3話 国外追放? その言葉を待ってたわ!
「おい、聞いているのか?」
グロウスが何か言っているけど、今はそれどころじゃない。
冷静になって考えてみて、アビゲイル。追放はいい機会かもしれないわ。
魔術師の墓場で戦力を蓄えれば、どんな試練が訪れても対処できる。
それに、聖女や十二神、クソ神官長もいない。最高では?
「よって、アビゲイルの十二神の称号をはく奪し、国外追放とする!」
「待っていたわよクソ野郎、その言葉をね!」
「な、何だと!? ん? クソ野郎って言った?」
頬を引きつらせるグロウスに、私は不敵な笑みを浮かべて言った。
「お生憎様、このやりとりはとっくの昔に飽きちゃってるの、今更傷つくわけがないでしょ。私は早く魔術師の墓場に向かいたいの」
「な、何を言っているのかさっぱりわからんが、理解しているのなら話は早いな。お前の後任は聖女ステラが務める。これで王の守りは盤石となるのだ」
「嬉しそうねぇ。よっぽど私が邪魔だったってわけね」
「何か言ったか?」
「何も~?」
元々ステラを見つけたのはこのグロウスだ。これでステラが十二神になれば、グロウスは評価されて、副総神官長のポストを狙えるだろう。
だからって、処刑はやりすぎじゃないの? こいつもう一回燃やしていいかしら。
密かに復讐を考えていると、グロウスは満足げに笑って語り始めた。
「まあ、魔術師の墓場と言われているが、治安の良い場所もあるかもしれん。ほとんど魔法が使えない無能でも、それなりに生きていけるのではないか?」
無能。その言葉にイラッとしたけど、深呼吸して冷静になる。
こんなところで燃えていたら、いつまでたっても私の理想が叶わない。
「暴漢にはくれぐれもご注意を……いざとなれば、その身を売ってしのげばいい」
「貴様っ、娘を侮辱するな! 神官長ともあろう人間が、よくもそのような下品なことを口にできるな! この私が許さんぞ!」
お父様が顔を真っ赤にして、グロウスに殴りかかろうとした。私はとっさにお父様の腕をつかんで止めた。
「お父様、もういいのです」
「アビー……」
お父様は目をうるませて、私の手をとった。
「でも、このクソ野郎をぶっ飛ばさないと、パパの怒りが収まらないよ~!」
「クソ野郎って言った?」
「クソ野郎のことなんて放っておけばいいの。私なら大丈夫ですから……」
「おいこら、クソ親子」
「不甲斐ない父で、すまない……」
「泣かないで、お父様。悪い話ではないのだから」
「え?」
お父様はきょとんとした表情をして、首をかしげた。
処刑台を回避するだけの、窮屈で退屈な日々からようやく解放されるのだから、いいことずくめじゃない。
私は手で髪をなびかせ、不審がるグロウスとフロストに余裕たっぷりの笑みを向けた。
「ご命令通り、私は魔術師の墓場に向かいます。それではご機嫌よう、国を蝕むクソ寄生虫ども! おーほほほほ!!」
「はあ!?」
私はお父様を連れて、颯爽とその場を立ち去った。
背後でグロウスのわめき声が聞こえる。
「あの無能の最弱魔術師が!! よくもこの私を寄生虫などと~~!!」
「落ち着いてください、神官長。あれはアビーの負け惜しみです。無能の最弱魔術師にできることは、口汚くののしることだけですから」
「ほう、それもそうか……くくっ! 今頃涙をこらえているかもしれんな」
もう一度燃やしてやろうか!? と思ったけど、拳をにぎって必死に耐える。
優位に立った気でいられるのも今の内よ。
「ああ、アビー、引き継ぎは必要ないぞ! お前のような無価値な魔術師からは何も学べないのでな! 気兼ねなく旅立つといい……あの世にな! あっはっはっは!!」
「そんなに笑っては可哀想ですよ、神官長」
嘲笑うグロウスとフロストに腹が立つけど、どうでもいいと開き直る。
背後でバタンと扉が閉まると、私は勝ち誇ったように笑った。燃えなかったのだから、実質私の勝ちよ!
「ふふ! こんな窮屈でハエがたかってそうなゴミみたいな職場、こっちから願い下げよ!」
「さすがパパの娘だ! まだ悔しさはあるが、ちょっとスカッとしたよ! しかし……」
お父様は愉快そうに笑ったけど、急に真剣な表情になって言った。
「魔術師の墓場は危険が多い。大丈夫かい、アビー」
「何も心配いらないわ、お父様! 危険なんて最高のスパイスだもの! 刺激に満ちた日々が楽しみで仕方がないわぁ! おーほほほほ!!」
私はお父様の不安を吹き飛ばすように高笑いした。
魔術師の墓場を屈服させて、私を侮辱する人間どもを……全人類をひざまずかせてやる。
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