13話 神官長グロウスの末路
インペラトルが本部として使用する古城は、どこも薄暗く陰気な場所だった。
食堂の椅子に座っていた私は我慢の限界を迎え、菓子が盛られた皿を叩き落とした。
「グロウス様、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか! この私が、あのシニストラに散々こき使われているのだぞ!? これでアビーを始末できなかったら許さんぞ!」
私は怒りに震えながらも、あのシニストラが失敗することはないだろうと頭では理解していた。リヴァイアサン殺しの実力は本物なのだ。
今頃アビーはドラゴンの餌になっているだろう。そう思うことで、ようやく落ち着きを取り戻した。
「ようやくだ、ようやくあの無能魔術師から解放される! やつの死体を確認したら、こんな場所からはおさらばだ。まあ、死体が残っていればの話だがな!」
「しかし、グロウス様。願いの薬壺の持ち出しがバレたら責任問題になるのでは……」
私が鋭くにらむと、神官はあわてて口をつぐんだ。
「そんなものバレなければ問題ない! 毎日のように確認するものでもないからな!」
私は急に気分が良くなって、果実酒を一気にあおった。
「そんなことよりも、地下牢にいる村人の中に金髪の美しい娘がいると聞いたぞ。その娘をここに連れてこい」
「よろしいのですか? シニストラ殿にバレたら……」
「帰ってくる前に牢に戻せばいいだけの話だ! お前たちも好みの女を見つけたら好きにするといい」
それを聞いた神官たちはどよめいた。困惑しながらも、大半がその気になっているようだ。
シニストラは「地下牢の村人は実験体だから触るな」と言っていたが、どうせ死ぬなら可愛がってからでも問題はないだろう。
「ふむ、そう考えると、ここでの暮らしも案外悪くないな。アビーの死体を酒の肴にして、女たちと遊んでやろう!」
期待に胸をふくらませながら、つがれた果実酒を飲む。それと同時に、巨大な火の玉が壁を突き破って飛びこんできた。
私は果実酒を噴き出した。
「な、何だぁ!?」
「うぎゃあぁぁぁぁ!?」
「た、助け、ぎゃあぁぁぁぁ!!」
火の玉は、神官たちを巻きこんで激しく爆発した。
煙が充満して、部屋の中がよく見えない。
「げほっ! な、何だ!? 何が起きているのだ!?」
古城そのものが激しく揺れて、頭上のシャンデリアが落下してきた。
間一髪で避けたが、落下した衝撃でシャンデリアの装飾が飛び散って、その破片が私の右腕を貫いた。
「ぎゃあ!? 腕が、私の腕が!! くそっ、誰かいないのか!?」
周囲には瓦礫が積み上がり、部下の神官たちは全員気を失っていた。
助けを求めるために周囲を見回していると、壁にあいた穴からこちらを覗いている巨大な目玉と目が合った。
「ひい!?」
その目玉は私を見ると、すぐに離れていった。目の大きさからして、相当大きな生物、または魔物がいたようだ。
「まさか……今のはドラゴンか?」
最悪の展開に、私は戦慄した。
「どういうことだ! なぜドラゴンがここに!? せっかく貴重な魔道具を持ち出したというのに、操術は失敗したというのか!?」
どちらにしろ、ここにいては食い殺される。
私は穴のほうを警戒しながら、そろりと後ずさりした。
ドラゴンに気づかれないように、小声で助けを求める。
「だ、誰か……この際誰でもいい、私をここから連れ出してくれ!」
すると、まるで私を逃がすまいと、ドラゴンの肢が天井を突き破り、逃げ道を塞いでしまった。
「ひえぇぇぇぇ!?」
私は頭を両手でかばいながら地面に伏せた。
恐る恐る目を開けると、ドラゴンの肢に誰かが乗っているのが見えた。その人影はふたつあり、その内のひとつが邪悪な笑みを浮かべて私の前に降り立った。
アビーである。
「呼んだ?」
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
「あらぁ、久しぶりねグロウス! あなたまで魔術師の墓場に来ているなんて思わなかったわ~! 再会を祝して宴を開きましょう!」
「く、来るなぁぁぁぁ!」
「どうして逃げるの?」
捕まったら殺される!
本能的に理解した私は、怪我をした右腕をかばいながら走った。
「ううっ、真面目に陛下に仕えてきた私が、なぜこんな目に遭うのだ! 私が何をしたというのだ! これもすべてあの女のせいだ!」
「人のせいにしてんじゃないわよ!」
「ぐおっ!?」
何かが後頭部にぶつかり、その衝撃と激痛で私はその場に倒れこんだ。
「ぐあぁ! いったい、何が……」
まぶたを開くと、顔の横に私の頭と同じくらいの大きさの石が落ちていた。
「ま、まさか、これを私に投げつけたのか!?」
震える手で後頭部に触れると、手にべったりと血が付着して、思わず気が遠くなった。
「ねえ、知ってた? ドラゴンって優れた聴覚を持っているの」
ゆっくりと顔を上げると、目の前にアビーが立っていた。背中に冷たい汗が流れる。
「ドラゴンから聞いたわよ。私の死体を酒の肴にして、女を食い物にしようとしたんでしょ? 誰が真面目に陛下に仕えてきたですって? この変態クソ野郎が!!」
「だ、誰が変態だ! この無能魔術師風情が、この私に……」
「重罪」
アビーが何かをつぶやくと、私の身体はうつ伏せの状態で床に叩きつけられた。
まるで、壁と壁に押し潰されたかのように、指先ひとつ動かせない。
自由を奪われた恐怖から鼓動が早くなり、血の気が引いた。
「私に、何をした!?」
「ふふ、あなたと再会できた喜びで、魔法が発動しちゃったわ」
「これが、お前の魔法だと!?」
「そういえば、私を追放する時によくもボロクソに言ってくれたわねぇ? お礼がまだだったわ。それ!」
アビーはかかとで、怪我をした私の右腕を踏みつけた。脳天を貫くような激痛が走り、自然と悲鳴が飛び出していた。
「うぎゃあぁぁぁぁ!?」
「よくも無能だなんて言ってくれたわね! あなたが!」
「うぎゃあっ」
「消えたほうが!」
「うひぃん!」
「世の女のためになるわよ!」
「うひぃぃん!」
傷口を重点的に攻撃され、あまりの激痛で何度も意識が飛びかけた。
私は泣きながら、声を震わせて懇願した。
「もう やめてくだしゃいっ!!」
「あーん?」
「これ以上は私が死んでしまう! 私には、守らなければならない家族がいるんだ! お前も家族は大事だろう? 十二神の中でも心優しいお前なら、わかってくれるはずだ」
さとすように優しく語りかけると、アビーはひどくがっかりしたような表情をした。
「それで同情を誘ってるつもりなの? お粗末にもほどがあるわよ、くたばれ!」
「うぎゃあっ!? も、もう、やめて、踏まないで……」
「おーほほほほ!! おーほほほほ!!」
容赦なく腕を踏まれつづけた私は、尋常ではない痛みを感じて、涙とよだれを垂れ流しながら意識を失った。
「ちょっとぉ、おねんねするにはまだ早いわよ」
「うぎゃ!?」
全身を貫く激痛に、急速に意識が覚醒する。
目の前には、毒々しく微笑むアビーの顔があった。
あ、悪魔だ……。
「さあ、お仕置きの時間よ。これ以上退屈させないでよ、ねえ?」
「ひえ……」
これから行われるであろう地獄のお仕置きに、私は死を覚悟した。
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