2話 神官長は二度燃える
「よって、アビゲイルの十二神の称号をはく奪し、国外追放とする!」
「あ、ここに戻るんだ」
目の前にはグロウスのにやけ顔があった。
てっきりステラとのお茶会まで戻ると思ったけど、処刑台という死の未来が変化したから、分岐点が変わったのかもしれない。
私が黙って考えこんでいると、グロウスが顔をしかめた。
「おい、聞いているのか? わかったら、さっさとここから出て……」
「納得できない!」
グロウスをさえぎるように、異議を唱える声が上がった。
今の声はマリアン・デケンベル。私のお父様だ。ずっと静かだったから存在を忘れていた。
お父様は涙を流しながら言った。
「なぜ私の可愛いアビーが、十二神の称号をはく奪され、国外追放されなければならないんだ!?」
「ただの国外追放ではない。場所は『魔術師の墓場』だ」
「もっと悪いじゃないか! 『魔術師の墓場』と言えば、穢れた大地が広がり、治安も悪く、王の加護がないために疫病が流行しているもっとも危険な場所だ!」
「説明ありがとう、お父様。というかギリギリ国内じゃない。どこが国外なのよ」
「黙れ、黙れ! あんな場所、国外も同然だ!」
フロストが「神官長」と声をかけると、グロウスははっとして落ち着きを取り戻した。
「ごほん! その女は聖女に宝石のような魔道具を渡し、彼女を操って国を乗っ取ろうとした疑いがある。魔術師の墓場送りは妥当な判断です」
「はあ!? 宝石ってあのイヤリングのこと? あれにそんな力はないわ! ただの贈り物を曲解してんじゃないわよ!」
グロウスはうるさそうに顔をしかめて言った。
「本来は処刑ものだが、聖女が望まないと言うので国外追放だけで済んでいるのだ。聖女に感謝しなさい」
「誰がするか! 聖女がどうとか言ってるけど、どうせ全部あなたの判断でしょう!」
激しく抗議すると、耳元でバチッと音がした。
あ、だめ燃える! 冷静になって私! グロウスの裸を想像して怒りを抑えるのよ。
怒りは収まったけど、代わりに吐き気がこみ上げてきた。
突然黙りこんだ私の代わりに、今度はお父様が声を上げた。
「なぜ処刑だなんてひどいことを言うんだ! 娘は誰よりも優しくて優秀な魔術師だ! それに見て、こんなにも可愛いのに!」
「お父様っ!」
泣いて訴えるお父様の姿を見て、じわりと涙が浮かぶ。お父様はいつだって私を可愛がってくれた。こんな悲しい顔をさせたくはなかったのに。
それに対してグロウスは、冷ややかな目をして言った。
「可愛い? 聖女ステラちゃんのほうが絶対可愛いでしょ。あの子優しいし成績優秀だし、こいつみたいにわがまま言わんし、暴言吐かんし。ここまで気が強くて口が悪いやつ、正直タイプじゃないし」
「お黙り、クソジジイ。聖女に相手してもらえるとか期待してるの痛すぎ、普通に気持ち悪いんですけど? カツラのことを全世界に言いふらしてやるわよ」
「はあぁぁぁぁ!? 誰がハゲだって!? こんのクソ雑魚魔術師風情がぁぁぁぁ!!」
「誰がクソ雑魚魔術師ですってぇぇぇぇ!?」
必死に抑えていた殺意が爆発し、私はグロウスを巻きこんで激しく燃えた。
「燃えろ、燃えろ!! 死になさーい!! おーほほほほ!!」
「ぐわぁぁぁぁ!?」
「神官長!?」
「アビー!?」
「ほらほら、クソ雑魚魔術師の炎でわずかな希望もすべて燃やし尽くしてさしあげるわよー!! とっととくたばれクソ雑魚毛根死滅野郎ぉぉぉぉ!!!」
気持ち良く高笑いしていると、炎で真っ赤に染まった視界がぱっと切り替わった。
目の前にはグロウスのにやけ顔がある。
待って、こんなところで何度も燃えてどうするのよ!?
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