いつか真っ白に
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R15、残酷な描写ありは念のため。
遙は体をオレにすり寄せてくると、おねだりをする時のあの甘ったるい調子でこういった。
「あのね……お願いがあるの」
「いやだ!」
お願いなんかされてたまるか。
新しい男ができて、あっさりそいつに乗り換えたあげく、そいつに二股かけられたと知って狂言自殺した女だぞ。
「だいたいなんで俺のとこに来んだよ。新しい男のとこに行けばいいだろう」
「別に好きで来たわけじゃないもん。それに……啓くんにこの姿見られるのはちょっと恥ずかしいかな」
失礼な女だな。俺になら恥ずかしくないのか。
「でも、やっぱ。啓君に会いたいなぁってなっちゃって。ごめんね。だからぁ、お家まで連れて行ってくれない」
「馬鹿かっ、なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ」
とたんに頬にかじりつかれた。
「逆らうともっとするよわ」
「や、やめて……ください」
懇願してようやく攻撃が止む。そうさ、いつだって、俺は遥の強引なお願いにはかなわないんだ。
結局、日が暮れてから、俺は男の住む家に遥を連れて行った。まあ、もともとは俺の家なんだけどさ。
宅配便を名乗ると、疑う様子もなくドアが開いた。腹の立つほど甘ったるい顔が覗く。
……と、
やつは目を見開き、酸素の足りない金魚のように口をぱくぱくと開け閉めしだした。
俺は、その顔めがけて、遥を投げる。
「ほんとにお届け物だよ。はい。遥」
男は、喉からヒューヒュー言うような音させながら、両手をめちゃめちゃに動かしてそれを払う。足をもつれさせて転がった。
「ば、化けもの~」
這いずりながら部屋の中へと逃げていく。
その肩口にウジ虫が一匹、しっかり張り付いているのを確かめて、俺はドアを閉めた。
大事にしてやれよ。あんたにこの家をプレゼントしてくれた女の生まれ変わりなんだから。
それにしても化け物はないよなぁ。あんたと遥が殺して埋めたからこうなったのに。俺はウジ虫がうごめく自分の手をじっと見つめた。
でも、しばらくの辛抱だ。一年もすれば腐肉は腐り果て食い尽くされ、真っ白な骨だけになる。
その日のことをうっとりと思い浮かべながら、俺は埋められた庭の穴へと眠りに戻った。