13話 対決、アンデッドクイーン!
自暴自棄になったのか、ラヴァは突然神殿の銅像を破壊した。粉々に砕けた銅像の下から、赤黒い霧のような瘴気が噴き出す。
「ちょっと!? 何やってんのよ馬鹿女!」
「お黙りなさい、役立たずのゴミ魔術師が! この魔物のコアを手に入れ、お前たちを皆殺しにします!!」
「本当に馬鹿ね! そこに封じられているのはアンデッドよ!」
「え?」
神殿の床に刻まれていた封印の魔法陣が消滅し、ひとりの女が姿を現した。
儚いという言葉の似合う美しい女だった。
神秘的な長い白髪に、二本の赤いツノ、雪のように白い肌を持つ絶世の美女である。
「シューラ族の、女?」
私の声に反応したのか、彼女は閉じていたまぶたを開いて、血のように真っ赤な瞳を不気味に細めた。
「ワシはアンデッドクイーン。名をシュアンという。千年前、この地で猛威を振るっておったアンデッドのコアとともに魔術師に封印された」
突然現れたシュアンを見て、その場にいた私とシルバー以外の人間は言葉を失った。
「ふうん、アンデッドクイーン、ね」
見た目こそ人間の姿をしているけれど、その魔力はまさしく強力な魔物そのもの。人間がコアを取りこみ、長らくともにいたことで完全に魔物化してしまっている。
シュアンがラヴァに視線を向けた。
「お前がワシの封印を解いたのか?」
ラヴァはその声にはっと我に返った。
そして、この状況を好機と考えたのか、敵意はないと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「そうです! 私が封印を解いてあげたのです!」
「ほう」
「強力な魔物は意思疎通が可能とは聞いていましたが、本当だったのですね。これは好都合です」
ラヴァは興奮した様子でシュアンに歩み寄った。
「アンデッドクイーン。このラヴァと契約し、その力を貸しなさい。さもなくば、あなたを倒し、力づくでコアを奪うことになりますよ」
ラヴァの脅しを、シュアンは鼻で笑った。
「誰にものを言っておる」
「え……げほっ!?」
ラヴァは突然吐血し、その場に膝をついた。
赤黒い瘴気がラヴァの身体にまとわりついて、侵食していく。
「アビー様、あれは!」
「見ての通り、瘴気をもろに食らったみたいね。アンデッド化じゃないだけ運が良かったと言うべきか……というか、ここでアンデッドが一体でも発生したら厄介だわ」
シュアンは失望したような顔をして、冷たくラヴァを見下ろした。
「お前はいかにも安っぽいクズって感じじゃのう。反吐が出そうじゃ」
「こ、この私を愚弄するのですか! 私は十二神のひとり、ユーリウス家の……」
「知らぬなぁ、腐れば誰であろうと同じじゃろう」
「貴様っ!」
とっさに反撃しようしたラヴァだが、瘴気に侵食された肌がぶすぶすと煙を上げて、さらに激しく吐血した。
「がはぁ!! あ、あがぁっ!?」
「頭が高いのう。ひれ伏せ」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
血を吐き、地面をのたうち回るラヴァを見て、シュアンはくすくすと楽しそうに笑った。
シューラ族たちはシュアンの強大な魔力と、その残酷さに気圧されて、身動きすらできないようだった。
この場を支配しているのは、間違いなくシュアンだ。
シュアンはシューラ族たちを見回して、わざとらしく肩を落とした。
「ワシに挑戦しようとする気概ある人間はおらんのか? つまらんのう~……ならば、暇潰しじゃ。全員殺そう」
シューラ族たちが声なき悲鳴を上げて、恐怖に身体を震わせた。
シュアンはその反応を見て、にやっと口の端を上げる。
「お待ちなさい」
「おん?」
退屈そうな赤い瞳が私を認識した。そして、見開かれる。
「何じゃお前……いや、本当に何じゃ!?」
「何よ」
「ワシを前にして、人間の男を椅子にして紅茶を飲んでおる、だと!? ワシ、アンデッドクイーンぞ!?」
ぴくんと私の椅子が震える。
私はシルバーが用意した紅茶を優雅に飲みながら、名家のお嬢様らしく上品に微笑んだ。
「やっと気づいたの? 話が長くておかわりまでしちゃったじゃない」
「アビー様、こちらのクッキーもどうぞ」
「ありがとう。ちょっと、家具が勝手に動くんじゃないわよ! 紅茶がこぼれるじゃない!」
バシンと力強くお尻を叩けば、四つん這いになったフロストが小さく声を漏らした。
「うっ、手首のキレが増している……さすがご主人様!」
フロストは顔を赤らめて、はあはあと呼吸を荒くした。
シルバーが不快そうに眉を寄せる。
「アビー様、その椅子気持ち悪いから捨てましょう」
「え~? 買い換えるにはまだ早いわよ」
「おいこら、ワシを無視すんな」
シュアンは苛立った様子で私をにらんでいたけど、余裕がないと思われたくないのか、すぐに見下すような笑みを浮かべた。
「お前は面白い女じゃのう。よし、お前をワシの手駒にしてやるぞ! 喜べ人間!」
「お断りよ」
「んな!? おま、お前っ、このワシの誘いを断るとはいい度胸じゃな! 劣等種風情がこのワシに敵うとでも思っておるのか!!」
シュアンが癇癪を起こしたように叫ぶと、赤いいなずまが閃き、すさまじい雷鳴が響いた。
シルバーは身構えて、フロストはにこにこと楽しそうにしている。私はいつでも死に戻りできるように、慎重に魔力を高めていく。
「全員アンデッドにしてやる! まずはお前からだ!」
「ふふ、ただでは死んでやらないわよ、クソアンデッド!」
「ふははは! 威勢がいいのう! それでこそ殺しがいがあ……え?」
「ん?」
シュアンの視線が、私の右手に釘付けになった。魔物封印専用ブレスレットが気になったのかと思ったけど、シュアンの注意を引きつけるほどのものではない。
「まさか……この紋章?」
「ひえ!?」
右手の甲を見せつけると、シュアンは猫みたいにぴょんっと飛び上がって距離をとった。
あまりの反応の良さに、私は思わず吹き出した。
「ふはっ! ねえ、どうしたの? そんな怯えた顔をして」
「だ、誰も怯えてなどおらんわ! よし決めた、お前は徹底的に苦しめて殺してやる!!」
「ほら」
「ほあ!?」
紋章を見せつけると、シュアンは間抜けな声を上げて腰を抜かした。
何これ、面白い。
新しいオモチャを見つけた私は、高揚を抑えきれなかった。
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