8話 初めまして、燃えるゴミ!
僕のドラゴンが巨大な火柱に阻まれて、激しくもがいているのが見える。
「ドラゴンを足止めするだと!? それにあの威力は禁術レベルじゃないか! ありえない!」
熱風による汗で、眼鏡がずり落ちた。
「落ち着け、禁術だとしてもドラゴンを足止めしつづけるのは不可能だ。必ず魔力が尽きる!」
一時的とはいえ、ドラゴンを封じられて動揺してしまったが、こんなことは長くつづかない。
僕はアビゲイルの浅はかさを笑った。
「冷静になって考えればわかることじゃないか。僕の勝ちは揺るがない! 僕のドラゴンで、今度こそアビゲイルを灰にしてやる!」
「それは楽しみだ」
僕の左隣に椅子が置かれて、そこに部下が座った。
赤い軍服の腕章を見れば、それが下っ端の兵であることは一目瞭然だった。
身の程知らずの間抜けな兵に、僕は怒りのあまり持っていた鞭を折りそうになった。
「おい、貴様! 貴様ごときがなぜ最高司令官である僕の隣に座って……」
「ドラゴンを操ろうと考えて、それを実行できるほどの魔術師は、ラピスブルー王国には存在しない」
兵が帽子をとって顔をさらした。押しこめられていた長い髪がふわりと風になびく。
そこには、今まで小鳥に監視させていたはずの女がいた。
「お初にお目にかかります、リヴァイアサン殺し……いえ、エールクラルス帝国の天才魔術師、シニストラ」
勝気そうな瞳が、挑むように細められる。
この僕を嘲笑うような態度に怒りを覚えたが、あえて笑顔で出迎えてやった。
「ようこそ、国を追放された元十二神、アビゲイル・デケンベル。歓迎する、よ?」
ガッと音を立てて、アビゲイルが僕の左腕をつかんだ。振りほどこうとしても、びくともしない。
「は!? 力強っ!? 痛いっ、痛いぞ!?」
アビゲイルは僕の腕に指を食いこませながら、にっこりと微笑んだ。
「このクソうじ虫野郎……とりあえず死ね!!」
アビゲイルの手から炎が噴き出し、僕の左腕に燃え移った。
「うわぁぁぁぁ!? 何を考えているんだ貴様ぁぁぁぁ!?」
燃え移った炎は勢いを増して、あっという間に僕の全身を包みこんだ。皮膚が焼ける、目が焼ける、喉が焼ける。
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「シニストラ様!?」
「アビー様!!」
僕の部下と、アビゲイルが連れていた従者の叫び声が響いた。
アビゲイルは特に気にする様子もなく、その目をぎらぎらと輝かせていた。
こいつ、死が怖くないのか!?
「おーほほほほ!! 燃えろ、燃えろ~~!!」
「だ、誰か早く水属性魔法を……誰か早く、僕を助け……」
助けを求めて、もがき苦しむ僕の右手をつかむ者がいた。
アビゲイルだ。
彼女は僕と一緒に炎に包まれながらも、熱を感じていないかのように笑っている。
人生最大の恐怖に、僕は涙を流して絶叫した。
「ぎゃあぁぁぁぁ!! 嫌だぁぁぁぁ!!」
「助かるとでも思ってんの!? 残念ね!! お前はここで死ぬのよ!! 死んで炭になりなさーい!!」
「ひぃぃぃぃ!?」
「おーほほほほ!!」
炎に視力を奪われ、視界が暗闇に支配される。
唯一機能していた僕の耳の奥で、アビゲイルの悪魔のような笑い声がこだましていた。
「ようこそ、国を追放された元十二神、アビゲイル・デケンベル。歓迎するよ」
目の前には炭になったシニストラ、じゃなくて嫌味たらしく笑っているシニストラがいた。
私は心底がっかりして、思わず深いため息をついた。
「あーあ、どうして殺意が高まると、私も一緒に燃えるのかしら。死ぬのはこいつだけでいいのに」
「何を言っているのかわからんが、貴様が死ね」
「あら、そう怒らないでよ。私はあなたを尊敬しているのよ?」
「何?」
シニストラは疑わしげに眉をひそめた。
「あなたはエールクラルス帝国に生まれた天才魔術師で、主に魔道具方面の才能に恵まれた。そして、十歳になった時に、あのリヴァイアサンを討伐した」
「そうだ、よく勉強しているじゃないか」
「けれど、神童と呼ばれたあなたは、その才能で様々な悪事を働き、追放された。今は国賊であり大罪人だったかしら?」
シニストラは額に青筋を立てたが、怒鳴り散らすような真似はしなかった。
「ふん、そんな挑発には乗らん」
「あら、残念! 意外に冷静ね」
「僕のほうこそ、きみの意外な才能に驚いていたところさ」
「そうなの?」
「偶然僕の居場所を突き止め、偶然数々の罠を突破してここまでやって来た。きみは運が良いらしい。特別に、再利用価値のあるゴミとして認めてあげようじゃないか!」
シニストラが小馬鹿にしたように笑って言った。
私の隣で、インペラトルの軍服を着たシルバーが「殺す」とつぶやいた。でも、実際に行動を起こしたのはイスカのほうだった。
「お前らのせいで、どれだけ俺たちが苦しめられたのか、どれだけの人たちが苦しんだのか、わかってんのか!?」
イスカが憎しみをぶつけるように叫んで、手に持っていた槍を突きつけた。
シニストラは怪訝そうな顔をした。
「何を言っている? ただの実験動物を気にかける馬鹿がどこにいるのだ」
「じ、実験動物だと!?」
「貴様はシューラ族だな。シューラ族は身体が頑丈だから、実験動物や戦いの道具として重宝したよ。優秀な遺伝子を持つシューラ族を交配して、僕好みの兵器を作る予定だったが、まさか裏切るとはな……次は改良した操術で、徹底的に自由を奪うとするか! あははは!」
シニストラは毒々しい笑い声を上げた。
イスカは目を血走らせて、槍で襲いかかろうとした。
「待ちなさい」
「マスター! どうして止める!!」
腕をつかんで止めると、イスカは獣が威嚇するように歯を見せて、うなり声を上げた。
「まだ動くには早いからよ」
「く……わかったよ」
イスカは不承不承といった感じで後ろに下がった。にぎった拳が怒りで震えていた。
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