第6話 「ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
悪役令嬢転生、公爵様系?です。切れ芸ルイミア、ついにちょっと報われる。
ジャンルがラブコメも入ってたことを思い出す第6話です…。超短編。
第6話 「ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「お義父様、襲来!」
ホールではなく迎賓室。やや小ぶりの、それでいて最も美しく装飾した部屋。
食事を運んだあとは侍女たちも退出し、親子水入らず。
…それが一番困るんだっての!
「…ほほう、手科理か。」
惜しいなオヤジ。<科>と<料>は似ている。だが許せる範囲だ。
アタシは、ただ無言で頭を下げる。
「ワシがこの屋敷で作った料理に満足するはずが無いとみての、手科理のおもてなしと。ふむ。頭のグルグル回る嫁よ。」
「グルグル入ると一気にホラーだな!ですわね!」
義父。夫マキアス様の父上、マーカス様。61歳。マキアス様は40近い頃のお子だそうで…。
「どれ、遠慮なく頂くとしよう。」
お義父様は、メイン、魚のムニエルをフォークでパクリ。あ、前菜飛ばした…いいけど。
「ふむ、魚のムーニーL…」
「それは元気に育ちそうだな!!」
駄目だ、もう抑えられん。
「前妻も味わおう…。」
「やめろなんかエロい!!」
「ほう、用無しのムース!」
「せめて食ってくれ!」
「ちょっと来い…オヤジ厨房来い…アタシの悲しみを感じ取りながら来い…」
「ル、ルイミア!待て!言ってくが父上は左利きだ!」
「だからなんだー!?」
「座れ…このノートを良く見ろ…イイか!<科>はこう!<料>はこう!更に<用無し>はこう!<洋梨>はこう!」
「ほう、なかなか奥深いじゃん?」
「うっわなんか腹立つー!」
「書け…100回ずつ、客用ノートに書け…」
オヤジはほっといて迎賓室。残った夫はパクパク食事を食べていた…。
そう!マキアス様の感想が聞きたかった。初めて食べただろ~?どうよ~?
アタシの目線に気付け!料理上手?感想は?はよ。はよ。はよ。
「ルイミア。キミは、思ったよりずっと家庭的なんだな…。」
キラーん!誤字なしー!!やるじゃん夫―!
「どれもUMAだった…!」
「未確認生物は調理してねえー!!」
「こっち来い…親子並んで書け…<旨>100回書け…。」
公爵と元公爵。親子は、仲良く並んで漢字練習に勤しんでいる…すごい絵面だ。
「で、ぶちゃけどうなの?マキアス。ん?政略結婚、上手く行ってる?」
食事が済んだら、いきなりぶっこんで来たーーー!!
「政略結婚だしなぁ。上手く行かんようならば、先の離縁を考えて損はあるまい。」
「こ、婚約破棄、ですか!?」
「ルイミア!婚約破棄はケッコン前だ!」
「上手く行って無いだろ?お前達。妙に距離がある。」
「いえ、父上。我々の事は我々が決めます。放っておいて頂いて結構です。」
え!?なんで守ってくれるの!?
…なーんてな!やっぱ惚れてね?いや惚れててお願い!
「ほう、では翔子見せろ?」
…誰!?
って証拠なんてあるかよー!無茶ブリすんなー!
夫は立ち上がり、何やら迷った挙句、アタシを立たせた。
「何…?」
夫、真正面。背はほぼ同じだけど、僅かにアタシの方が高い。
ちゅー。
!!!
ちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!。
長い!やめろ!恥かしい!溶ける!
夫が離れると、アタシはくるりと後ろを向いた。
「…うむ。ルイミア、非礼を詫びる。そう言うことなら良い。仲良くやってくれ。では、邪魔者は帰るとしよう。…見送りは要らん。」
迎賓室で二人になる。
「ルイミアさっ」「黙れ。」
「黙れ…何も言うな…何か言うと絶対ぶち壊されるから何も言うな…。」
「ハイ!」
じーーーーーーーーん。何かを噛みしめるアタシ。
婚姻の儀でもキスは無かった…。
ぽろっと零れる涙。
「ルイミア、すまない、いきなり口紅を奪ってしまって…」
それは只の泥棒だ…しかも変態だ…だが耐えよう。壊すな、守れ、防衛しろ、このムードを!
「どうして、立いている…?」
サンズイ足りねーけど許す…すべて許す…じーーん。
「怒っているのか…?い、嫌だったか?」
「…愛されなくても、アタシは妻です…唇くらい、ご随意に…嫌じゃ…ないです…。」
言ったー!! 邪魔入らず言えたーー!!
距離近づくフラグ、成立━━!!
「…そうか?じゃぁ。」
夫、下を向いていたアタシのあごをくいっと上に上げる。
キャー!キター!今!?今すぐ!?
そして、アタシの首はグキっと音を立てた。
慣れない動きを気張りすぎた…のか…そうだ、身長ほぼ同じだった…
あ、ここで死にたくない…アホすぎる…。意識がぁ…。
「ルイミア―!しっかり士郎!」
山岡さんで来たか…あの料理イイヨネ…
ぱたっ。
全治1週間!死ななくてヨカッター!
―――まだ続く(らしい)