1話 再スタート!
かっと目を見開くと、私の顔を覗きこんでいたシルバーが、ぎょっと息をのんだ。
私はシルバーの両肩をつかんで、上から下まで素早く視線を走らせる。
「シルバー!」
「え、はい」
「右腕ついてる!?」
「ついてますよ」
「よし!!」
どこも欠損していないことを確認して、ほっと息をつく。
シルバーはその目に気遣いの色を浮かべて言った。
「もしかして、例の予知夢ですか?」
「ええ、そうよ! 私は今どこにいるの? 夜ってことはわかるけど……」
「ラヴァを捕獲したあと、インペラトルの襲撃を警戒して、シューラ族と一緒に森の中に避難し、そこで野営をしています」
シルバーの視線を追うと、森の中でシューラ族たちがそれぞれ焚き火をしているのが見えた。
「ああ、思い出した。捕虜から情報を引き出して、インペラトル本部への抜け道を探ろうとしていたんだっけ?」
「その通りです」
「中止!」
「はい?」
私は拘束されて座っているミーレスに近づいて、そのムカつく顔を一発殴った。ミーレスは大きく後ろにのけぞった。
「ぶほぉっ!?」
「このクソホラ吹き野郎!! よくもこの私を騙してくれたわね!? お前のせいでっ、お前のせいでぇぇぇぇ!!」
「あがっ、いでっ、おぼっ、うげっ」
「アビー様!?」
「何やってんだよ、マスター! 話聞く前に死んじまうぞ!」
五発ほど殴ったところでシルバーとイスカに羽交い絞めにされたけど、私の怒りは収まらない。
「ムカつきすぎて言葉にならないわ!! とりあえず舌引っこ抜いて死ね!! 何回か死ね!!」
「ひぃぃ!? だ、騙してないです!」
「とぼけないで!! わざとドラゴンのいる場所に誘導したわね!? というか、ドラゴンまで手駒にしたなんて聞いてないわよ!!」
「な、何のことですか!? ドラゴンなんて知らないし、そんな最強の魔物を操れるならアンデッドだってとっくに操ってますよ!」
ミーレスは殴られて赤くなった顔に大量の汗をかいて、必死にそう訴えた。
よし、もう一発殴る。そうやって拳を作った私を、シルバーがさえぎった。
「口では何とでも言えますからね」
シルバーは懐からナイフを取り出して、ミーレスの頬に当てた。
「そろそろ夕食の時間です。これの切れ味を試すために、あなたの指を一本ずつ切り落としてみましょうか」
「ひぃぃぃぃ!? 本当だ、信じてくれ! 俺はあなたを騙したりしていない!!」
ミーレスは震え上がり、子供のように泣き叫んだ。
シルバーはナイフを仕舞いながら言った。
「どうでしょう、アビー様。嘘をついているようには見えませんが」
「そうね、でも殺す」
「かしこまりました。処します」
「ふたりとも落ち着け! 物騒な主従だな!」
イスカは私たちをミーレスから引き離すと、困ったような顏で言った。
「なあ、突然どうしたんだよ。騙したとかドラゴンだとか……未来でも見てきたのか?」
「そうよ!」
「そうよ!? 肯定するのかよ」
「アビー様は特別なお方なので、時々予知夢を見るのです」
「へえ、すげぇな、魔術師ってのは何でもありかよ」
シルバーの説明を、イスカは素直に信じてくれた。予知夢設定って本当に便利。
「とりあえず、ミーレスは嘘をついていないことはわかったわ。ドラゴンのことも本当に知らないみたいだし……」
だけど、私たちはインペラトルの本部だと思った場所で、ドラゴンに全滅させられた。
最初からミーレスを罠として使用したのか、私たちの情報が漏れていたのか、正直わからない。
それに、もうひとつ気になることがあった。
「シューラ族に使用されていた魔道具は簡易的なものだったけど、そんなものじゃ、ドラゴンなんて操れないわ。国が厳重に保管している特級アイテムなら可能でしょうけど、魔術師の墓場にそんなものがあるとは思えないのよね……」
「すげぇ独り言だな。いつもこんな感じか?」
「ええ、まあ」
「アイテムの入手経路を考えても仕方ないわね。とにかく、今からドラゴンとインペラトルの接触を妨害するか、他に対策を考えなきゃ。まずは……」
私がミーレスに視線を向けると、彼はびくっと身体を震わせて、「タスケテ」とかすれた声でつぶやいた。
「もーっと詳しく教えてもらおうかしら? インペラトルの最高司令官……魔物使いシニストラのことを」
「あ、うああ……」
深い森の奥で、ミーレスの絶叫が響き渡った。
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