5話 僕の計画は完璧なんだよ!
魔術師の墓場の西側の土地は、すでにインペラトルの支配下にあった。
東側に比べて西側の大地はあまり穢れていないため、緑豊かな山が連なり、山のふもとには広大な森が広がっている。標的はその中に潜んでいた。
崖の上からその動きを探っていると、部下のひとりがおずおずと話しかけてきた。
「シニストラ様、恐れながら申し上げます」
「何だ」
「ガルラ村から撤退してきた兵たちの話を、デタラメと片づけてよろしいのでしょうか?」
「ガルラ村でオークを管理していた兵たちが、アビゲイルに襲われたという話か」
僕はその話を鼻で笑い、部下に用意させた椅子に座った。
「アビゲイルはずっと小鳥に監視させていたのだから、ガルラ村にいるなんてありえない。本当は野盗に襲われたのを、アビゲイルだと嘘をついたんだろう」
「本当にそうなのでしょうか……」
「お前、僕が間違っていると言いたいのか? 僕の計画を疑われるのは非常に不愉快だ!」
「ひい!?」
僕が鞭で部下の顏を叩くと、部下はその衝撃で後ろに倒れた。
白目をむいて気絶したその部下を、別の部下たちが引きずって移動させた。
「はあ……こんなことでイラついてる場合ではない。森の中にアビゲイルが潜んでいるのだぞ」
僕は部下たちの顔を見回して言った。
「いいか、ラピスブルー王国の魔術師は魔力に依存している。何事にも魔法か、魔道具が関係していると信じて疑わない。特に十二神の連中はな」
「なるほど」と部下たちがうなずいた。部下たちの反応に気分が良くなって、僕は椅子の上で優雅に足を組み直した。
「だから、アビゲイルは小鳥の監視に気づくことができない! 何も知らないままドラゴンに食い殺されるのさ! あははは!」
先ほどまで不快だった気分が、だんだんと高揚していく。
僕に従順な小鳥たちは、標的の位置を常に知らせてくれる。それに従ってドラゴンを操ればいいだけだ。
僕の視線の先には、最強の武器である漆黒のドラゴンが飛んでいた。
「やつは森の中の開けた場所に向かっているな。よし、そこへ向かえ」
命令すると、右手首につけたブレスレットの黒い石が光った。僕が開発したこの魔道具さえあれば、あの伝説のドラゴンもペットと同じだ。
しかし、ドラゴンは僕が指示した方向とは別の方向に向かおうとした。
「おい、そっちじゃないぞ!」
僕が再び命令を出すと、ドラゴンは抵抗するように叫びながら嫌々従った。
偶然かと思ったが、ドラゴンは再び指示とは違う方向へ向かおうとした。あわてて命令を出す。それを何度か繰り返した。
「なぜだ!? 操術の効力が低下しているのか!?」
使用する魔道具の品質や種族の体質によって操術の効果は変化するが、ドラゴンに使用した魔道具は一級品であり、ドラゴン以下の生物はすべて操ることが可能になる。
「操術のかかり具合は最初にしっかりと確認したはずだ。ならば、魔道具の質が低下したのか? いや、それは考えにくい……そこらの安物魔道具とは訳が違う」
その時、僕の脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
「まさか、アビゲイルが何かしているのか? いや、ありえない!」
僕は激しく首を横に振って、愛用の鞭で近くにいた部下を叩いた。
「うぎゃあ!?」
「追放されたゴミ魔術師ごときに、僕の操術が理解できるはずがない! 僕の計画は完璧なんだよ!!」
「シニストラ様、許し……ぎゃあ!!」
バシンバシンと何度も部下を痛めつけても、まったく心が落ち着かない。
疑問が解消されず、胸の奥がもやもやとしたままだ。気持ち悪い。
「いったい何が起きている? あのゴミ魔術師は何をしたんだ!!」
僕は怒声を発しながら、ひたすら部下を鞭で叩きつづけた。
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