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3話 これが私の憑装ってわけ!

 新十二神や宮殿兵という戦力を失ったアリーズは、苦渋に満ちた顔をしていた。


「さあ、アリーズ、大事なお話をしましょうか。あなたが陛下を殺害し、グロウスと私に罪を着せて殺害しようとした計画とか、ね」

「ぐうぅ……余裕ぶっていられるのも今の内だぞ!」


 追いつめられたアリーズは、懐から水色の石がついたブレスレットを取り出した。


「来い、スライム!」


 アリーズが叫ぶと、床からにじみ出るようにして、水色の液状の魔物が大量に出現した。

 この魔物の危険性に気づいたヘリオス様が声を張り上げる。


「みんなスライムから離れるんだ! こいつの飛ばす液に触れると、身体が腐って死ぬぞ!」


 それを聞いた神官長や神官たちが、あわてて部屋の隅に避難した。

 シルバーや私の家具たちは、私を守るように集まってくる。


「あらあら、それってシニストラの操術よね? あなたがシニストラとつながっていたことがバレちゃったけど?」

「黙れ! ここで貴様らを殺せば、すべて私の思い通りにできるのだ!」

「やってごらんなさいよ! 私がひざまずかせてやるわ!」


 私は右手につけた魔物封印専用ブレスレットに触れた。


「ねえ、見えているんでしょう。力を貸しなさい、シュアン!」


 ブレスレットからシュアンの魔力を引き出して、全身にまとう。

 すると、アンデッドクイーンの禍々しい力を示すように、私の頭に二本の赤いツノが生えて、衣服が漆黒のドレスに変化した。


「おーほほほほ! 憑装大成功! 今なら王都の人間すべてをアンデッドにしてしまえそうだわ!」

「さすが、アビー様。見事な悪女っぷりでございます」

「当然よ、シルバー! さあ、来なさいアンデッドども! スライムを食らい尽くしなさい!」


 私が命令すると、床を突き破って大量のアンデッドが出現した。様々な種族の人間の死体が、一斉にスライムへと襲いかかる。


「元々腐ってるんだから、スライムに触れたところで問題ないわよね!」

「アンデッドを召喚しただと!? 正気か!?」


 アンデッドの登場に、アリーズは声をうわずらせながら後ずさりした。

 スライムたちはなすすべもなく、ぐちゃぐちゃと食い荒らされていく。


「ふふ、スライムの次はお前よ、アリーズ!」

「ぐっ! こんなところで終わってたまるか!」


 アリーズは顔中汗まみれになりながら、今度は灰色の石がついたブレスレットを取り出した。


「ちょっと、まだ隠し持ってたの!?」

「出でよ、ガーゴイル!」


 アリーズがその名を叫んだ瞬間、会議室の壁の一部が吹き飛び、崩れた壁の向こうから三体の魔物が飛びこんできた。

 醜悪しゅうあくな顔と大きな翼を持つその姿は、書物で描かれる悪魔そのものだ。

灰色の悪魔たちは私たちの頭上を飛び回り、「ギィギィ!」と耳障りな笑い声を上げた。

 

「ふはははは! いくらアンデッドであろうと、飛んでいる魔物に攻撃することはできないだろう! 今度こそ死ね、アビゲイル!!」


 アリーズの嘲笑ちょうしょうが響き、私は顔をしかめた。

 ただでさえ騒がしいのに、そこに神官長たちの絶体絶命と言わんばかりの悲鳴があふれて、さらに私を苛立たせる。


「アビゲイルくん、このままでは!」


 ヘリオス様がすがるように私を見た。神官長たちも助けを求めるように私に視線を向ける。

 彼らの態度に、シルバーが「すごいですね」と皮肉っぽく笑った。


「今になってアビー様の能力を理解し、助けを求めるなんて……図々しいやつらだ」

「ま、たしかに腹は立つけど、それでいいのよシルバー。弱者は強者にすがり、強者は強者らしく力を見せつけないとね。これはそのためのパフォーマンスよ!」

「なるほど……さすがです、アビー様」


 得意気に胸を張る私に、シルバーはすこしだけ表情をゆるめた。

 ちょうどいい。沸々と湧いたこの怒りをぶつけるには、最高の舞台だ。


「ということで、今回はサービスしてあげるわ」


 私は指の腹で右目の周りをなでた。自分では見えないけれど、ここにはある紋章が刻まれている。 


「おいで、アンブラ」


 名を呼ぶ。すると、右目が熱を持ち、崩壊した壁の向こうに見えた青空が、一瞬にして暗闇に覆われた。

 ガーゴイルたちが気配に気づいて振り返ると、その暗闇が一体のガーゴイルを飲みこんだ。


「へあ?」


 アリーズは間抜けな声を上げて、その光景を呆然と眺めた。

 怯えたガーゴイルたちが「ギャアギャア」と叫ぶが、二体目、三体目と次々と姿を消す。

 ゴクンと飲みこむ音が聞こえて、暗闇の中に丸々とした月が現れた。それは巨大な目だ。


「ド、ドラゴン……」


 アリーズがかすれた声でつぶやくと、漆黒の王が威嚇するように雄叫びを上げた。

 突風が吹き荒れ、アリーズは壁に叩きつけられて息を詰まらせる。


「が、がはぁっ!!」


 どこか折れたのか、ボキボキと心地良い音が鳴り響いた。

 ヘリオス様たちは本物のドラゴンを前にして震え上がり、降伏するように床に伏せた。


「あらあら、お可哀想に! 激痛で声も出ないかしらぁ?」

「う、うぐっ」


 アリーズは私に何かを言いかけたけど、アンブラの視線に気づいたらしく、ぎくっと身体を強張らせた。


「うーん、あなたを生きたままドラゴンの餌にしてあげてもいいけど……まずはどこの部位がいい? 特別に選ばせてあげる」

「ひいっ!?」

「ああ、でも、上手に命乞いができたら助けてあげてもいいわよ」


 それを聞いたアリーズの判断は早かった。

 アリーズは痛みにうめきながら、降参を示すように両膝をついて、額を床につけた。


「ど、どうか、命だけはお助けください! 何でも、何でもしますから!!」

「ちょろーい」


 私はアリーズの顔の横で、カツンと靴を鳴らした。丸められた背中がびくんと震える。


「じゃあ、まずは全裸になりなさい」

「ぜ、全裸!?」

「これ以上操術を使われても面倒なのよ。隠しているものがないか調べないと。どうしたの、何でもするんでしょ?」

「は、はい……」


 アリーズは痛みで顔をしかめながら、神官長の制服を脱ぎ始めた。

 その様子を見ているヘリオス様や神官長たちは、複雑な顔をしていた。そりゃ、同僚のストリップショーなんて見たくないわよねぇ。


 すべての服を脱いだアリーズは、上目遣いに私を見た。


「脱ぎました」

「じゃあ次は、アビゲイル様最高、と叫びなさい」

「アビゲイル様、最高!」

「声が小さい」

「アビゲイル様最高!! アビゲイル様最高!!」

「ぷっ、あははは! 無様無様ぁー! そのまま全裸で宮殿の床を舐めて掃除しなさいよ!! おーほほほほ!!」


 私が気持ち良く笑っていると、アンブラが退屈そうに鼻を鳴らした。


『アビゲイル、こんなつまらないことで我を呼ぶな』

「つまらない? あなたのおかげで私はとっても楽しいわよ! あなたがいたからこそ最高のパフォーマンスになったわ!」

『む……』


 アンブラはちょっと嬉しそうに目を細めた。ちょろい。


『ふん、今回はサービスしてやる。今度はもっと派手に暴れさせろ』


 アンブラは照れ隠しのようにそう言って飛び立った。

右目が再び熱を持ったってことは、もう一度契約が交わされたのかもしれない。

 ドラゴンってサービスよすぎない?



面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたら、


ブックマークと下側にある評価【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!



読者様の反応、評価が作品更新の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!

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