6話 自白タイム!
アリーズは私を見て、不快そうに眉を寄せた。
そのアリーズの両脇に、いかつい顔をした筋骨隆々の男がそれぞれひとりずつ立っている。
「シャリス! その女の言葉に耳を傾けるな。それは聖女を殺害しようとした大罪人だ。すみやかに処刑しろ」
「どっちが罪人よ。知ってるのよ、私は」
「何のことだ」
「とぼけないでよ。あなたが犯人だって証拠をシャリスに渡したわ。観念しなさいよ、このドクソ野郎!」
アリーズは顔を真っ赤に染めて、頬をぴくぴくと震わせた。
シャリスが私に、「そうでした?」と言いたげな視線を向けるので、私は素早く「話を合わせて!」と目配せした。
「何を言うかと思えば! シャリス、その女の言っていることはすべてデタラメだ! 陛下を殺めたのは間違いなくそのクソ女だ!」
「殺めたんですか? 俺たちは今、陛下を誘拐した犯人の話をしていただけなんですが」
「な……」
アリーズは目を見開いた。
話を聞いていた憲兵隊や神官たちの間にどよめきが走る。
あらあら、語るに落ちるってやつ?
「ち、違う! 言い間違えただけだ!!」
「そうですか」
シャリスは納得したようにうなずくと、アリーズに向けて槍を構えた。
アリーズは面食らった表情をした。
「俺はアビゲイルさんのことをよく知りませんので、処刑の理由も興味なかったんですけど……」
「ど、どういうつもりだ、シャリス!」
「アリーズさんがグロウスさんを急かして、かなり強引に処刑を決定したと聞いています。今、その理由がわかりました」
「はあ!? やっぱりあなたがすべての元凶なのね! グロウスの独断にしては手際が良すぎると思ったわ! どうしてあなたに殺されなきゃならないのよ!!」
アリーズは鼻を鳴らして、開き直ったように悪意のこもった笑い声を上げた。
「陛下の日記に書いてあったのさ。私が陛下を殺害する前日、陛下はお前に会って何かを託した、とな」
「陛下を殺害」という言葉に、その場にいた人々は悲鳴を上げた。
「翌朝になると死体が消えていたし、お前が何かしたのかと思って、気が気でなかった」
「はあ、なるほど。それでアビゲイルさんを処刑しようとしたわけですか」
シャリスは深くため息をついた。その瞳には静かな怒りが宿っている。
「陛下の殺害を認めましたね、神官長アリーズ。ならば俺は、総神官長ヘリオスに代わり、あなたを裁かなければならない。楽に死ねると思うな」
「ふん! こんなところで私の野望が砕かれてたまるか! 行け、アングイス兄弟!!」
アリーズの両脇にいた男たちがにやりと笑って、それぞれ剣を構えた。
「こいつらは名門マルティウス家で鍛えられた一流の魔術師たちだ。今日からお前に代わって十二神最強となるであろう! 終りだ、シャリス、アビゲイル!」
アリーズは勝ち誇ったように叫んだ。
シャリスはじっとアリーズを見つめながら、なぜか構えを解いた。
「アビゲイルさん」
「何?」
「目を閉じ、耳を塞いでください」
シャリスの膨大な魔力が、波のように押し寄せてくる。禁術レベルの魔法を使うのかもしれない。
私はあわててシルバーの腕を引いた。
「シルバー、私のそばにいなさい!」
「は、はい!」
念のためシルバーにも防御魔法をかけてから、目を閉じて耳を塞いだ。
暗闇の中で、槍の石突が、とんっと地面を叩いた感覚だけが伝わってきた。
「その矢は雷帝の報復……逆鱗」
大砲でも撃ったかのような轟音がして、激しい光がまぶたを貫通した。
十秒ほど数えてからゆっくりとまぶたを開くと、目の前の地面が大きく陥没していて、その穴の底でアングイス兄弟が丸焦げになって倒れていた。
穴の近くには、白目をむいたアリーズも倒れている。アングイス兄弟に比べれば多少は手加減されたみたいだけど、所々焦げていた。
魔法の被害は十二神殿まで及び、崩壊した建物の向こうに王の宮殿が見えた。だいぶ見晴らしが良くなったわね。
「すさまじい威力ね」
あまり表情の変わらないシャリスが、珍しく得意気な顔をして言った。
「俺にかかればこんなもんですよ。これで陛下も浮かばれるでしょう」
「その陛下が大切にしていた十二神殿の一部、破壊してるけどね」
「あー……」
シャリスは瓦礫となった十二神殿を見て、困ったように頭をかいた。
「これ、やっぱり怒られますかね?」
「怒られるんじゃない? そんなことより、何よその姿!」
なぜかシャリスの服が変化している。
衣服に金色の模様が増えて派手になっているし、全身に雷属性の魔力が稲妻の筋のように走っているのが見えた。
「ああ、これですか。魔物封印専用ブレスレットに封印した魔物の力を使用したからですね。憑装とでも言いましょうか」
「何それ、かっこいい! 私もしたーい!」
シュアンを封印した魔物封印専用ブレスレットがあれば、私にもその憑装が使えるはず。
それにはまず、私がいた未来の世界に戻らなきゃいけないけど。
黙って考えこんでいると、シャリスが何かを思いついたように、「条件付きで譲ってもいいですよ」と言った。
「え、いいの?」
「いいですよ、もうひとつありますし。その代わり、俺と戦ってください。俺、強い人と戦うの好きなんで」
「急に戦闘民族みたいなこと言わないでくれる!? じゃあ、いらないわ。そもそも、そんなことしてる暇ないし」
「え?」
断られるとは思っていなかったのか、シャリスは驚いたように目を瞬かせた。
「アビゲイルさんほどの魔術師なら、このブレスレットの価値はわかりますよね?」
「わかるけど、今はいらないの」
「いるって言って」
「いらないってば」
「え~? 困ったな……あなた、どうやったら俺に興味持ってくれます?」
「いい加減にしてください!」
今まで静観していたシルバーが、私とシャリスの間に割って入った。
「これ以上お嬢様を困らせるなら、僕がお相手します!」
「シルバー! さすが私の所有物ね!」
「あ、はい! お嬢様の所有物ですから!」
シルバーは、ぱぁっと顔を輝かせて笑った。
現在のシルバーよりも無邪気な反応にびっくりして、私は思わずはしゃいだ声を上げた。
「何この子、素直! 可愛い~!」
「はあ、どこがですか。痩せたオニュクス族なんて興味ないですよ」
シャリスは「テンション下がりました」と不機嫌そうに顔をしかめた。
私と戦うのはあきらめてくれたみたい。多分。
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