3話 汚物は徹底的に焼却よ!
シューラ族の民族衣装に着替えた私は、早速ガルラ村に向かい、その村の小さな飲食店に入った。
ここはインペラトルが支配する村で、例の魔道具で操ったオーク族という魔物を、この村で管理しているらしい。
「オークの瘴気のせいで土地が穢れて、作物がとれなくなってきたの」
店員の少女が、カウンター席にいる私とシルバーに愚痴をこぼした。
「最悪ね。でも、この村では病気は流行ってないのね。近くにオークもいるのに」
私は店内を見回して言った。みんな痩せてはいるけど、健康面で問題を抱えているようには見えない。
「それは旅人の魔術師に助けてもらったからよ」
「魔術師に助けてもらったって、まさか治癒魔法? 病気を治せるほどの?」
「ええ! 奇跡を見ているようだったわ!」
少女はその時のことを思い出したように顔を輝かせた。
私以外にそんな貴重な力を持った魔術師が、この魔術師の墓場にいるなんて意外すぎる。
「その人はどこにいるの?」
興味があって尋ねると、少女は悲しげな顔をして首を横に振った。
「もういないの。魔術師という理由だけでインペラトルに捕まったのよ。その人だけじゃない、彼らに反抗した村人たちも全員捕まったわ。あ、噂をすれば……」
少女がカウンターの中に戻ると、インペラトル兵の男四人が店内に入ってきた。
彼らは自分たちよりも身体が大きい一体のオークを連れている。
オークは嫌がらせをするように、扉を引きちぎって外へ投げ捨てた。
「ふうん……どうやら、別の病気が流行ってるみたいねぇ」
私のつぶやきは、男たちの下品な笑い声にかき消された。
「よお、また来てやったぜ!」
「い、いらっしゃいませ」
男のひとりが、カウンターの中にいる少女の腕をつかんだ。
「あの、困ります」
「俺はそんなに気が長いほうじゃねぇんだよ。俺のもんになるって言わねぇと、この腕折っちまうぞ?」
「ひっ! や、やめてください!」
「シニストラ様に頼んで『操術』をかけてもらってから、俺の奴隷にしてやってもいいんだぜ?」
男たちがどっと笑い出す。少女や他の客たちは顔を強張らせた。
魔物を操ることを、彼らは「操術」と呼んでいるらしい。
その単語以外の会話があまりにも程度が低いので、私は思わず笑ってしまった。
「ああ? 誰だてめぇら、何笑ってやがる」
少女を口説いていた男が、私とシルバーをにらみつけた。
「ごめんなさい、おかしくって。だって、その子があなたたちみたいな汚物を相手にするはずないのに」
「汚物、だと?」
私に汚物呼ばわりされた男たちは、一瞬で笑いを消して、私とシルバーを取り囲んだ。
「調子に乗るんじゃねぇぞ。この村では俺たちがルールだ。おい、『挨拶』してやれ」
リーダー格の男がオークに指示を出すと、オークは私のスープにつばを吐きかけた。
スープはあっという間に瘴気に汚染された。腐ったような悪臭が漂ってくる。
「ああ、悪いな! こいつはまだしつけができてねぇようだ。スープは外に捨てて肥料にでもすりゃいい」
男たちは再び腹を抱えて笑い出した。店内の客たちは、不快そうに顔をしかめている。
「ふふ、ずいぶんとよくしゃべる肥料ねぇ。さっさと土に還ったほうがこの村のためになるんじゃない?」
「てめぇ……女だからって調子に乗りやがって!」
男が私の髪をつかもうと手を伸ばす。私はその右手に思いっきりフォークを突き刺してやった。
「うぎゃあぁぁぁぁ!?」
男は絶叫して、あわててフォークを引き抜いた。
「な、何しやがる!? お、俺の手が、手がぁぁぁぁ!!」
「イラっとしたからついやっちゃったわ! クソイキリ野郎の悲鳴は健康に良いわねぇ!!」
「何だこいつ、怖っ!? おい、こいつらを叩き潰せ!!」
「ウゥゥ……」
オークはうなり声を上げながら、腰にぶら下げていた斧を手に取って、素早く振りかぶった。
「シルバー」
私が呼ぶのと同時に飛び出したシルバーは、オークの大きく出っ張ったお腹に強烈な蹴りを入れた。
「ギャウッ!!」
蹴られた衝撃で後ろに吹っ飛んだオークは、壁にぶつかって床に転がった。
シルバーは素早く接近し、うつ伏せになったオークの後頭部に右足を置いた。
オークが、怯えたように身体を震わせて、命乞いをするように首を横に振っていた。
「ガウガウガウ!!」
「死ね」
シルバーは冷たく言い放ち、勢いよくオークの頭を踏みつけた。その衝撃で床が割れて、オークは頭を床に埋めたまま、ぴくりとも動かなくなった。
「へ?」
あっという間に頼みのオークが倒されて、男たちは呆然と立ち尽くしていた。
「シルバー、みなさんお帰りですって」
「かしこまりました」
シルバーは棒立ちになっている男たちに近づくと、ひとりずつ外へ蹴り飛ばした。
さすが私の所有物! と拍手していると、同じような音が背後からいくつも聞こえてきた。
「すごいじゃないか! よくやった嬢ちゃんたち!」
「あんたら強いな! 見てて気持ち良かったぜ!」
「助けてくれてありがとう、ふたりとも!」
客やカウンターにいた少女から拍手喝采を受けた私たちは、彼らに一礼してから店の外へ出た。
「あら、ちゃんと次を呼んでいるなんてお利口ね」
私たちが外に出ると、そこには先ほどのオークよりも、さらに巨大なオークが待ち構えていた。
シルバーに蹴り出された男のひとりが、鼻血を流しながらにやにやと笑う。
「余裕ぶっていられるのも今のうちだ。俺たちインペラトルに逆らったことを後悔させてやる! ミンチにしてやれ!!」
「グォォォォ!!」
オークが雄叫びを上げて、斧を振り回しながら突進してくる。
私はいつでも炎を出せるように、シルバーはいつでも反撃できるように身構えた。
「環境保全のためにも汚物は徹底的に焼却しないとね! いくわよ、シルバー!」
「はい、アビー様」
面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたら、
ブックマークと下側にある評価【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
読者様の反応、評価が作品更新の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!