9話 僕の勝ちだ!!
シニストラは笑いの余韻を残しながら私に尋ねた。
「それで? 貴様がここに着席している意味は?」
「あなたの死に顔を眺めてやろうと思ってね」
シニストラはぽかんと口を開いて、再び笑い出した。
「きみは今、選択を誤ったぞ! 僕の犬になるために命乞いをする場面だったはずだ!」
「どうして?」
シニストラは、火柱に捕らえられたドラゴンを見て言った。
「ドラゴンの足止めは長くもたない。今のうちに新しいご主人様の機嫌をとったほうが良かったってことさ」
「同感だわ。早く私の機嫌をとりなさいよ、クソうじ虫野郎。今から私があなたのご主人様よ」
「ク、クソうじ虫野郎だとぉぉぉぉ!?」
シニストラの顔が真っ赤に染まり、激しい歯ぎしりの音が響いた。
人がイラついてる顔って、なんでこんなに気持ち良いのかしら。
「魔術師の墓場に発生したうじ虫でしょ? 駆除してあげなきゃね」
「こ、この最弱ゴミ魔術師風情が! 僕を誰だと思っている!?」
「誰って、大罪人として追放された自称天才さん?」
「黙れ! 自称ではなく本物の天才だ! それに追放なんてされていない!」
「そうなの?」
「そうだ! あの国は退屈すぎたから、僕から出ていってやったのさ! それなのにあの国は、僕が大罪人だから追放したなどと好き勝手言いやがって! だからドラゴンでお仕置きしてやるのさ!」
それに同意するように、インペラトル兵たちが声を上げた。
「そうだ! 決して操術を人間に使いまくったから、危険人物指定されたわけではないぞ!」
「女性に変態扱いされて自棄になったとか、そういうわけではないぞ!」
「黙れぇぇぇぇ!!!」
「ぎゃあ!?」
「うぎゃあ!?」
シニストラは椅子から立ち上がり、鞭で部下の顔面を叩いて黙らせた。
「誰が変態だ!! 誰が陰湿でキモイだ!! ゴミ風情がこの僕を侮辱しやがって、全員服従させてやる!!」
シニストラは大きく息を切らしながら、鋭く私をにらんだ。
「まずは貴様を殺し、その次はエールクラルスをぶっ潰す! 僕を見下したゴミどもに、僕こそが天才魔術師であり、神であることをわからせてやるのさ!」
「あなたに私が殺せるかしら」
「余裕ぶっていられるのもそこまでだ。どうやら魔力切れのようだからな?」
シニストラが嬉しそうな顔をして言った。
ドラゴンを足止めしていた火柱がすうっと細くなって、完全に消滅したのが見えたからだ。それと同時に、魔力切れを起こしたラヴァが、右手の紋章に戻った気配がした。
「よくやったわ、ラヴァ。あとでご褒美をあげる」
私を認識したドラゴンが、雄叫びを上げてこちらに向かってくる。
シニストラは、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「命運尽きたようだな。今更命乞いをしても遅いぞ?」
「死んでもしないから安心して」
「き、貴様っ! どこまでも僕を馬鹿にしやがって! ドラゴンよ! この女を食い殺せ!!」
「ふふっ」
思わず吹き出した私に、シニストラは不快そうに顔をゆがめた。
「何がおかしい!」
「技術はあっても、想像力が足りないみたいだから」
「はあ?」
「たしかにあの炎でドラゴンは倒せないけど、あなたの仕掛けた魔道具はどう?」
「何を……」
シニストラは手首のブレスレットに目を落としてから、何かに気づいたようにドラゴンに向かって叫んだ。
「止まれ!」
「ガァァァァ!!」
止まることなく反抗的に叫び返すドラゴンに、シニストラの顔が一気に青ざめた。
「ど、どういうことだ!?」
「あらぁ? ご自慢の操術はさっきの魔法を受けておかしくなっちゃったのかしら?」
「馬鹿な……くそ! 虹色の光!」
ふっとシニストラの姿が消えて、イスカがあわてて周囲を見回した。
「逃げたのか!?」
「見えなくなっただけで、そこにいるわよ。ドラゴンから認識されないようにする認識阻害魔法と、私を狙ったドラゴンの攻撃から身を守るための防御魔法を発動させたみたい」
混合魔法の長所は、ひとつの魔道具で様々な効果の魔法を一度に使用できること。
でも、その混合魔法を完璧に使いこなせる魔術師は限られる。腐っても天才ってことね。
「ふははは! これで終わりだな、アビゲイル! 僕の勝ちだ!!」
どこからか、勝利を確信したシニストラの笑い声が聞こえてくる。
私は右手を伸ばして、目に見えない壁の表面に触れた。
「解除」
私が呪文を唱えると、何もない場所に白いひびが入り、パリンとガラスが割れるような音が響いた。
混合魔法の壁が消失し、愕然と立ち尽くすシニストラが現れた。
「なぜだ!? なぜ僕の混合魔法が破られた!? 対策はしているはずなのに!!」
「魔道具が破壊されれば終わる。この儚さが混合魔法の短所ね」
「何だと!?」
シニストラは手に持った鞭を凝視した。鞭は煙を上げて、ぼろぼろと崩壊していく。
「うわぁ!? 僕の鞭が!!」
「ふふ、この私が! 何の対策もなしに、のこのこ出てくるわけないでしょ! あなたの魔道具はとっくに解析済みなのよ!」
「不可能だ! 接触すらしていないのに、僕の魔道具を解析し、破壊したというのか!?」
シニストラははっと気づいたように、声を震わせて言った。
「そうか、十二神の予言を使えるなら、離れた場所にある魔道具内の魔力を読んで、解析できるのか……」
「そういうこと! さあ、ドラゴンが怖いなら今すぐ逃げちゃえば? 天才様なら、ドラゴンから逃げるのも余裕よね?」
「そ、それはっ」
シニストラの目が泳いだ。
あともうちょっとで壊れそう。楽しくて、身体中がぞくぞくした。
「できないわよね~? 入念な計画があって初めて行動できるあなたは、想定外に直面すると子犬のようにプルプル震えちゃうもんね~?」
「こ、こ、この僕を愚弄するな!!」
「シニストラ様! 早くここから逃げましょう!」
ドラゴンを制御できないと知った彼の部下たちが、逃げるべきだと口をそろえて訴えている。
今逃げても間に合わない。シニストラはそれをわかっているから、そこから一歩も動けないようだった。
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