2話 剣聖
転生してから5年が経った。僕は元気な男の子に成長し、すっかりこの世界に馴染んでいた。昔、命を落としたときの記憶はほとんど薄れてしまっている。だが、この世界での生活は驚くほど快適だった。
僕の家は貴族で、代々「剣聖」と呼ばれる特別なスキルを持つ者が生まれ、家を支えてきた。その剣聖の力を持つ者は、戦の際に重宝される存在で、家の名誉も守られる。しかし、僕にはそのスキルがなかった。
その代わりに、僕は『鑑定』というスキルを持っていた。普通の人間が持つことのできない能力だ。このスキルを使うと、物や人の能力がひと目で分かる。最初はその力に驚いたが、だんだんとそれが普通になり、むしろ便利だと感じるようになった。
だけど、僕が持っている『鑑定』というスキルは、ただの「観察」に留まらず、どんなものにも隠された情報を引き出せる。これによって、僕は自分の能力を把握することができた。
僕が持っていたのは『賢者』というスキルだった。このスキルは魔法に関連していて、どうやら普通の魔法使いが持つものよりも遥かに強力な能力らしい。幼い頃からその力を使って、少しずつ魔法を覚えていった。魔法の使い方はまだ完璧ではなかったが、その潜在能力は間違いなくすごい。
けれど、僕が持っていないスキルがひとつあった。それは「剣聖」だ。家族の名誉を背負うべき存在として、僕の兄がそのスキルを受け継いでいた。兄は今でもかなり厳しく、時折冷たく接してくることがあったけれど、それも当然だろう。家のために「剣聖」としての力を持つ者として育てられているのだから。
僕は兄のスキルを鑑定したことがあった。
『スキル:剣聖』
剣術熟練度:100%
戦闘力:極限
特殊能力:剣の力が魔力を超える
そのスキルの詳細を見た瞬間、僕は少し悔しさを覚えた。兄は確かにこの家の柱としてふさわしい存在だった。しかし、僕にとっては、兄が持っているその「剣聖」の力は、どこか冷徹で無機質に感じられた。剣聖の力を使うことで戦うことができるが、どこか人間的な温かさを感じることは少なかった。
それに対して、僕は「賢者」として、魔法の力を使うことで誰かを助けることができるだろう。その力がどう使われるかに、僕の考え方が反映されるのだと信じている。
でも、兄が10歳になる頃、家で開かれる『鑑定の儀』の日が近づいてきた。僕の心は、少しずつ不安に包まれていった。というのも、その儀式では、家族や親戚の前で子供たちのスキルが公開されるのだ。そこで僕の『賢者』の力が知られたとき、兄はどう思うだろうか。僕が持っていない「剣聖」を持っている兄は、僕のことをどう思うのか。それが怖かった。
「鑑定の儀…」僕は、何度もその言葉を頭の中で反復した。
あの日、兄が「剣聖」の力を証明したとき、どんな反応をするのだろうか。おそらく、あたりが強くなるに違いない。僕のことを、もっと蔑むだろう。でも、僕には負ける気はしなかった。この力があれば、きっといつかは兄にも認めてもらえる。
「兄さん、待っててよ。」僕は小さく呟いた。
魔法に関する力が本当に強いなら、この家族のためにもきっと何かできる。兄に負けないくらいの力を身につけて、いつかは認められるはずだ。
そう信じて、僕は今日も魔法の練習を続けていた。