それは終わりか、始まりか。
処女作です。
人知れず書いておりますが、読んでいただければ幸いです。
──高天原家・本邸。
「朔夜、今日でお前を高天原家から追放する。」
高天原家の広間に響くのは父、高天原 夢幻の冷厳な声。彼の目は容赦なく、朔夜の存在そのものを否定するかのようだった。
「試練を乗り越えれないものにこの家を継ぐ資格はない。」
広間には陰陽師家筆頭の高天原一族が集まり、全員が朔夜を冷たい目で見つめていた。その中には、朔夜の許嫁として参内していた月詠雪奈もいる。彼女は視線を伏せており表情はうかがいしれない。
「……父上、どうかお待ちください!」
朔夜は震える声で叫んだ。だが夢幻の表情は変わらない。
「そなたの巫力はいつまでも上がらない。陰陽師筆頭としての役割を果たすに値しない。それは自身も自覚しておろう」
夢幻の断言に、一族の誰もが異論を挟まない。それどころか腹違いの弟、蓮は冷笑を浮かべ、わざとらしい溜息をついた。
「兄さん、それが現実だよ。これ以上、この家に迷惑をかけないでくれ。」
その言葉が、朔夜の胸に鋭く突き刺さる。蓮は10歳にして早々に陰陽道の一つ、火の陰陽道を発現しており
家族や周囲の期待は大きかった。一方で、どの要素も発現できず、陰陽師として初歩である召喚術ですらまともに発現しない朔夜は常に「家の恥」として扱われてきたのだ。
雪奈は、黙ってその場に座していた。彼女は高天原家と並ぶ名門、月詠家の長女であり、元々は朔夜の許嫁だった。しかし、朔夜の追放が決まると同時に婚約は破棄され、代わりに蓮との婚約が決まった。
それは家同士の取り決めであり、雪奈自身の意志ではなかった。しかし何事も言わずに家の決定を受け入れておりその心情は朔夜や他の高天原家の面々も伺い知れない。
幼い頃から雪奈は朔夜の努力を見てきた。天才ではないかもしれない。それでも、諦めずに修行に励む姿は心を打つものがあった。だが今、彼女は何もできない。
夢幻の宣告は続く。
「今日をもって、お前を高天原家から追放する。この家の名を捨て、ただの朔夜として生きよ」
その冷徹な言葉に、朔夜はうなだれるしかなかった。弟の蓮が冷笑を浮かべながら言い放つ。
「朔夜、さっさと荷物をまとめるんだな。この家の名は、僕が引き継ぐよ。」
朔夜が荷物をまとめていると、蓮が部屋に現れた。
「兄さん、この部屋はもう僕のものだよ。さっさと出て行け。」
蓮はわざとらしく金貨を数枚投げ捨てる。
「これで当分は生き延びられるだろう?感謝しなよ、無能者。」
「……蓮、お前……!」
朔夜の拳が震えた。だが、蓮は余裕の笑みを浮かべるだけだった。
「さあ、さっさと拾うんだ。お前みたいな無能者にはこれがお似合いだ。」
翌朝、朔夜は高天原家の門を出た。その背中には、一族の冷たい視線が突き刺さる。振り返ると、雪奈が静かに立っていた。
「……雪奈。」
彼女は一言も発せず、ただ彼を見つめる。その瞳には複雑な感情が宿っていたが、何も言わないまま立ち尽くしていた。
朔夜は拳を握り、前を向いて歩き出す。
「僕は必ず……見返してやる!」
そう叫び、彼は新たな一歩を踏み出した。これが、朔夜の物語の始まりだった。