1話 盗賊襲撃! 新技のお披露目よ!
目の前には、どこにでもありそうな平原と青空の光景が広がっている。周囲を見渡しても人の姿はおろか、鳥の影すら見当たらない。
「ここが魔術師の墓場?」
「そのようですね」
唯一の従者であるシルバーが答えた。
「案外普通じゃない。ずっと同じ光景で気が滅入るわね」
ふたりと馬二頭の旅は早々に飽きてきた。通行人Aでもいいから登場してほしい。
「見てください、アビー様。村がありますよ」
「寂れた田舎の村って感じだけど、何も変化がないよりマシね!」
村の入口に近づいた時、ふと私はあることに気がついた。
「大地が穢れていて、ほとんど作物が育たないって聞いていたけど、嘘じゃない?」
「ええ。ここから畑のようなものが見えますね」
「家も古くてぼろいけど、住めないって感じじゃないし、聞いていたほど劣悪ってわけじゃないのかもね。とりあえず、宿を探しましょう。もうくたくたよ!」
「そうですね、馬も休ませないと……アビー様」
シルバーが眉をひそめて、近くの建物に視線を走らせた。
すると、物陰から五人の若い男たちが姿を現した。
彼らの手には、鍬などがにぎられている。
「おいおい、どこのお嬢様だ? ずいぶん身なりがいいじゃねぇか」
男たちはにやにやと笑いながら、値踏みするような目で私を眺め回した。
「知ってるか? ここは魔術師の墓場だ。王都と違って法なんて存在しないんだぜ」
「殺されたって文句はねぇよな?」
男たちは手に持った武器をちらつかせて、私たちを取り囲んでいく。
早速面白い展開になって、私は何だか愉快な気分になってくる。
「あら、襲う前に『襲います』と警告してくれるなんて、なんて親切な盗賊なのかしら」
「何だと!?」
「シルバー」
私の意図を察したのか、シルバーは音もなく馬の背中から姿を消した。
男たちはあわてたように周りを見回しながら後ずさりした。
「ど、どこへ行った!?」
「ここですよ。ぶっ飛ばしますね」
「うぎゃあ!?」
シルバーは、恐怖に震える男の背後に現れて、その背中を蹴り飛ばした。
「こ、この野郎!」
隣に立っていた別の男が武器を振りかぶるが、シルバーは素早くその男の腹に膝を入れて、ナイフを手に突撃してきた三人目の男の顔面に拳を叩きこんだ。
「ふざけやがってー!」
「死ね!」
残った男たちが背後から襲いかかるが、シルバーは振り向きざまに蹴りをお見舞いして返り討ちにする。
あっという間に、男たちは地面に倒れ伏していた。
シルバーは服についた砂を払いながら言った。
「あなた方の流儀に従い、『襲います』と警告させていただきました」
「こ、こいつ……」
男たちはシルバーを恨めしそうに見上げた。
まだ反抗的な顔ができるなんて元気そうね。実験体としてちょうどいいかもしれない。
「じゃあ、お披露目しちゃおうかしら」
私は馬から降りて、男たちに向けて右手を突き出した。
思い浮かべるのは、繰り返される処刑台の光景と、グロウスたちから浴びせられた屈辱的な言葉の数々。
私自身を燃やそうとする怒りの炎は、私の頭上に巨大な火の玉として出現した。
私はその怒りを叩きつけるようにして叫んだ。
「赤き王冠の花!」
火の玉が爆発して、男たちの頭上に火の雨が降り注ぐ。
男たちは悲鳴を上げて、火の雨の中を転がり回った。
「熱い熱い熱い!!」
「やめてくれ! 死にたくない!!」
「いい悲鳴だわ~! もっと聞かせなさいよ! おーほほほほ!!」
怒りの感情を制御する訓練をつづけた結果、私は強力な火属性魔法が使えるようになった。
欠点を上げるとすれば、過去を思い出すことで自分が燃えそうになることかしら。私は額から流れる汗をさりげなく拭いた。
「これが全人類ひざまずかせ計画の第一歩ね。さて……」
私は、煙を上げて倒れている男たちを見下ろした。
男たちはすっかり戦意喪失し、判決を待つ罪人のようにびくびくしながら、私たちを見上げている。
「どうしますか、アビー様。処します?」
シルバーが淡々と恐ろしいことを口にするので、男たちは恐怖に震え上がった。
「お、お願いします! 命だけは助けてください! お金なら渡しますから!」
リーダー格の男が這いずるようにして私のそばにやって来て、命乞いをした。
私はその男の身なりや武器を見て、違和感を覚えた。
「別にあなたたちの命やお金が欲しいわけじゃないけど……というか、あなたたちの持ってる武器って農具でしょ? この村の住民なんじゃないの?」
「そ、その通りです」
リーダー格の男があわててうなずいた。私は首をかしげる。
「どうしてこの村の住人が、旅人相手に盗賊の真似事をするのよ。畑はたくさんあるみたいだし、食糧には困らないでしょ?」
「あれは、ほとんど魔法薬物畑ですから」
「魔法薬物ですって!?」
驚愕する私の隣で、シルバーが真剣な声で言った。
「アビー様、それって違法魔法薬物のことですよね」
「そうよ。粉末状にして使用することで、一時的に魔力を増強させる効果があるの。ただ、強い幻覚作用と中毒性を持つから、王都では禁止されているのよ」
リーダー格の男は苦しげな顔をして言った。
「俺たちも、本当はあんなものを作りたくない。でも、この付近を縄張りとする山賊に、強制的に作らされているんです」
「なるほどね。違法魔法薬物はお金になるもの。戦わないの?」
「俺たちでは勝てません。山賊のボスは魔術師です。魔法が使えない俺たちでは歯が立ちません」
「へー、魔術師の墓場にいる人間は魔法が使えないっていう噂は本当なのね。魔法至上主義であるラピスブルー王国から見捨てられるのも納得ね」
男たちは悔しそうにうつむいて、怒りに任せて語り始めた。
「何度も武器を手にとったが、俺たちじゃ勝てないんだ!」
「魔法薬物だけじゃなく作物まで献上させられて、村の人間は餓死寸前です!」
「それに、やつらが疫病を持ちこんだせいで、この村は死にかけてる。薬を買う金もないから、旅人から奪おうって話になって……」
「おふたりには、許されないことをしたと理解しています。でも、俺たちに残された道はこれしかなかったんです」
戦う術を持たない無力な男たちは、怒りと悲しみに身体を震わせた。
「ふうん? 疫病ってことは、治癒魔法が必要とされているわけね。私の実験にちょうどいいかもしれない」
「え、実験?」
「こっちの話よ。ねえ、リーダーっぽいあなた、ここで一番良い家はどれかしら?」
「それはもちろん、あそこの村長の家ですが……」
私の問いかけに、リーダー格の男は不思議そうな顔をしながら指差した。
古そうだけど立派な家がひとつある。悪くないわね。
「じゃあ、私が村人の病気を治したら、村長の家をもらうわね」
「な、何を言い出すんですか!? もしかして、薬を持っているんですか?」
上目遣いにこちらを見る男に、私は自信満々に言った。
「薬なんてないわ!」
「ないの!?」
「うるさいわねぇ。いいから早く実験体……こほん、病人のもとへ案内しなさい!」
「実験体って言いました!?」
「おほほほ、そんなこと言うわけないじゃない!」
ここに来るまでの数日間、私はひたすら感情の魔法を磨いてきた。
その成果を見せる時だ。
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