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2話 喧嘩を売りに行きましょう!


「ちくしょうだわー!!」


 私の嘆きが、早朝の森に響き渡った。

 現在の時間は、死に戻りしたあの日の夜から三日後の朝。死んだ時間をカウントしていたら、三日どころじゃないけど。


「はあ……叫んだおかげで、すこし冷静になれたわ。また燃えるところだった」


 シルバーの紅茶を待つ間、私は切り株に座って考えをまとめることにした。


「シニストラがドラゴンを支配したのはここ数日のはず。でも、シニストラとドラゴンの接触を今から妨害するのはどう考えても不可能……」


 死に戻り地点の森から、ドラゴンの生息場所に向かうには時間がかかりすぎて、どう頑張っても間に合わない。

 というより、向かう途中で操られたドラゴンと鉢合わせして、殺される前に自分で燃える、というのを繰り返している。


 シニストラを妨害するのは、死に戻り地点的に無理、という結論に至った。


「っていうか、やっぱりおかしいわよ! 監視されているとしか思えないわ!」


 私は森の中を見渡して、慎重に気配を探った。自分以外の魔術師の気配はない。


「どこへ行ってもドラゴンは現れるし、逃げ切ったと思ったら今度はキナラ村が燃やされるし、村人も畑も家も全部ドラゴンの餌食えじきになるし!」


 私は「キィ~~!!」と奇声を上げて地団駄を踏んだ。

 ここへ死に戻ってくる直前、キナラ村は焦土しょうどと化して、村人の屍がそこらじゅうに転がっていた。

 逃げることも隠れることも許さないという、シニストラの挑発だ。


「あ~もう、ムカつく! あいつのせいで何回死んだと思ってんのよ! シニストラ絶対殺すもん!!」

「アビー様ならできますよ」

「シルバ~!」


 シルバーが、紅茶とクッキーを持って戻ってきた。

 ちょっと行儀が悪いけど、このイライラを鎮めるために、クッキーを次から次へと口へ放りこむ。


「シニストラのやつ、性格の悪さがにじみ出てるのよ!!」

「アビー様の自己紹介ですか」

「ふざけないで、私は極悪よ! 退屈な悪人よりもランクが上の超悪い女なの! おーほほほほ!!」

「さすがマスター! 悪さを張り合ってるやつ初めて見たぜ」


 私の警護をしているイスカがのんきに笑った。私はむっと頬をふくらませる。


「ちょっと、笑ってる場合じゃないわよ、イスカ」

「高笑いしてたあんたが言うな」

「私たちはすでにインペラトルに監視されている可能性が高いのよ。早くそれを見つけ出さないと」

「しかしアビー様」


 シルバーが周囲に視線を走らせながら言った。


「私は常にアビー様の周囲を警戒しておりますが、そのような不審者は近くにはいません」

「俺たちシューラ族もいるしな。怪しいやつがいたら、すぐにわかるはずだ」

「そうなのよ。私も魔道具で操られた人物、動物、魔物で監視されていると考えたけど、魔力の気配すらしないのよね」


 このカラクリを解明しない限り、一生あのドラゴンにつきまとわれる。 

 私が頭を悩ませていると、イスカが何かに気づいたらしく、木の上を警戒し始めた。


「なあマスター、手鏡持ってねぇか?」

「あるけど、何に使うの?」


 丸い手鏡を渡すと、イスカは私にも鏡が見えるように位置を調整して、すこし上向きにかたむけた。


「魔術師じゃない俺だからこそ、わかることがあるってことだ」


 イスカが鏡の中を指差した。目を凝らすとそこには、葉に擬態ぎたいして隠れている黄緑色の小鳥がいた。


「あら、可愛い」

「だろ。俺たちを監視してるのは、多分こいつだ」

「この可愛い小鳥ちゃんが?」

「この辺りでよく通信手段として使われる鳥さ。これなら魔法も魔道具も必要ねぇだろ? こいつは警戒心が強いから、こうやって擬態して身を隠すんだ」

「わざわざ鏡越しに見ているのは、向こうに気づかれないようにするためね。こうして見るとただの可愛い小鳥なのに、ずいぶんと振り回してくれたじゃない」


 監視の方法がわかれば対策ができる。ようやく、ドラゴンエンドループから抜け出す糸口をつかんだ。


「なるほどね、魔術師としての考え方を逆手にとられたってわけね。よくやったわ、イスカ!」

「へへ、お褒めいただき光栄です」


 イスカが照れくさそうに頬をかくと、シルバーがむっと眉を寄せた。


「私が先に気づくべきでした」

「そうくなよ。今回は俺の役目だったってだけで、あんたにはあんたにしかできないことがあるだろ」

「そうよ、シルバー! これからあなたには一番重要な役目を与えるわよ!」


 シルバーは目をぱちぱちと瞬かせてから、誇らしげな顔でうなずいた。


「わかりました。必ずアビー様のご期待に応えてみせます!」

「ふふ、それでこそ私の所有物よ。ようやく攻略法が見えてきたし、ここからは私たちの番よ!」


 シルバーがもう一度うなずき、イスカが興味津々といった表情をした。

 魔術師は基本的に魔法を使いたがるし、それ以外のやり方を面倒くさがる生き物だけど、シニストラは違う。

 まずはその認識を改めなければならない。


「それで、どうしますか。あの鳥を捕まえますか?」

「う~ん」


 私は鏡越しに小鳥を見つめた。

 魔法も魔道具も使用しない監視方法。その考え方は、あのドラゴンにも適用されていたっておかしくはない。


 ふとドラゴンに初めて接触したあの日のことを思い出した。

 あの時、シルバーは私に何を言ったんだっけ? あのドラゴンは……。

 シルバーの言葉を思い出した瞬間、頭の中でいなずまが閃いて、とある考えが浮かんだ。


「ああ、なぁんだ、そういうことか!」


 あまりにも単純すぎて、笑いがこみ上げてくる。こんな簡単なヒントに気づかなかったなんて、シルバーの主人として失格だ。


「アビー様?」

「試したいことがあるから、小鳥はそのままでいいわ。イスカ、シューラ族の服をちょうだい。着替えるわ」

「え? まあ、いいけどよ」

「急いでね」


 イスカは不思議そうにしながら、近くにいるシューラ族の女性のもとへ向かった。


「さあ、シルバー。着替え終わったら、近くにあるガルラ村に行くわよ!」

「ガルラ村ですね。何か調達したいものでもあるんですか?」

「あるわよ! それに、ガルラ村にはインペラトル兵が立ち寄るはずだからね!」


 これは何度目かの死に戻りで知った情報だ。予知夢と信じているシルバーは、疑問に思うこともなくうなずいた。


「わかりました。そいつらからシニストラの情報を聞き出しますか?」

「いいえ!!!」

「何と力強い否定」

「それ、何回かやって、結局ミーレスの時と同じくドラゴンエンド一直線だったのよね! だから……」


 私はよみがえる怒りと殺意を抑えるために、拳をにぎって、あえてにっこりと微笑んだ。


「材料調達のついでに喧嘩を売りにいきましょう」


面白い! 続きが気になる! と思っていただけましたら、


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