5話 対決! 十二神最強!
間違いない。ここから見える景色も、私の服装も「あの時」のままだ。
「過去に戻った?」
すぐに首を横に振る。それはおかしい。私はすでに処刑台を回避しているのだから、ここが過去であってはならない。
考えられるのは、「処刑台ルートのうちのどれかに戻った」ということ。
「罪状を読み上げ……おい、聞いているのか、悪女アビゲイル」
「うるさい、死んで」
「はあ!? お前が死刑!!」
執行人がぎゃあぎゃあとわめいている。今大事なところなんだから邪魔しないでほしい。
私は黙って思考をめぐらせた。
ここに来た原因は何? ステラの手に触れたこと? 状況から考えると、あの片割れのイヤリングに触れたことが原因かもしれない。
「とにかく、ここでじっとしていたら殺されるわね」
手足を拘束する鎖をどうやって破壊しようかと考えていると、処刑を急かす人々の中から、私を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様!」
「え、この声って……」
はっと顔を上げると、人々の間を縫うようにして近づいてくるシルバーの姿があった。
立派な青年へと成長しつつある姿ではなく、ぼろぼろの服を着た、痩せた少年の姿をしていた。
「ということは、ここはイチゴタルトを渡したあの時の!」
シルバーは観客からの大ブーイングを受けながら、行く手を阻む憲兵隊の頭上を軽々と飛び越え、襲いかかる執行人の斧を素手で殴り砕き、颯爽と登場したパロットを雑に蹴り飛ばした。
たったひとりで私を助けようとして、私のために命を落とした少年がそこにいる。
その姿に心が震えた。
「お嬢様、今お助けします!」
シルバーは傷だらけになりながら、私の拘束を解こうと駆け寄ってくる。
その背後に、槍を持った死神が音もなく舞い降りた。シャリスだ。
槍を構えるシャリスを見て、私は鋭く叫んだ。
「シルバー、伏せて!」
「え!? はい!」
ありったけの殺意を魔力に練りこんで、私は突進してくるシャリスに向けて右手を突き出した。
あの時のように、ただ見ているだけの私じゃない!
「吹き飛べ! 薔薇の強欲!」
私の目の前に、幾重にも重なった炎の壁が出現し、シャリスと接触した瞬間に大爆発を起こした。
見物客たちが爆風に吹き飛ばされて、悲鳴を上げながら地面を転がり回る。
「おーほほほほ! 私の処刑を楽しんでいた罰よ!! 全員くたばれ!!」
シャリスは爆発の勢いに逆らわず、そのまま後ろに飛び退いて処刑台から降りた。
「おかしいな……」
シャリスは、右手をにぎったり開いたりしながら、不思議そうに首をかしげた。
「こんなに強い魔法を使う十二神って、いましたっけ?」
シャリスの反応に、私は「ふふん」と胸を張って答えた。
「刺激しかない経験と殺意のおかげで超超強化された、元・十二神よ!」
「はあ? よくわかりませんけど」
シャリスは探るように私を見つめた。彼は私に対する殺気を隠そうとしない。
十二神最強に警戒されるなんて、面白くて仕方がないわね。
「おい、今の見たか!?」
私の魔法を目撃した憲兵隊や神官たちが、何やら騒ぎ始めた。
「十二神最強であるシャリス様を、あの十二神最弱のアビゲイルが止めたぞ!?」
「あれは本当にアビゲイルか? あんな強力な魔法が使えるなんて聞いてないぞ!?」
モブたちの称賛が気持ち良い。新たな経験は、確実に私の魔力を高めていく。
もっと恐れおののきなさいよ!
「すごい……お嬢様はこんなにもお強かったのですね!」
地面に伏せていたシルバーが、目を輝かせながら私を見上げた。素直な反応がちょっと懐かしくて、私は表情をゆるめた。
「あなたのおかげでね」
「え?」
シルバーはきょとんと首をかしげた。
詳しく教えてあげたいけど、今はシャリスの攻撃を警戒しないといけない。
今の私には右手の紋章も、シュアンのコアもない。使える武器には限りがある。
どうしてここに来てしまったのか、その理由を知るためにも、まだ死ぬわけにはいかない。
「あら、そういえば……シャリスって総神官長直属の特権高位魔術師だったわね?」
「そうですけど」
シャリスは槍を構えるわけでもなく、じっとこちらを見つめている。
このまま対話する流れに持っていけば、戦わずに済むかもしれない。とにかく今は時間が惜しい。
私はシルバーに頼んで手足の鎖を外してもらうと、処刑台を降りてシャリスと向かい合った。
「シャリス。陛下の行方、知りたくない?」
シャリスの目が鋭さを増した。
「陛下は宮殿にいるでしょう」
声の調子は先ほどと変わらないけど、「犯人はお前か?」とその表情が語っていた。
「まあ、これだけ聞くと私が怪しいわよね。でも勘違いしないで、私はその誘拐犯を知っているのよ」
「シャリス!」
私の言葉をさえぎるように、男の声が響き渡った。
憲兵隊を押し退けて現れた男の姿に、私は思わず唇に笑みを浮かべる。
「早速登場ね、神官長アリーズ」
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