第13話 定期テスト
「..まさ、広正!聞いてる?」
「ん、ああ、聞いてる聞いてる。」
怪訝な顔をされてしまった。最近疲れが溜まっているな。約2週間前、スターリー順位4位の柊彩芽に告白された。女の姿で。しかも拒否権なしに付き合わされた。そして次の日には、俺が通っていることにしたベガ学園の近くに家を用意された。拠点が増えると思えば悪くないが、最近毎日その家に押しかけられるからその都度その家まで行かないといけなくなっている。何が大変かって、女の姿になるのには変身を発動する魔力が必要なわけで、それを毎日長時間やらされたらそりゃ疲れるに決まっている。早々に対処しなければ。
「またぼーっとしてるけど、そんなんで来週の試験大丈夫?試験でもいい成績取るとポイントもらえるだとかクラス昇給もあるだとかでみんな気合入ってるから点数悪いとなんか言われるかもよ?」
「確かに先生がなんか言ってたな。」
テストか、中学の時は正直言ってテストで困ったことはないが、文系科目が心配だな。理系科目に関しては中学の授業中に暇だったから高校範囲をある程度予習していたから大丈夫だと思うが。
「なんか話によれば、クラス平均を大きく下回った人は下のクラスに落とされたりするらしいから気をつけなよ。」
「俺らは落ちないから大丈夫だな。」
「そういうことじゃないんだけどなぁ。」
その話は聞いたことがあるが、1つ疑問がある。それはもし1人だけ下のクラスに落ちるのなら、下のクラスから1人上がるのだろうか。でも先生が言うには基本的にクラスの上がり下がりはクラス40人全員で行われる。そこで俺はあるひとつの仮説を立てた。クラス平均を下回ったやつがそのクラスから落とされるのではなく、上のクラスの平均を下のクラスの平均が上回ったらクラス入れ替えが発生するのではないかと。そんなことめったに起こらないだろうから時が経つにつれて違う形で伝わってきたのだろう。
その日の放課後、森川がクラスのみんなにテスト頑張ろう的なことを話していたが俺は聞いていなかったからよくわからない。いつもなら早く帰っているところだが、なんか前に絡んできた4人組に無理やり残らされた。
「ということだから、みんなテストでいい結果残して上のクラスに上がろう!」
おー!とみんなが声をあげる。
そういえば今日は柊彩芽が家に来るんだった。早く帰らないとまずい。家の中には絶対に入れないようにはなっているが、返事がないからって学校にでも連絡されたら面倒だ。
足早に家に帰ると、変身を発動し、ベガ学園の制服に着替える。制服を持っていないと怪しまれるかもしれないから先日買った。制服って意外と高いんだな、能力を獲得するのに必要なポイント比べたら誤差でしかないが。
ピンポーン
チャイムがなったので出ると柊彩芽が入ってきた。
「お邪魔するわね。」
「あ、はい。」
「今帰ったところだったのかしら、制服姿を見るのは初めてね。」
そりゃ一昨日買ったものだからな。
「あと、そろそろ敬語をやめてもいいんじゃないかしら。」
「い、いや、そんなの恐れ多いです。」
この前こいつがSランクだからか知らんが結構有名で割と尊敬されてることを知ったからな。他人行儀のやつとはずっといたいとは思わないだろう。
「あなたもAランクなのでしょう?私はそんな雲の上の存在でもないわ。ほら、名前で呼んでちょうだい。」
「あ、彩芽さん。」
「まぁ、今はそれでもいいわ。ところであなた、そろそろテストの時期だと思うのだけれど、勉強はしているのかしら。最近は決闘に結構出ているみたいだけれど。」
決闘とはこの学園都市の主要システムの1つで、簡単に言えばマッチングした相手と戦う事でポイントを獲得したり、スターリー順位を上げることができる。最近は能力を獲得したりするために情報屋の方だけだと稼ぎにくいから決闘にそこそこ出ていた。Aランクということもあってか結構目立ってしまっていたからな、こいつの耳に入るのも当然か。
「勉強はしています。理系科目はおそらく大丈夫です。文系科目が少し心配なくらいです。」
「あら、そうなのね。なら教えてあげるわ。私文系科目の方が得意だから。」
「い、いえ、迷惑になっちゃいますし。」
「遠慮しなくていいわ、なんたって彼女なのだからね。」
こういうのの拒否権がないのはどうにかして欲しい。この生活はいつ終わるのやら。
「はぁ、疲れたぁ。」
テストが終わって緊張の解けたクラスではワイワイとみんながリラックスしている。
「ほんと、1日に5科目もやらせるとかどうかしてるよね。しかも全部100分だし。」
碧が愚痴を言っているが、俺もそれには同意する。国数英全て100分な上に理科は物理と化学が合わさったやつが100分間、社会は地理と歴史が合わさったやつが100分間だ。最後の国語なんて集中力が切れかかったから魔力増幅を発動して無理やり集中力を保つ始末だ。テスト中の能力使用は禁止されていたが俺のやつはバレようがないから問題ない。とまぁそんな感じでめっちゃ疲れた。
「この後暇?テスト終わったんだしどっか行かない?」
「いや、俺は疲れたから帰る。遊びの行きたいなら週末とかにしてくれ。」
「わかった、じゃあ土曜日にね。」
俺はこの後も暇ではない。最近あまりできていなかった情報屋の仕事を再会しなくては。
俺は今事務所で見知った顔のやつと対面していた。
「あら、情報屋Xは女性だったと聞いていたのだけれどね。」
がっかりした顔を見せるのは、柊彩芽、なぜこいつがここに。女の姿以外でも情報屋として顔を出すことで身元の特定を防げると思って元の姿で来てよかった。もし女の姿で来ていたらこいつにならバレる可能性がある。
「何の用でしょうか。」
「特に用はないわ。Aランクを含む数人を返り討ちにしたって聞いたからどんなもんか見に来ただけよ。それに色んな人の能力を正確に言い当てるという仕組みもね。」
「それは企業秘密なので。」
「そう、じゃあ顔だけでも拝んでいくわね。」
ドォン。俺はアイテムボックスから拳銃を取り出しそいつに向かって発砲した。
「あら、物騒なもの持ってるわね。」
その弾丸は命中することなく空中に静止した。
「どうして私が能力を使おうとしたのがわかったのかしらね。私の能力を知っているからかしら?」
「私の正体を探ろうとする者は返り討ちにすると決めています。Sランクであるあなたも例外なく。」
「ほぅ、そんなことができるとでも思っているの?」
「私自身の力があなたに劣っていたとしてもいくらでもやり方はありますよ。例えば、最近彼女さんができたみたいですね。ベガ学園のAクラス、家は学校の近くにあるそうですね。」
「あなた、そんなことをしたらどうなるかわかっていて言っているのかしら。それにあの子はあなたが思ってあるより弱くはないわよ。」
「彼女、結構な頻度で決闘に出ていますよね。それを見た限りでは私の敵ではありません。何もされたくないのであれば私に関わらないことですね。」
「くっ!いいわよ、わかったわ、今日はどんなやつなのか見に来ただけだし。特に争うつもりはないわ。ただ、あなたがしていることは多方面に敵を作ることだということは自覚しておくことね。」
そう言って柊彩芽は出ていった。
あいつは結構、神谷凛を気に入ってるらしい。色んな女に声をかけているうちの一人だと思っていたが、どうやらそうではないらしいな。これは使える。神谷凛を利用すればあいつをある程度動かすことができる。
この日のあと情報屋Xは個人ではなく複数人の団体であるという噂が広まった。
「広正ぁ、テストどうだった?」
「そうだな、50位くらいだな。」
「高いね、広正って勉強できたんだ。ちょっと引くわ。」
「失礼なやつだな。」
理系科目については中学の時に高校範囲まで先にやっていたからある程度は大丈夫だと思っていたが、文系科目までこんなにできたとはな。癪だがあいつのおかげだろうか。だがやはりAクラスのやつは手強いな、俺の上50人はほとんどがAクラスだ。1位のやつはほとんど満点近いときたもんだ。
「それでお前はどうだったんだ?」
「82位だよ。僕も低いわけじゃないと思うんだけどなぁ。」
「まぁEクラスとしては頑張った方だろ。他の奴らはどんなかは知らんが。」
「そうだね。あと土曜日の約束忘れてないよね?」
「ん?ああ、そうだったな。」
「絶対忘れてたじゃん。」
「成績は全員に行き渡ったか?」
担任が話し始めるとクラスが静かになる。
「見ての通りEクラスの平均点は573点。Aクラスは758点、Bクラスは694点、Cクラスは608点、そしてDクラスは、580点だ。惜しかったな。だが、ここまでDクラスとの差を縮められるクラスも珍しい。このまま行けば上のクラスに上がるのも夢ではない。頑張ってくれ。」
定期テストは何のハプニングもなく終わった。
はずだった。
この日から各学園で5人ほど生徒が消息不明になったという噂が流れ始めた。




