4話 黒狼
黒狼の影
颯馬はギルドの掲示板の前で足を止めた。そこには、近隣の村で頻発する「黒狼の異常発生」の依頼が貼られていた。黒狼は通常、中級冒険者が討伐を請け負う相手だ。単体ならまだしも、群れで動けば初心者パーティでは手に負えない。
「村が襲われかけている、か…」
文字をなぞりながら、颯馬は思案する。危険はあるが、実戦経験を積むには絶好の機会だった。
決意を固めると、すぐにギルドで受注の手続きを済ませ、黒狼の被害にあっている村へ向かうことにした。
荒れ果てた村と黒狼の群れ
夜明け前、村に辿り着いた颯馬は、ただならぬ気配を感じ取った。
村の外れ、焼け焦げた柵の向こうに、黒狼たちの群れが蠢いている。その鋭い牙が月光を反射し、緩慢な動きの中にも確かな殺気が漂っていた。
「もう戦闘は始まってるな…」
視線を向けると、村の守りにあたっている数人の冒険者が必死に応戦していた。だが、状況は芳しくない。黒狼たちは素早く連携し、冒険者たちを囲むように動いている。すでに何人かは地面に倒れており、負傷して動けない者もいた。
「…これ以上は危険だな。」
颯馬は手をかざし、『鑑定』スキルを発動した。
黒狼(Lv.8)
HP:300/300
攻撃力:120
防御力:80
特徴:集団戦術、鋭い牙
黒呀狼(Lv.15)
HP:800/800
攻撃力:200
防御力:150
特徴:指揮能力、強化された爪
「なるほど…黒呀狼…親玉が群れを指揮してるのか。」
颯馬は静かに杖を構えた。
「まずは…群れを減らすか。」
彼は集中し、雷の魔力を杖へと込める。電撃が迸り、杖の先端に収束する。
「——雷槍。」
バチバチと雷鳴を纏った槍が、黒狼の群れの中心へと放たれる。
瞬間、雷光が弾け、地面にいた黒狼たちが悲鳴を上げる。数匹が即死し、残った者たちも感電して動きを鈍らせた。
「…よし。」
颯馬は短く呟き、さらに魔力を練ろうとした——その時だった。
突然、背後から猛烈な殺気が走った。
「——ッ!」
咄嗟に身を引くと、目の前を漆黒の影が駆け抜ける。黒狼の親玉だ。
鋭い爪が、颯馬のいた場所を切り裂く。地面が抉れ、土埃が舞い上がった。
「速い…!」
颯馬はすぐにカウンターの魔法を撃とうとするが、親玉の動きは止まらない。次の瞬間にはもう、牙が喉元を狙って迫っていた。
(避けられない——!)
覚悟を決めたその時——
ズバァンッ!
魔力で形成された矢が空を切り裂き、黒狼の親玉の胴体を撃ち抜いた。
「——!?」
黒狼の親玉は一瞬よろめき、距離を取る。颯馬もその隙に飛び退いた。
「へえ、やるじゃない。」
涼しげな声が響く。
颯馬が視線を向けると、赤いローブを纏った女性が、余裕の笑みを浮かべながら立っていた。
アイリスとの出会い
その女性は、長い銀髪をなびかせ、片手に杖を構えていた。
「助けてくれてありがとう。」
颯馬が礼を言うと、彼女は肩をすくめた。
「別に助けたわけじゃないわ。ただ、この黒狼の親玉…あなたに倒されるのは、なんだか悔しい気がしただけ。」
そう言って、不敵な笑みを浮かべる。
「私はアイリス。ちょっとした魔導士よ。」
特徴:才気溢れるが高慢な態度。颯馬に興味を持ち、挑戦的な態度を取る。
「あなた、なかなか面白い魔法を使うのね。まさか雷属性をここまで自在に操るとは。」
「君も、かなりの腕前みたいだね。」
「当然よ。」
アイリスは自信たっぷりに胸を張る。
「さて、どうする?この黒狼の親玉、私とどっちが先に仕留めるか競争する?」
彼女の挑発的な言葉に、颯馬は一瞬考えた後、軽く微笑んだ。
「それも悪くない。」
こうして、颯馬とアイリスの初めての共闘が始まった。