15話 魔物種の頂点? すぐにひざまずかせてやるわよ!
「ちょっと、ラヴァ? 死んだ?」
生存確認のために何度かデコピンをしてみたけど、まったく反応がない。
ちょっと刺激が強すぎたかしら。
「死んだか」
「アビー様、呼吸してますよ。気絶してるだけみたいです」
「ぷっ、あははは!! 何それ、ざまぁないわね、ラヴァ!!」
今のラヴァには何も聞こえていないのか、地面に座りこんだまま「あーあー……」と意味のない言葉を発している。
「あらあら、壊れちゃってお可哀想。約束通り、アンデッド化は解除してあげるわよ」
パチンと指を鳴らすと、青白くなっていたラヴァの肌が元の色に戻った。アンデッド化は解除されたが、ラヴァは放心状態になったままだ。
シルバーは砂のようになった指輪を払い落しながら、くすっと笑った。
「お見事です、アビー様。容赦ありませんね」
「当たり前じゃない! 前回……じゃなくて、予知夢ではこいつに殺されたようなものだったからね! まあまあスッキリしたし、私の家具にしてあげるわ」
私は瘴気に侵食されたラヴァを治療してから、紋章に吸いとらせた。何だか、屋敷にあった掃除機みたいね。
「さて、動作確認よ。出でよ、第七の守護者ラヴァ! 省エネ版!」
ぽんっと弾けるような音を立てて、小さな赤い猿が目の前に現れた。赤い猿はぺたんとその場に座りこんで、目をきょろきょろと動かしている。
「あら~、可愛いお猿さんじゃなーい! 私のペットにしてあげてもいいわよ!」
「あ、あれ? お猿さん? ペット?」
ラヴァは正気を取り戻したらしく、不安そうに視線を泳がせた。
私はしゃがみこんで、ふわふわの毛に包まれた額を指でつんつんと突いた。
「ねえ、毛むくじゃら」
「毛むくじゃら? って私のことですか!?」
「猿ってシューラ族にとって貴重な食べ物なんですって」
「え!?」
「私のペットになるか、シューラ族に捕まるか……どっちがいい?」
「猿とか久しぶりだな」
とイスカがよだれを垂らしそうな顔でつぶやくので、ラヴァは恐怖に震え上がって、泣きながら私の右手にしがみついた。
「きっとお役に立ちます! アビー様に従います! もう二度とひどいことを言いません! だから、私をペットにしてください!」
「あら、猿ってしゃべれるの?」
「ウキー! ウキキー!」
「おーほほほほ! いいわ、飼ってあげるわよ、哀れなお猿さん!」
ラヴァがほっと安心したように私の右手にすり寄ると、小さな身体は紋章に吸いこまれて消えた。
「ふふ、四人目の十二神も家具兼ペットにしてやったし、アンデッドの魔力も手に入った。あとはインペラトルをぶっ潰せば、魔術師の墓場は私にひざまずいたも同然よねぇ!」
シルバーが同意するようにうなずいた。
「ええ、その通りでございます。地獄の果てまでお供しますよ」
「重い! でも最高の返事だわ。さすが私の所有物!」
「ええ、あなたの所有物です」
「この私とシルバーがインペラトルに負けるとは思えないけど、油断はできないわ。捕虜から情報を引き出して、すぐに出発するわよ!」
こうして私は膨大な魔力と新たな家具、そしてシューラ族という戦力を手に入れて、威勢よくインペラトル討伐戦を開始した。
しかし、私の目の前にはインペラトルの屍ではなく、炎の海が広がっていた。
「は?」
廃村と穢れた大地しかない見晴らしのいい場所だった。
遠くにイスカが倒れているのが見える。イスカ以外のシューラ族たちも、私が召喚した十二神の四人も倒れて動かない。
「あれ!? いつの間にか全滅してる!?」
私たちはインペラトル本部に向かう途中で、何者かに襲撃された。
状況確認のために周囲を見渡していると、私の上に覆いかぶさるように影が落ちた。
とっさに顔を上げた私は、目の前の光景に圧倒され、息をのんだ。
「ドラゴン……」
視線の先には、巨大な翼を広げて空を飛ぶ、漆黒のドラゴンの姿があった。魔物種の頂点に君臨する最強の魔物だ。
最強の名にふさわしい威風を漂わせたドラゴンは、威嚇するように、雷鳴のような咆哮を上げた。
「じょ、冗談でしょ!? ドラゴンなんてアンデッド以上の強敵じゃない!!」
突然大声を出したせいか、酸欠にでもなったかのようにめまいがした。
「しまった、魔力不足で意識が……」
十二神を四人も召喚して、何度も大魔法を使わせたせいで、私の魔力は底をついていた。
ドラゴンが私を食らおうと、大きく口を開ける。
まずい、その前に死に戻りをしなきゃ……。
「アビー様!」
その声にはっと顔を上げると、崩れ落ちそうな家の屋根にシルバーが乗っていた。
「シルバー! 無事だったのね!」
シルバーは跳躍し、ドラゴンの頭に飛び蹴りを食らわせて、私の前に着地した。
ドラゴンは痛みを訴えるように絶叫し、口から火をまき散らしながら空へと飛び立った。
「すごいわ、シルバー! あのドラゴンに一撃を食らわせるなん、て……」
私は目の前の光景に絶句した。
シルバーの右肩から先が、綺麗になくなっていたのだ。
「私のシルバーの腕がぁぁぁぁ!? どこに落としたの!? すぐくっつけてあげるから!!」
「私のことはいいので……早く、ここから逃げて……」
「シルバー!!」
私は崩れ落ちるシルバーを抱き留めて、ゆっくりと地面に寝かせた。
毎日手入れしていた灰色の髪は真っ赤に染まり、十二神を圧倒した肉体はズタズタに引き裂かれていた。
私はあまりに悔しくて、血が出るほど唇を噛みしめた。今の私には、シルバーを治療するための魔力すら残っていない。
「大丈夫よ、シルバー! 私が絶対に治してあげるわ!」
「私のことは、もういいですから、よく聞いてください。あのドラゴンは人を食らう……私を餌にして、早く逃げて……」
「ふざけないで! あなたをドラゴンなんかに渡すわけないでしょ!?」
シルバーは困ったような顔で笑った。その間にも地面に血だまりができて、シルバーの呼吸が小さくなっていく。
「アビー様は、全人類をひざまずかせるんでしょう? あなたを死なせるわけにはいかないんですよ」
「シルバー……」
痛覚が麻痺しているのか、シルバーは穏やかに微笑んでいる。
私をかばって死んだ、痩せた少年の姿が脳裏に浮かんだ。
「だから早く、ここから逃げて、ください」
「指図するんじゃないわよ。主人である私は、所有物を管理する義務があるの。置いて逃げたりなんてしないわ」
シルバーは目をみはった。
労うように頭をなでてやりながら、私は不敵な笑みを浮かべて言った。
「地獄の果てまでお供するって言ったじゃない。私の命令なしに勝手に死ぬんじゃないわよ」
「アビー、様」
「死ぬ時は、私の炎で死なせてあげる」
シルバーは嬉しそうに目を細めて、小さくうなずいた。
私は顔を上げて、怒りの咆哮を上げて向かってくるドラゴンをにらみつけた。
「覚えてなさいよ、クソドラゴン……あなたもすぐにひざまずかせてやるんだから!!!」
私は怒りと殺意を爆発させて、シルバーとともに炎に包まれた。
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