2話 私の家が修羅場になっている件
窓の向こうで、真っ赤に燃えた太陽が沈んでいくのが見える。
私はゆっくりと上体を起こして、「ふああ~」と大きなあくびをした。
「私としたことが、帰宅してすぐに眠っちゃうなんて……どうして起こしてくれなかったの、シルバー」
すぐに返ってくるはずの声が聞こえない。
「シルバー?」
もう一度呼びかけても、シルバーは部屋に入ってこなかった。
「おかしいわね。いつもすぐ近くにいるはずなのに」
私は簡単に衣服を整えてから、部屋の外へ出た。
いつもなら明るく照らされているはずの廊下が真っ暗だ。そこでようやく、屋敷内が不自然に静まり返っていることに気がついた。
私は何となく、廊下に飾ってある壺を手に取った。
「誰かいるの?」
廊下の真ん中で、誰かがうずくまっているのが見えた。
「あら? もしかして、お父様?」
「うう……」
「大変! 体調が悪いの!?」
あわてて駆け寄ると、お父様は私の声に反応して素早く振り向いた。
お父様の目は白く濁り、肌も死人のように青白かった。口の周りは血で真っ赤に染まっていて、その足元には血だらけになった執事が倒れていた。
「は!? アンデッド!?」
「うがぁぁぁぁ!!」
「お父様、お許しください!」
私はお父様の頭部を、手に持っていた壺で殴打した。
ゴンッと鈍い音がして、お父様はうつ伏せに倒れた。
「ふう、やったかしら?」
額に浮いた汗を拭い、地面に転がったお父様を見下ろす。
お父様は両手両足を広げたまま、ぴくりとも動かなかった。
「ごめんなさい、お父様。私、他殺NGなの」
その時、近くで物音がした。
闇の中でじっと目を凝らすと、アンデッド化した使用人たちがこちらに向かってくるのが見えた。
「はあ!? どうして私の家でアンデッドが発生してるのよ! シュアンの力でどうにか……え?」
魔物封印専用ブレスレットに封じているはずのシュアンの気配がない。
私は首をかしげた。
「えっと……まさかこれって、シュアンが脱走してる?」
まさかね~? と笑っていると、屋敷の外から助けを求める悲鳴と爆発音が聞こえてきた。
これヤバイやつだ。
どうやら、私が眠っている間に、王都ベイオリエンスにアンデッドクイーンが解き放たれてしまったらしい。
「って、ふざけんなぁぁぁぁ!?」
私は襲いかかってくる使用人たちを、ひたすら壺で殴り倒した。
殴るのにもあきてきた頃、私は新たな戦力を召喚することにした。
「とりあえず、誰でもいいから出てきなさい!」
私の呼びかけに応えて紋章から飛び出してきたのは、緑色のずんぐりとした鳥だった。私の頭よりもでかいかもしれない。
鳥は私を見上げて、ぱたぱたと羽をばたつかせた。
「わ、やった! やっと僕を召喚してくれた!」
「その声……あなたパロットなの? あははっ、飛べなさそうで可愛いわね!」
「本当に? 僕可愛い?」
パロットは照れくさそうに身体を揺らした。
パロットを召喚したのはいいけれど、なぜこの姿に? と私は不思議に思った。
「おかしいわね、省エネ召喚をした覚えはないんだけど……私の魔力が著しく低下してる?」
試しに、他の十二神を召喚しようとしても、紋章はまったく反応しなかった。
「だめだわ、召喚できない。とりあえず、せっかく召喚したんだから役に立ってもらうわよ、パロット」
「任せてくれよ! 他の家具よりも活躍してやるさ!」
「飛べないくせに?」
「うっ! で、でも大丈夫! 絶対役に立ってみせるから!」
「そこまで言うなら信じてあげる。さ、広間まで走るわよ」
私たちが広間に向かおうとしたその時、視界の端で何かが動いた。
それは壁を走りながらこちらに近づいてくる。
「ちっ、アンデッドはもうあきたのよ! これでも食らいなさい!」
私は小さな火の玉を放ったが、素早く動き回るアンデッドには当たらなかった。
「ああ、もう! 魔力があれば連続で撃ちまくれるのに! 仕方ないわね、これ以上近づいたらこれで殴るわよ!」
「原始的!」
「うるさいわよ!」
目の前に着地したアンデッド目掛けて、私は壺を振りかぶった。すると、アンデッドはぴたりと動きを止めた。
そのアンデッドの姿に、私は目を丸くした。
「あら、あなた……」
「ううー!」
威嚇するように歯をむき出しにしているのは、イスカだった。
その目は白く濁り、口の周りは血で真っ赤に染まっている。
「ああ、そういえばあなた、私に恩返ししたいとか言って、ここに滞在していたんだっけ?」
「う~、うう~!」
イスカは、なぜか自分の両膝に爪を立てて、その場から動こうとしない。
わずかに残ったイスカの意識が、踏みとどまらせているのかもしれない。
私は哀れむように小さく笑った。
「あなた、何かとアンデッドに縁があるわね」
「がぁぁぁぁ!!」
「あなたの忠誠、悪くなかったわ。楽にしてあげる……重罪」
何とか魔力をしぼり出して重力魔法を発動させ、イスカを床に縛りつけた。
うつ伏せの状態で床に縫いつけられたイスカは、目だけをぎょろぎょろ動かしてうなり声を上げている。
どっと疲れを感じて、私はため息をついた。
「これで精一杯か……早く力を取り戻さないと」
「シューラ族を足止めする魔力はあるんじゃのう」
広間のほうから、あの独特な口調が聞こえてきた。
けれど、声が違う。
広間に足を踏み入れると、荒れ果てた広間の真ん中で、デケンベルの権力を示す豪華な椅子に腰かけるシルバーの姿があった。
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