1話 嫌な予感がする
グロウスとアリーズを罪人として引き渡し、テンペスタが辺境の地に追放されてしばらくして、私は宮殿内の美しい庭で開かれたお茶会に招かれていた。
私の向かいに座った陛下が上機嫌に紅茶を飲んでいる。
「魔術師の墓場から取り寄せた紅茶や果物だよ。きみおかげで、質の良いものが流通するようになった」
「それは良かったです」
せっかくの機会なので、私は以前から疑問に思っていたことを尋ねた。
「陛下、魂の空間で出会った時に、どうして正体を明かさなかったのですか?」
「聞かれると思ったよ。そうだね、あの時のきみは十二神という縛りから解放されて、思う存分自由を満喫していただろう?」
「ええ、とても!」
即答すると、陛下はくすりと笑った。
「そんなきみに僕の正体を明かして、僕を復活させるためにアンデッドの力を手に入れてくれ、なんてお願いをすれば、きみは心のどこかで窮屈さを覚えたはずだ。自分のための旅ではなく、僕のための旅になっているとね」
「それは否定できませんね」
正直に答えると、陛下は再び笑った。
「だから、きみには牛頭の謎の存在って思われていたほうが、きっと楽しんでもらえると思ったんだ」
「なるほど。陛下は私以上に、私の心の動きを理解していたというわけですね」
「ふふ、そうすねないで。セクシーだよ」
「光栄です」
私の魔法は感情に大きく左右される。だからこそ、陛下は私の感情を抑えつけないように配慮していた、ということらしい。
「だからね、それとなくステラに誘導してもらうつもりだったのだけど、きみは僕らの想像を上回った。まさか本当にアンデッドクイーンの力を手に入れてしまうなんてね」
面白くてたまらない。陛下の笑顔がそう語っている。
私の背後に控えているシルバーが、「ええ、すごいでしょう」と小声でつぶやいた気がした。
「陛下、もうひとつ聞きたいことがあります」
「いいよ、何でも聞いて、そして見てくれたまえ」
陛下は、バサッと衣服を脱いで自慢の大胸筋を見せつけてきた。
正直、興味はない。
「服着てください」
「あ、うん」
私の塩対応に傷ついた様子もなく、陛下は衣服を着直した。
「それで、聞きたいこととは何かな?」
私は左耳につけたイヤリングに触れながら尋ねた。
「この死に戻りの魔道具、なぜ自分に使わなかったんですか? 身の危険を感じていたのでしょう?」
「ああ、それはデケンベル家しか使えないんだよ」
「え、そうなんですか? デケンベル家しか使えない魔道具を、なぜ陛下が……」
「初代デケンベルの申し出により、宮殿の保管庫に封印されていたのさ」
思いがけない話を聞いて、私は目をみはった。
「初代様が!? そんなの初耳です!」
「だろうね」
「父も、こんなとんでもない魔道具があるなんて教えてくれませんでした」
「きっと存在さえ知らないよ。デケンベル家にすら秘密にされてきた魔道具だからね」
陛下は言葉を切って紅茶を飲むと、また口を開いた。
「そのイヤリングに刻まれている紋章は、初代デケンベルが好んで使用したものらしい。ちなみに、十二神を捕獲した魔道具も初代の作品だよ」
「へえ、初代様ってすごい! だから、どちらも似たような紋章だったんですね。でも、なぜ宮殿の保管庫に封印する必要があったんですか? デケンベル家にあれば私が使ったのに」
「気を悪くしないでほしいんだけど、きっときみには理解できない感情だと思うよ」
「どういうことですか?」
「本人がそう言ったわけではないから、僕の推察になるけどね」
陛下はそう前置きしてから語り始めた。
「初代デケンベルも、きみと同じように最初から強力な魔法が使えたわけじゃなかったらしい。だから、特殊な鉱石を使用してトキナオシとトキノキズアトを開発し、戦時中はそのトキナオシで国に尽くしてくれた。だが……」
陛下は真剣な面持ちで私を見つめた。
「死に戻りには、常に死の運命がつきまとう。何度も繰り返される死の痛みと恐怖に、精神が耐えられなかった。自分の子孫には同じ思いをしてほしくなかったから、宮殿に封印したんじゃないかな」
「ふうん? そんなものなんですね」
私は初代様の気持ちがわからなくて、首をかしげてしまった。
陛下は私の反応を見て、なぜか満足そうな顔をしてうなずいた。
「ほらね、きみは特別なのさ。だからきみに渡したんだよ」
「陛下の死の運命を変えるために?」
「そうだ。僕は自分の運命を変えてもらうために、きみを利用した。きみなら耐えられる……いや、きみしか耐えられないと思った。すまなかったね」
「謝罪なんて必要ありません。だって私は、この死に戻りで全人類をひざまずかせるつもりなんで!」
陛下はぱちぱちと目を瞬かせて、楽しげに笑った。
「あはは、いいね! 僕は一国の王として、きみを止めるべき立場ではあるけれど……僕もきみの作る世界が見てみたいよ」
陛下は穏やかな微笑を浮かべて、目を細めた。
この度量の大きさと寛容さが、国民に深く愛される理由だろう。
「きみはこれからどうする? 十二神に復帰するかい? それとも、魔術師の墓場に戻るのかな」
「いいえ。あそこを支配するインペラトルもぶっ潰しましたし、私の名前も知れ渡ったようなので、戻る意味を見出せなくなりました」
「そうだろうね。今後どうするかは、ゆっくり考えるといい」
ゆっくり考える、か。私はかすかに眉を寄せた。
胸の奥で、何かもやもやとしたものが湧き上がってくる。
「ありがとうございます」
苛立ちにも似たそれを態度に出さないよう注意しながら、平静な声で礼を言った。
陛下は私の異変に気づいた様子もなく、テーブルの中央に置いてある白い箱を見て言った。
「あ、そうそう、ステラのことも頼んだよ。これからも仲良くしてあげてね」
「ええ、まあ……」
私は渋々うなずいた。陛下、面倒事押しつけてない?
「では、私はこれで」
「ああ、またおいで」
私は陛下に一礼し、白い箱を回収してから宮殿をあとにした。
何だか最近イライラする、気がする。単調で退屈な日々がそうさせるらしい
ゆっくりなんてしていられない。今すぐ出発しなければ、取り返しのつかないことになる。
私は焦りにも似た、そんな衝動を抱えながら、デケンベル家に帰宅した。
「どうしてかしら。ずっと嫌な予感がする……」
私は軽くため息をつくと、ベッドに寝転がって目を閉じた。
明日こそは行き先を決めないと。そう思いながら深い眠りに落ちていく。
完全に意識が閉じる瞬間、誰かが耳元で笑った気がした。嘲笑うような、毒々しい声だった。
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