
やっと目の前の男の名前が分かったところだが、まだまだ分からないことはたくさんある。
「そういえばまだここがどこか教えていなかったね」
曰く、ここはチュアさんの家らしい。2階で物音がしたから見に上がってきたところ、俺が転がっていたとのこと。
「さて、簡単にいえばこんな感じかな。あとは師匠かガーネルドさん辺りに聞けば分かると思うよ」
「まさかそれだけか!?あと誰だそれ!?」
「"答えられる範囲で"だからね。まだあれば答えよう」
この男に会ってからというもの、ずっと手のひらで転がされているような感覚がする。それは俺が特異な存在だからなのか、それともただ単に好奇心から来るものなのかは分からない。
「実はね、君がいつかここに来るというのは知っていたんだよ」
「へぇえ"…??」
「ふふ、すごい顔だ」
あと聞けることはあるかと悩んでいるとチュアさんから衝撃の一言が放たれた。おそらく俺の目は文字通り点になっているだろう。
「私は先程言った2人から伝えられてね。詳細はその2人に会って聞いてみるといいよ」
細い尻尾を揺らしながらフィオスデーラの事もそこで教えてくれるはずと言った。
「はぁ………じゃあその人たちまで案内してくれないか…」
これ以上話してもあまり情報は得られる気配は無いと思い、せめてもチュアさんの言う人たちまでの道案内を頼めないかと申し出る。
「もちろん。早速出掛けるかい?」
「早すぎだろ少し待ってくれ?」
急展開を広げられつつ、ここに来た衝撃で脱げてしまった帽子と床に置かれていた箒を持って出掛ける準備をした。
「準備出来たかい?なら出発しようか」
そうして俺はチュアさんの案内で師匠と呼ばれる人とガーネルドと呼ばれる人の元まで向かった。
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外に出ると先程窓から見た光景が俺の目線の高さで映る。石畳調の道に沿って様々な家が建っており、俺の目に映る限りでは活気付いているように見えた。
それと新しく分かったことがもう一つ。
「あっチュアさん!今日マジック見せてくれる?」
「おやこんにちは。今はお客人の案内をしているから今日は難しいかな」
「えー残念……じゃあまた今度見せてね!えっとお客人?もまたねー!」
「気をつけて行くんだよ」
チュアさんが子供を中心に人気があること。最初にチュアさんが動物の耳がついた子供たちに囲まれた時は信じられないと言うような目で見ていた。
「…意外と人気?なんだな…」
「まぁこう見えて私はマジシャンなんだよ。子供大人種族問わず驚かせたいからね」
「あぁそれでマジックとかショーとか言ってたのか…」
チュアさんが話す度知らない事実が出てくる。それはこの人の説明不足から来るのか、それとも元来の性格故なのか。
「さて、かなりかかってしまったけどここだよ」
「…広すぎないか……??」
そう言われて目を向けた先は他の建物と打って変わって煌びやかな装飾が施された屋敷のようなものだった。下手すれば俺の世界の上層部の家より大きいかもしれない。
「ここは所謂役所のような存在だからね。もしかしたら今後も来ることがあるかもしれないよ?」
「行きたくなさすぎる…」
俺が来るには分不相応すぎる。ましてや今だって突然の訪問に応えてくれるのかどうかすら危ういかもしれないというのにだ。
「大丈夫だよ、私に付いてくれば問題ないさ」
本当かどうか定かではないが今はその言葉を信じるしかなく、頷く他なかった。
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『ガーネルド様に御用ですか?現在テイト様と執務室にいらっしゃいます。』
外見に寸分違わない建物内の廊下を進み、受付人に言われた執務室とやらに辿り着いた。
するとチュアさんが扉の前に立ち、コンッコンッとノックをする。
「師匠、ガーネルドさん、チュアです。今日は顔合わせしてほしいお客人がいまして」
短く用件を言うと、扉の向こうから入れとの声が聞こえた。チュアさんは一礼をした後扉を開け俺に入るよう催促する。
「し、失礼します…」
「お?君がチュアの言うお客人か?」
そこにいたのは、深緑の長髪を持つ人と白銀の色をした癖のある髪を持つ人だった。
駄文をお読みいただきありがとうございました。誤字などの訂正や、もし評価などありましたら教示いただけますと舞い上がります。
(前回から期間が空いてしまい申し訳ございません…おそらく次も空くかと思いますがご了承いただけると幸いです)




