4話 材料調達完了! さあ、パーティーを始めましょう!
巨体オークは意外にも素早く、そして強かった。さっきのオークみたいに隙がないし、振り下ろされた斧によって地面が軽々とえぐられていく。当たったらひとたまりもない。
「まあ、私の所有物がそんな大振りの攻撃に当たるわけがないけど!」
「もちろんです」
オークの斧が深々と地面に突き刺さる。シルバーはそのわずかな隙も見逃さない。
シルバーは斧を持つオークの指を踏み潰し、その顔面を蹴り上げた。
「グギャア!!」
オークが悲鳴を上げて、後ろに大きくのけ反る。
「アビー様!」
「さあて、消毒の時間ね!」
パチンと指を鳴らすと、私の頭上に巨大な火の玉が出現した。
「ドラゴンエンドで蓄積された鬱憤を晴らさせてもらうわよ! 赤き王冠の花!」
魔力をこめた火の玉を爆発させると、オーク目掛けて大量の火の雨が降り注いだ。
火はオークの身体にまとわりつき、激しく燃え盛る。
「グォォォォ!?」
「おーほほほほ!!」
炎の海の中でもだえ苦しむオークを見て、インペラトルの男たちは腰を抜かして、その場にへたりこんだ。
「う、嘘だろ!? シニストラ様以外に、こんな強力な魔法を使う魔術師がいたなんて……」
「俺たちじゃ、こいつらに勝てねぇよ!」
「いや、オークはたくさんいる! そこの管理倉庫にいるオークをすべて解き放てば……」
男たちの希望を打ち砕くように、近くにあった管理倉庫らしき建物が、突然崩壊した。
「ああーー!? オークを飼っていた管理倉庫がぁぁぁぁ!?」
「おーい、マスター、こっちは終わったぜ」
粉塵の向こうから、シューラ族を率いたイスカが手を振っている。その周囲には、たくさんのオークたちが転がっていた。
「なっ……全滅だと!?」
「やべぇよ、このままだと殺されちまう!!」
不利を悟って逃げようとする男たちを、シルバーとイスカたちが取り囲んだ。
「大人しくしてください。じゃないと殺します」
「ひぃっ!?」
シルバーににらまれた男たちは悲鳴を上げて、降参を示すように両手を上げた。
インペラトル兵の完全敗北に、村人たちが大歓声を上げた。
「いいぞ、あんたたち!!」
「お前ら、もう二度とこの村で好き勝手させねぇぞ!!」
「魔物なんか連れてきやがって、お前らのせいで作物がだめになっちまっただろうが!! 絶対に許さないからな!!」
「捕まえた人たちを返してよ!」
村人たちの怒声が渦巻き、男たちは顔を真っ青にして身をすくませた。
「ねえ、あなたたち」
「は、はい!?」
私が歩み寄ると、男たちはびしっと背筋を伸ばした。さすが元帝国兵、強者に対する態度をよくわきまえているじゃない。
「シニストラに伝えてほしいことがあるの」
「な、何でしょう?」
「このアビゲイルがお前を始末するってね。じゃあ、ちゃんと伝えてね~」
シルバーに目配せをすると、シルバーは男たちを村の外へ向けて蹴り飛ばした。
水溜りの上を転がり、全身泥まみれになった男たちは、痛みと屈辱に顔をゆがませた。
「ちくしょう! ふざけやがって!」
リーダー格の男が、蹴られた腹部を押さえながら立ち上がり、悔しそうに私をにらんだ。
「覚えてろよ! シニストラ様が必ずお前を……」
「燃えろ」
男たちのお尻や背中に火をつけてやれば、男たちは悲鳴を上げて逃げていった。
何だか悲鳴が物足りない。
「もうちょっと燃やしてやればよかったかしら?」
脅しが足りなかったことを反省していると、村人たちが私の周りにわらわらと集まってきた。
「あんたたち、助けてくれてありがとう!」
「ずっとあいつらに苦しめられてきたんだ! 追い出してくれてありがとう!」
「でも、どうして助けてくれたんですか?」
その質問に、私は首をかしげた。
「助けてないわよ? 喧嘩を売りにきただけ」
「え? 喧嘩を、売りに!?」
意味がわからなかったのか、村人たちが目をぱちくりとさせている。
私の思考は凡人には理解されないものね。仕方ないわ。
「ま、気分が良いから、あなたたちの感謝を受け取ってあげるわ! おーほほほほ!」
勝利の高笑いを上げていると、村長らしき男が歩み寄ってきた。
「旅の魔術師のお方、いえ、慈悲の魔術師アビゲイル様!」
「あら、ここまで名前が広まっているなんて、私もすっかり有名人ねぇ! このアビゲイルに何の用かしら?」
「やはりアビゲイル様でございましたか! インペラトルを追い出していただき、心より感謝いたします。何かお礼をさせていただきたいのですが……」
「だったらこの村で栽培しているハーブをいただけるかしら。大量にね!」
村長は「そんなことでいいのか?」と言いたげな顔をして、こくりとうなずいた。
「お金ではなくハーブを? それは構いませんが……」
「この村のハーブは香りが特殊だから、これから私がやろうとしている計画には必須材料なのよ!」
「な、なるほど? そういうことでしたら、好きなだけ持っていってください」
「ありがとう、お言葉に甘えて好きなだけ持っていくわよ! これで材料調達も達成できたわ!」
私は戦闘前のような高揚を感じながら、シルバーとイスカに向き直って言った。
「招待状は渡したし、あとはおもてなしをするだけよ。心の準備はよくって?」
「もちろんです、アビー様。敵の手足をそぎ落とし、イモムシのように地面を這わせてやりますよ」
「言ってること怖ぇよ。とりあえず、俺たちシューラ族はマスターに従うぜ」
「よろしい!」
私が手を打ち鳴らすと、その場にいたすべての人間が私を見つめた。
「じゃあ、最高に熱いパーティーを始めましょう」
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