1話 神官長なら私と一緒に燃えたわよ!
永遠ループかと思われたあの日から一カ月が経った。
あの日から私は聖女を避けて、十二神の役割に徹する生活を送っていた。
おかげで処刑台は回避。時間も進んだけど、近頃の私は「退屈すぎて死にそう」が口癖になっていた。
そんなある日、私は上司のひとりである神官長グロウスに呼び出されていた。
「私に何かご用ですか?」
神官長の部屋には、五十代くらいの小太りの男が仕事机の前に座っていた。
この男が聖女大好き人間のグロウスである。
恐らく、私を処刑台に送ったのはこいつだ。なぜなら、私とこいつの相性は最悪だから。
グロウスはじろりと私を見て言った。
「デケンベルの名を持つ者として大目に見てきたが、それも限界だ」
「は? 何の話?」
「お前は、感情に反応して火が出る魔法以外何も使えない無能だ。王の守護者を名乗らせるのは恥でしかない!」
グロウスは、嘆かわしいと言わんばかりに深いため息をついた。
私はかっとなって、机に両手を叩きつけた。
「この無礼者! 私が無能ですって!? 私に恥じる部分なんてひとつもないわ!」
「ふん、他の十二神を見てから言いたまえ」
グロウスは鼻で笑って、机の隣に立っている青髪の青年に視線を向けた。
十二神のひとり、フロスト・セプテンベル。私の元婚約者だったやつだ。
「フロストは、この国でもっとも強力な氷属性魔法を扱える十二神だ。そして、ここにはいないが、この国でもっとも強力な火属性魔法を扱える十二神も存在する。お前の上位互換だ。つまり、お前は役立たずというわけだ」
「役立たず、ですってぇ!?」
怒りで顔が熱くなり、半笑いのグロウスに対する殺意が沸々と煮えたぎった。
フロストはグロウスに同意するようにうなずいて、口を開いた。
「神官長グロウスの言う通りだよ。それに、低級魔法しか使えないきみはもっと謙虚であるべきなのに、十二神の称号にあぐらをかいて好き勝手しているだろう」
「ちょっと、好き勝手しているだなんて聞き捨てならないわね。十二神の仕事ならちゃんとこなしてきたわ」
「どうだかな」
「あら、冷たいのね。元婚約者ならフォローするところじゃないの?」
「やめてくれ! 親同士が勝手に決めた、ただの口約束だ」
まるで黒歴史でも語るように、フロストは嫌そうな顔をした。
殴りたい衝動を必死に抑えて、私はあえて微笑んだ。
「あ、そう。これであなたは堂々と聖女と交際できるってわけね? けれど、口約束すら守れない男を誰が信用してくれるのかしら」
フロストはむっとした顔でにらんできた。
何よ、コイツの態度。無駄にお綺麗な顔をボコボコにしてやろうかしら?
私たちのやりとりを見ていたグロウスがあきれたように言った。
「こんなことは言いたくないが、お前の魔法に価値はない。このラピスブルー王国は魔法至上主義だ。十二神の枠は選ばれし高位魔術師のためにある。よって、アビゲイルの十二神の称号をはく奪し、国外追放とする!」
「は?」
「とっとと出ていけということだ、十二神の面汚し」
グロウスはにやりと笑った。
その瞬間、かっと頭に血が上り、視界の端で火花がバチバチと散った。
「ふざけんなこのクソジジイィィィィ!!!」
ゴォォォォと聞き慣れた音が聞こえて、全身が炎に包まれる。
私を焼き尽くす炎は、近くにいたグロウスを飲みこんだ。
「うおぉぉぉぉ!?」
「神官長!?」
「おーほほほほ!! 燃えろ、燃えろーー!!」
グロウスは苦悶に顔をゆがませて、炎の中で暴れ回っている。その拍子に、グロウスの髪がつるりと滑り落ちて、真っ先に燃え尽きた。
「カツラ、ですって!?」
私は強い衝撃を受けながら気が遠くなって、意識を失った。
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