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2話 村人の治療? 造作もないわね!


 俺たちは最初、世間知らずのお嬢様が迷いこんできたのかと思った。これなら俺たちでも勝てる。

 しかし、その認識は一瞬でくつがえされた。

 俺たちは従者の少年に制圧され、少女の強力な火属性魔法によって完全敗北した。


 相手は本物の魔術師だ。魔法が使えない俺たちにとっては雲の上の存在である。

 従者の少年が、冷たい目で俺たちを見下ろして言った。


「どうしますか、アビー様。処します?」


 しょ、処される! そう覚悟したが、少女は俺たちの命には興味がないという。

 そして、なぜかこの村で流行している病気を治すと言い出した。

 治療するための実験体を探しているようなので、俺はおずおずと名乗りを上げた。


「あ、あの、じつは俺もその病気にかかっていて、昨日から高熱が出ているんです」

「は!? それを早く言いなさいよ! あなた実験体一号ね!」

 

 実験体と呼ぶからには、生きたまま切り刻まれるのかもしれない。俺は全身から血の気が引いた。ただでさえ体調が悪かったのに、あともうすこしで意識を失いそうになった。


「さ、シルバー、やってちょうだい!」

「はい、アビー様」


 何が始まるのだろうとびくびくしていると、従者の少年が突然大声を上げた。


「今日も毒舌仕上がってます! 声帯筋がシックスパック!」


 暴言!?

 俺たちは少年の奇行に震え上がったが、少女は満足そうにうなずいた。


「意味がわからないけど、褒めようとしているのはわかる! その努力は認めてあげるわ!」

「ありがとうございます。さて……」


 従者の少年は、口をぽかんと開けている俺たちに視線を向けて言った。


「さあ、あなたたちもアビー様を褒めてください」

「え!?」

「早く」

「は、はい! アビー様マジで女神!」

「アビー様の炎に抱かれたい!」

「天下無双最強お嬢様!」

「アビー様こそが法律!」

「アビー様こそ宇宙!」


 男たちが少女を取り囲んで必死に声援を送る。

 事情を知らない人間から見れば異様な光景だろう。いや、俺たちもよくわかってないけど。


「うーん、来たわ!!」


 少女はかっと目を見開くと、俺に向かって両手を突き出した。


「痛みを、病を流せ。癒しのほたる火(フローライトヒール)


 少女の両手が青白く輝いて、その光が俺の全身を包みこんだ。変化はすぐに訪れた。


「あれ? 今まで感じていた全身の痛みや発熱が消えた?」

「ふふ、大成功ね!」

「ま、まさか……これは治癒魔法ですか!?」


 少女は得意げ胸を張って言った。


「そうよ! これは私の『楽しい』という感情に反応して発動する治癒魔法! 聖女と比べればまだまだ弱いけど、いつか死者すら復活させてやるわよ! おーほほほほ!!」


 弱い? 強力な火属性魔法と病をも治せる治癒魔法を使いこなすこの人が?

 俺の全身は高揚感に包まれ、手足が震えていた。

 こんなすごい人がいるなんて信じられない……これが本物の魔術師なんだ。


「さ、次の実験体はどこかしら? 私の気分がいいうちに案内なさい!」

「は、はい!」


 少女は従者の少年と俺たちの声援を受けながら、次々と治療をほどこしていった。


「高熱で寝たきりになっていた娘が、自力でベッドから立ち上がれるようになるなんて……信じられない!」

「母は明日生きているかわからないと言われていたんです。それが、こんなに元気になるなんて! なんと感謝を申し上げればよろしいのか!」


 死を待つばかりだった者たちが、次々と回復していく。俺たちは奇跡を目の当たりにしていた。

 俺は村長に家のことを話すと、村長は喜んで家を譲り渡してくれた。村には移り住める空き家があるし、命の恩人に使ってもらえれば光栄だと言っていた。


 村人全員の治療を終えた少女は、村長の家に入ると、真っ先にソファーに倒れこんだ。


「あー、さすがに疲れたわー。使い慣れていないせいね」

「アビー様、お疲れ様です。お水をどうぞ」


 少女は上体を起こすと、少年から水の入ったコップを受け取り、ぐいっと一気に飲み干した。


「あ~、生き返った!」

「あまり無理をなさらないでください。アビー様のお身体が心配です」

「わかってるわ。でも、力を磨くには実践しかないでしょ? まだまだ未熟な力だもの。そして、未熟ということは伸びしろがあるってことよ!」


 病を治す貴重な力を持っているのに、彼女はおごることもなく、その力を向上させようとしていた。その努力に頭が下がる思いだ。

 すると、少女は何かを思い出したように声を上げた。


「あ、そうそう、実験体一号」

「はい、ここに!」

「例の山賊って、いつこの村に来るの?」

「えっと、ちょうど明日、貢ぎ物を取りにくると思いますが……」


 少女はきちんと座り直してから、にやりと口の端を上げた。


「ちょうどいいわね。私がその山賊どもを燃やし尽くしてあげるわ」

「え!? あの山賊たちと戦うつもりですか!?」

「あら、不可能だと言いたいのかしら?」

「いえ、おふたりの力があれば可能だと思います。でも、どうしてそこまでしてくれるんですか? 山賊と戦ったって、おふたりには何の得もないはずです」


 少女は不思議そうにまばたきしてから、悪巧わるだくみをするような顏で言った。


「私も悪いことは大好きよ。でも、正真正銘の弱者から奪うなんて退屈だわ。だから教えてさしあげるのよ。本当の悪ってやつをね」


 言っていることは悪人のようだったが、彼女のやろうとしていることは救済に他ならなかった。 

 見捨てられた土地で生きる俺たちのことなんて、誰も見向きもしなかったというのに、この少女は違う。


「女神様だ……」


 誰かがそうつぶやく。

 俺たちに命を狙われたというのに、俺たちの罪を見逃して、村人全員の病気を治してくれた。そして、山賊に支配された俺たちを救ってくれるというのだ。

 俺たちは今初めて、神の存在を強く感じた。


「あの、あなたのお名前は!」


 俺がたずねると、少女は勝気そうな瞳を輝かせて自信たっぷりに答えた。


「アビゲイル・デケンベルよ! 特別にアビー様と呼ばせてあげるわ!」


 俺たちは顔を見合わせて、力強くうなずいた。


「アビー様、俺たちはあなたについていきます!」


面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたら、


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