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第8話「玉音と、静かな勝利」
第8話「玉音と、静かな勝利」
街に鐘の音が響いた。静かに、人々が足を止める。
「臣民たるアサヒ王国民に告ぐ──」
スピーカーから、国王ピロヒトの声が流れる。抑揚は乏しく、どこか現実味がない。
「本日をもって、我らは魔王軍との武力闘争を終結し……新たなる和平の道を模索することと相成った」
敗戦を意味する言葉は一切なかった。だが誰の耳にも、それは“終わり”の合図だった。
俺は路地裏の小さな居酒屋で、その声を聞いていた。
王国は、負けたのだ。
もうノルマも、装備弁償も、証拠写真もない。
レンヤは行方不明だという噂だ。
勇者制度推進局は、魔王軍によって再編されるらしい。
俺の居場所は、どこにもなかった。
……けれど、追い立てられることも、命令されることも、もうなかった。
「これで、ようやく自由になった……」
俺は呟いた。
戦場で得られなかったものが、敗北によって手に入った。
それは、
名誉ではない。
勝利でもない。
──ただ、自分で生きていいという権利だった。
(完)
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