プロローグ
ピピッ…ピピッ…ピピッ…
灰色の煙が蔓延る曇天の空が明るくなり始め、少しずつ街から金属製の音が反響して聞こえる頃。
部屋に自分が設定した時刻を知らせる電子音が響く。
「…ん"ん"……ゔぅ…うげ、もうこんな時間……」
アラームを止め嫌々ベッドから起き上がり、固まった筋肉をほぐすために伸びをする。
この後にある郵便屋の仕事ために軽く食事を済ませ、仕事着に着替えていく。
5年も経てばそれなりにこの生活を送るのも慣れていた。
「よいしょっと…鞄良し、荷物良し、上着良し、帽子良し」
忘れ物がないか念入りにチェックしていく。郵便屋という職業柄、こういうのは意外と重要なのだ。
「…父さん、母さん、いってきます」
そう言っても返ってくる言葉はない。それもそうだ。話しかけた先にあるのは父と母が写っている写真しかないのだから。
今の俺には親がいない。5年前に事件に巻き込まれて亡くなったと上層階級のお偉いさんから、遺品である懐中時計を渡されたとともに告げられた。運がいいことに比較的裕福な家庭だったからか父と同じ郵便屋という仕事を教えてもらい、何とか稼ぎを得ている。
今思えば、何故その事件のことを知っているのかとか犯人はどうなったのかとか、色々疑問があるにはあるが。
まぁ、身の上話はここまでとして。
「今日もよろしくな、相棒」
何の変哲もないこの箒が俺の乗り物だ。父と俺は物を浮かすという能力を持っていた。これは親と上層部の一部しか知らないため、人前でこの能力を使うことを禁止されていた。だがそれだと移動の時どうするんだという話になり、カモフラージュとして穂の根元の部分にエンジンを付けることに落ち着いた。
俺は懐中時計を首にかけ、安全のためのゴーグルを装着すると相棒の箒に跨った。手元に力を込め、重力に逆らう感覚を思い浮かべる。
ふわっと箒は宙に浮き、どんどん高度を上げていく。早朝でまだ眠る人も多いこの街を見下ろす視点はいつになっても少し気分があがる。
そこから職場に着き、自分の担当された区域に郵便物がないか確認していく。
「…今日はこれとこれが10番街通りで……げっ、確かこの手紙の住所めっちゃわかりにくいところじゃないか?時間的にここから行ったほうが良さそうだな…」
手紙や荷物に記されている場所を見ながら地図を用いてルートを考えていく。
「……よし、ルートはこんな感じでいいだろ」
落とさないよう郵便物を鞄に入れ、箒で移動しながら渡していく。
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「あとはダイガーさんのところだけかぁ、はあぁ疲れた……」
あれから郵便物を届けていき、残すところあと一つとなった。
「……ん?あっムーンじゃないか!」
声がした方に顔を向けると届けようとした本人がおーいと手を振っていた。
ダイガーさんは俺が小さい頃から知ってる数少ない顔馴染みの鍛冶屋の人だった。両親ともに仲が良く、今でもこうして挨拶してくれたり仕事道具をメンテナンスしてくれたりしてくれる。
「あれダイガーさん!外出てたんだ?」
「まぁ鍛冶に必要なもんを買い揃えようとしたところだ。ムーンはいつも通りか?」
「見ての通り仕事中、でもこれで届けるものは終わりかな」
そう言ってダイガーさん宛の手紙を手渡しする。
「宛先と名前合ってるか確認してな」
「お、俺宛か、ふむふむ……よし、合ってるな!」
いつもありがとうなとニカっとした笑顔でお礼を言った。この人の笑顔は見てる人もスッキリするような顔で嫌いじゃなかった。
「そういえや今日お前さん、誕生日じゃなかったか?」
「………あ」
言われてみればそうかもしれない。でも気にしなかった。1番祝ってほしかった人達はもうこの世にいないのだから。
「確かもう20になるんだったか」
「…まぁ」
「そうかぁ……ムーンは親父に似て強いと思うんだよなぁ、酒」
「……ははっ、そうだと、いいっすね」
父はよく休日に酒の匂いをさせていた。母は怒らないどころか自分も一緒に飲みたかったと嘆いたのを覚えている。俺が20歳になったら家族全員で飲もうという口約束も。
「そんな辛気臭ぇ顔すんな。めでてぇ日なんだし、今度飲もうや」
「……うん、ありがとう」
「…んな顔する暇あるならこれ届けてこい」
するとダイガーさんは1通の手紙を渡してきた。なんでも父から預かった物らしい。
「え"ぇ…?しかもここ……町外れにある山の中っぽくないか…?あと知らない宛名だし…」
「知らねぇけど、お前さんの20の誕生日にこれ渡しておいてくれとだけ言われただけだ」
俺は何も助けられねぇよとばかりに手を上げた。もうちょっとだけ情報が欲しかったとかは思ってない。
「じゃあ行ってみるかぁ…じゃあな、ダイガーさん」
「おう、元気でいろよ」
「ははっ、そっちこそ」
ダイガーさんに別れを告げ、渡された手紙に書かれている場所を目指すため移動していった。
___________
「なんてところにあるんだこの小屋……」
箒を向かわせ体感数時間。もう空は夜に差し掛かろうと赤い色をさせている。
着いた先は山の中に一つだけ建ってる小屋だった。
寂れていて朽ちている部分が多く見られるこの小屋に人が住んでいるような気配は感じられなかった。
でも住んでいたらという手前、形式だけでもと思い扉をノックする。
コン、コン
「すみませーん、お届け物でーす。どなたかいらっしゃいますかー?」
予想通り返事がない。ざっくりと見た感じだと投函口も無いため扉を開けてもらうか開けるしかない。
「宛先間違ってないかこれ……仕方ない、失礼してみるか…?」
ドアノブに手をかける。鍵が掛かっている様子はなく、ドアを引くと簡単に開けられた。
何の変哲もない部屋があるのかと思いきや、そこには真っ暗な空間が広がっていた。
「……な、んだこれ……?」
じっと見ていると吸い込まれるような黒い空間はどこか渦巻いている様に見える。
「…今日は、やめとこう、そうしよう」
ただならぬ雰囲気に背を向けて逃げようとした。
しかし、ゴオオオオオと何処からともなく…いや、あの黒い空間から逃がさないとでも言うように空気を吸い込んできた。
「はあぁ!!??えっちょっ、つよ、前進めな、ぐっ」
何とか耐えようとしても地面ごと吸い込むぐらいの強さに体感がぶれていく。
「うわ"あ"ぁぁああ!!!」
異常な事態に対応が出来ず、とうとう小屋の中に吸い込まれてしまった。
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「………ぅう"……ってぇ……」
どのくらい時間が経ったのだろうか。いつの間にか落ちていた意識が浮上する。
「すごい音がしたけども………おや?」
自分以外の声が聞こえたため、上体を起こしそちらに顔を向ける。
そこには薄紫色をした髪、そして本来耳にあたる部分にはネズミと思わしき同じ色の丸く垂れた耳がついていた。
「……ぇ」
「……ふむふむ、その箒と時計、そして手紙……なるほど、君があの人の…」
ぶつぶつと俺を見ながら独り言を言っている。何を言っているのかさっぱりわからない。
「まぁ、説明は後でしようか。とりあえず……ようこそ、人間と人外が住む"フィオスデーラ"へ」
駄文をお読みいただきありがとうございました。誤字などの訂正や、もし評価などありましたら教示いただけますと舞い上がります。
(連載とは書いてますが続かないかもしれないです…。ご了承の程を…)




