雨の日の楽しみ
彼女は雨女。
昔から、ここぞというときには必ず雨が降った。
それが子供の頃は嫌だったが、ある楽しみを見つけてからは、むしろ雨の日が楽しみになっていった。
その、楽しみとは。
「う、あ、ぁっ……っ!」
小さな悲鳴と共に、男が水たまりの中にくずおれる。
折からの雨で大きくなった水たまりは、男の体と、彼が差していた傘を、全て包み込む。
男は水たまりにはまり込んでからも、ぴくぴくと動いていたが……やがて、動かなくなった。
女はそれを見届けると、傘を差したまま少し屈み、男の背中に突き立てたナイフを引き抜いた。
それから男の倒れ込んだ水たまりで、血の付いたナイフを軽くゆすぐ。
水たまりは男自身から出た血液と、ナイフに付いたそれで、たちまち真っ赤になった。
慣れた様子で一連の行動を終えた女は、薄っすらと笑みを浮かべ、ナイフを鞄にしまう。
結局、一度も傘を下ろすことなく、全てをやり遂げた女は、どこかへ向かって歩き出した。
自分が殺した男を、振り返ることもなく。
彼女は雨女。
誰かを殺したいと思った日には、必ず雨が降る。
そのせいか、一度も彼女の凶行が露見したことはない。