08 冒険者たち
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きよ子はまずジュリアに手紙を出した。東の森へ人を探しに行きたい。護衛の冒険者を紹介してほしいと書いた。
(問題は…この姿よね。分かってくれるかな?)
変に作り話をするより、正直に若返ってしまったと話そう。そう決心した。屋敷の従僕に届けてもらい、その日の午後に冒険者組合で会う手筈を整えた。
「ごめんください。予約をした者ですが」
西部劇の居酒屋みたいなドアを押して入る。一斉に強面の男達がきよ子を見た。刺すような視線だ。きよ子は「依頼」と書かれた受付に向かった。そこにジュリアがいた。
「ジュリア」
呼びかけると、彼女は凄い勢いで立ち上がった。
「キヨ!?」
「分かる?」
きよ子は胸が熱くなった。友情に歳や姿は関係ない。
「当たり前じゃない!私をジュリアなんて呼ぶの、あなただけよ!」
大きな口で笑われた。きよ子は応接室に通され、そこで西地区を去ってからの経緯と、今回の依頼の説明をした。
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「なるほど。騎士団の捜索ね」
ジュリアは依頼用紙に細かに記していった。第一の目的は若様の救出。第二はドラゴンの観察。期間はざっくり10日間、費用は組合の規定でお願いする。
「あなたも行くのよね?キヨ」
「ええ。足手まといかもしれないけど。頼むわ」
良い冒険者がいるだろうか。先ほど見た荒くれ者っぽい連中は避けたい。ジュリアは分厚いファイルから探してくれた。
「ちょうど仕事を求めてるパーティーがあるわ。女性が多いのよ。ここにしましょう」
組合の小僧がそのリーダーを呼んでくれた。きよ子は依頼者として面談をすることになった。
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“紅の狼”のリーダーは指名依頼ということで組合に行った。依頼主は黒髪の変な女だ。
「凄い筋肉。まるでスタローンね!」
誰だそりゃ。受付嬢が依頼内容を説明するが、ドラゴンというのが引っかかる。リーダーは念を押した。
「隠れて見るだけだ。絶対に戦わないぞ」
「もちろんよ。それは国がやるでしょう。弱点が知りたいの」
よし。10日間、大金貨80枚で契約する。女が準備する物を訊いてきた。食事はこちらで用意する。馬には乗れんらしい。仕方ない。ウチの女連中と相乗りさせよう。
「出来るだけ魔石を用意してくれ。充填済みでな」
「魔石?充填?何を?」
女は素人だった。リーダーは教えた。魔物と戦う武器には、光の魔力を充填した魔石が要る。何度か使えば魔力は切れる。だから沢山用意しておく。
「それってどこで買えるの?」
「魔石は魔石屋だ。魔力は神殿で入れてもらう」
出発は明後日の朝にした。前金は明日、組合の口座に振り込んでもらう。
「もしその若様が死んでいても残金はもらうぞ」
リーダーが最後に確認すると、女は不機嫌な顔で言い切った。
「絶対に生きてる」
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きよ子は準備に奔走した。お館様にお金を借りて、振り込む。スタローンに教えられた旅支度を整える。侍女仲間が色々と手伝ってくれた。魔石を買わなくちゃと思っていたら、城から大きな箱が届いた。中には空の魔石が詰まっていた。
「陛下よ。貰っときなさい。どうせ失敗した召喚の残りだから」
奥方様がそう言うので、ありがたく頂戴した。充填するんだっけ。執事に神殿の場所を教わっていたら、次は来客が来た。若い女性が大勢だ。
「キコ様。大変不躾なお願いで恐縮なのですが…」
行方不明の騎士達の婚約者や妻だという。彼らに手紙を届けてほしいと頼まれた。きよ子は二つ返事で引き受けた。
「良いですよ」
「お願いいたします!あら。この魔石は?よろしければ充填しましょうか?」
玄関ホールに積まれた箱を見て、令嬢方が申し出てくれた。聞けば、光属性とやらの魔力を持つ女性は多いらしい。
「神官ほどはありませんが。1、2個充填するくらいなら」
空の魔石は透明だが、令嬢が魔力を注ぐと水色になった。せっかくだから名前を書いた紙を巻いた。婚約者に届けてあげよう。皆で手分けして作業をしたら、半分の魔石は充填できた。令嬢達は魔力切れで帰っていった。
残りはやはり神殿かな。箱を持ち上げたら、また誰かやってきた。白の魔法使いだった。
「失礼する」
偉い人なので一番良い応接室に通した。奥方様が来るまでもてなす。魔法使いはきよ子の淹れた茶を飲んで目を見開いた。
「そなた。光属性だな」
「え?」
飲んだだけで分かるんだ。凄い爺さんだ。
「きちんと修練を積めば神官にもなれよう。戻ったら神殿に来なさい」
「はあ」
魔法使いは熱心に勧誘した。それより充填してほしい。今すぐ。ダメもとで頼んでみた。
「神官長様ともなれば、魔石への充填も一瞬でできますか?」
「もちろんだ。魔石を持ってきなさい」
爺さんは箱に手を翳した。それだけで魔石は水色になった。凄い。本物だ。きよ子は拍手した。
「凄いです!ありがとうございます!」
「良い。そこに直れ。娘」
よくわからないが頭を下げると、ふんわりと暖かい風が吹いた。それが終わるると魔法使いは帰っていった。何しに来たんだ。きよ子は見送りながら訝しんだ。奥方様が
「祝福しに来てくださったのよ。あなたを」
と言う。ありがたいことらしい。そうこうしているうちに、出発前日はあっという間に過ぎた。翌日の早朝にきよ子は冒険者パーティーと合流したが、魔石が多過ぎてスタローンに怒られた。
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依頼主のキコという女は大量の魔石を持ってきた。とても1頭の馬には載せきれない。パーティー全員に分けてやっと積み込んだ。
「買いすぎだ!1人10個もあれば良かったんだ」
リーダーは文句を言った。彼の女房の後ろに乗った女は謝った。
「ごめんなさい。あ、帯のついてない魔石は全部使って良いわよ。神官長様が充填してくれたから、多分高級なんじゃない?」
全員がぎょっとした。侯爵家の侍女だそうだが、思ったより大物みたいだ。
街道に出た直後、後ろから騎士の一団が馬を走らせてきた。
「待たれよ!キコ殿!」
先頭の男を見て、リーダーは驚いた。騎士団長だ。冒険者たちは馬を止めた。
「はい?」
キコが首を伸ばした。そこへ下馬した騎士の1人が駆け寄った。大きな長い箱を持っている。騎士団長はキコに言った。
「持っていかれよ。完成したばかりの対魔物砲だ」
「使い方が分かりません」
侍女は困ったような顔で言った。
「ジェラルドなら扱える。ドラゴンでも、数秒なら抑えられるかもしれん」
「…ありがとうございます。お預かりします。スタローン、受け取って」
笑顔で命じられる。だからスタローンって誰なんだよ。貴族の手前、文句も言えずにリーダーはその箱を受け取った。騎士達はサッと馬首を巡らせて去った。また荷が増えてしまった。これ以上増えちゃたまらん。パーティーは速足で旅を再開した。




