表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/22

08 冒険者たち

            ♡



 きよ子はまずジュリアに手紙を出した。東の森へ人を探しに行きたい。護衛の冒険者を紹介してほしいと書いた。


(問題は…この姿よね。分かってくれるかな?)


 変に作り話をするより、正直に若返ってしまったと話そう。そう決心した。屋敷の従僕に届けてもらい、その日の午後に冒険者組合で会う手筈を整えた。


「ごめんください。予約をした者ですが」


 西部劇の居酒屋みたいなドアを押して入る。一斉に強面の男達がきよ子を見た。刺すような視線だ。きよ子は「依頼」と書かれた受付に向かった。そこにジュリアがいた。


「ジュリア」


 呼びかけると、彼女は凄い勢いで立ち上がった。


「キヨ!?」


「分かる?」


 きよ子は胸が熱くなった。友情に歳や姿は関係ない。


「当たり前じゃない!私をジュリアなんて呼ぶの、あなただけよ!」


 大きな口で笑われた。きよ子は応接室に通され、そこで西地区を去ってからの経緯と、今回の依頼の説明をした。




            ♡



「なるほど。騎士団の捜索ね」


 ジュリアは依頼用紙に細かに記していった。第一の目的は若様の救出。第二はドラゴンの観察。期間はざっくり10日間、費用は組合の規定でお願いする。


「あなたも行くのよね?キヨ」


「ええ。足手まといかもしれないけど。頼むわ」


 良い冒険者がいるだろうか。先ほど見た荒くれ者っぽい連中は避けたい。ジュリアは分厚いファイルから探してくれた。


「ちょうど仕事を求めてるパーティーがあるわ。女性が多いのよ。ここにしましょう」


 組合の小僧がそのリーダーを呼んでくれた。きよ子は依頼者として面談をすることになった。




          ◆



 “紅の狼”のリーダーは指名依頼ということで組合に行った。依頼主は黒髪の変な女だ。


「凄い筋肉。まるでスタローンね!」


 誰だそりゃ。受付嬢が依頼内容を説明するが、ドラゴンというのが引っかかる。リーダーは念を押した。


「隠れて見るだけだ。絶対に戦わないぞ」


「もちろんよ。それは国がやるでしょう。弱点が知りたいの」


 よし。10日間、大金貨80枚で契約する。女が準備する物を訊いてきた。食事はこちらで用意する。馬には乗れんらしい。仕方ない。ウチの女連中と相乗りさせよう。


「出来るだけ魔石を用意してくれ。充填済みでな」


「魔石?充填?何を?」


 女は素人だった。リーダーは教えた。魔物と戦う武器には、光の魔力を充填した魔石が要る。何度か使えば魔力は切れる。だから沢山用意しておく。


「それってどこで買えるの?」


「魔石は魔石屋だ。魔力は神殿で入れてもらう」


 出発は明後日の朝にした。前金は明日、組合の口座に振り込んでもらう。


「もしその若様が死んでいても残金はもらうぞ」


 リーダーが最後に確認すると、女は不機嫌な顔で言い切った。


「絶対に生きてる」



            ♡



 きよ子は準備に奔走した。お館様にお金を借りて、振り込む。スタローンに教えられた旅支度を整える。侍女仲間が色々と手伝ってくれた。魔石を買わなくちゃと思っていたら、城から大きな箱が届いた。中には空の魔石が詰まっていた。


「陛下よ。貰っときなさい。どうせ失敗した召喚の残りだから」


 奥方様がそう言うので、ありがたく頂戴した。充填するんだっけ。執事に神殿の場所を教わっていたら、次は来客が来た。若い女性が大勢だ。


「キコ様。大変不躾なお願いで恐縮なのですが…」


 行方不明の騎士達の婚約者や妻だという。彼らに手紙を届けてほしいと頼まれた。きよ子は二つ返事で引き受けた。


「良いですよ」


「お願いいたします!あら。この魔石は?よろしければ充填しましょうか?」


 玄関ホールに積まれた箱を見て、令嬢方が申し出てくれた。聞けば、光属性とやらの魔力を持つ女性は多いらしい。


「神官ほどはありませんが。1、2個充填するくらいなら」


 空の魔石は透明だが、令嬢が魔力を注ぐと水色になった。せっかくだから名前を書いた紙を巻いた。婚約者に届けてあげよう。皆で手分けして作業をしたら、半分の魔石は充填できた。令嬢達は魔力切れで帰っていった。


 残りはやはり神殿かな。箱を持ち上げたら、また誰かやってきた。白の魔法使いだった。


「失礼する」


 偉い人なので一番良い応接室に通した。奥方様が来るまでもてなす。魔法使いはきよ子の淹れた茶を飲んで目を見開いた。


「そなた。光属性だな」


「え?」


 飲んだだけで分かるんだ。凄い爺さんだ。


「きちんと修練を積めば神官にもなれよう。戻ったら神殿に来なさい」


「はあ」


 魔法使いは熱心に勧誘した。それより充填してほしい。今すぐ。ダメもとで頼んでみた。


「神官長様ともなれば、魔石への充填も一瞬でできますか?」


「もちろんだ。魔石を持ってきなさい」


 爺さんは箱に手を翳した。それだけで魔石は水色になった。凄い。本物だ。きよ子は拍手した。


「凄いです!ありがとうございます!」


「良い。そこに直れ。娘」


 よくわからないが頭を下げると、ふんわりと暖かい風が吹いた。それが終わるると魔法使いは帰っていった。何しに来たんだ。きよ子は見送りながら訝しんだ。奥方様が


「祝福しに来てくださったのよ。あなたを」


 と言う。ありがたいことらしい。そうこうしているうちに、出発前日はあっという間に過ぎた。翌日の早朝にきよ子は冒険者パーティーと合流したが、魔石が多過ぎてスタローンに怒られた。



            ◆



 依頼主のキコという女は大量の魔石を持ってきた。とても1頭の馬には載せきれない。パーティー全員に分けてやっと積み込んだ。


「買いすぎだ!1人10個もあれば良かったんだ」


 リーダーは文句を言った。彼の女房の後ろに乗った女は謝った。


「ごめんなさい。あ、帯のついてない魔石は全部使って良いわよ。神官長様が充填してくれたから、多分高級なんじゃない?」


 全員がぎょっとした。侯爵家の侍女だそうだが、思ったより大物みたいだ。


 街道に出た直後、後ろから騎士の一団が馬を走らせてきた。


「待たれよ!キコ殿!」


 先頭の男を見て、リーダーは驚いた。騎士団長だ。冒険者たちは馬を止めた。


「はい?」


 キコが首を伸ばした。そこへ下馬した騎士の1人が駆け寄った。大きな長い箱を持っている。騎士団長はキコに言った。


「持っていかれよ。完成したばかりの対魔物砲だ」


「使い方が分かりません」


 侍女は困ったような顔で言った。


「ジェラルドなら扱える。ドラゴンでも、数秒なら抑えられるかもしれん」


「…ありがとうございます。お預かりします。スタローン、受け取って」


 笑顔で命じられる。だからスタローンって誰なんだよ。貴族の手前、文句も言えずにリーダーはその箱を受け取った。騎士達はサッと馬首を巡らせて去った。また荷が増えてしまった。これ以上増えちゃたまらん。パーティーは速足で旅を再開した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スタローン(笑) 思っても言うなよ(笑)
[良い点] 義を見てせざるは勇無きなり 本物の勇者です
[一言] 冒険者リーダーのツッコミが秀逸です。このノリ大好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ