12話 恥知らずはあんたのほうだ
「フロスト、あなたどうかしていますよ! その女のせいで我々がどれほど迷惑をこうむってきたのか忘れたのですか!?」
「どの口が言ってるのよ」
アビーが、私とフロストの会話に割って入ってきた。
「聞いわよ、十二神の予言を外して大勢の負傷者を出したって」
予言を外したことを指摘されて、私は言葉に窮した。
「そ、それは! えっと……多少の被害は想定内です! あなたと違って私の仕事は完璧でした! だから私の責任みたいに言わないでください!!」
「あなたと違って、ですって? 私は一度も予言を外したことないけど」
「そんなの、ありえません! 嘘ばっかりついて恥ずかしくないんですか!」
「本当のことよ。それに、外した時の保険として、周辺地域の警備は増員させていたわ。被害を想定していたのなら、そこまでやってから完璧と言ってほしいわね」
上から見下すような物言いに、私は頬を引きつらせた。
「あなた何様のつもりなんですか!? 家の格だって私のほうが上なのに!」
「家は関係ないでしょ。あなたの問題よ」
怒りで魔力が乱れて、魔法が暴発しそうになるのを必死に抑える。
何度が深呼吸して冷静になると、何だかアビーが哀れに思えて、笑いがこみ上げてきた。
「必死ですね、アビー。そんな見え透いた嘘をついたって、私は騙されません。弱い魔法しか使えない人間は、頭も弱いんですね」
「は?」
「どうせ十二神の予言も、腕の良い神官などにやらせていたのでしょう? それをまるで自分の功績のように語るなんて、恥知らずにもほどがあります!」
「恥知らずはあんたのほうだろう」
「何ですって?」
話に割って入ってきたのはシューラ族の青年だった。
私はむっとして、青年をにらんだ。
「シューラ族は私が救ってあげたはずですよ。なぜアビーの味方をするのですか?」
「あんたの言う救いってのは、その瞬間だけの半端なものだ。その一瞬の優越感にひたれりゃあ、あとのことは知ったこっちゃねぇんだろ」
「どういう意味です!」
「本当にわからねぇのか?」
青年は鼻で笑った。底辺の者に馬鹿にされて、かっと頭の奥が熱くなる。
「村に残された俺たちは、インペラトルを倒した反逆者として全滅させられそうになったんだよ」
「何だって!?」
ヒレンが驚きの声を上げた。
ばつが悪くなって、私は彼から視線をそらす。
「だ、だからってどうして私が責められるんですか? あなたたちだって鬼族なのですから、戦えばいいじゃないですか。それに自力で避難もできたでしょう? 私の落ち度ではありませんよ」
「ふん、俺たちがインペラトルに逆らえないってことも、瘴気で動けなかったことも知ってるくせに、よく言うぜ。その目と耳は飾りかよ」
「なっ!? この私を愚弄するなど、許せません!」
杖を突きつけても、青年は恐れることなく笑って言った。
「助けてくれたのはアビーだ。インペラトルを倒し、俺たちを支配していた紋章を解除し、瘴気に侵食されていた身体を治療してくれた」
「何を言っているんです! アビーにそんな知識も能力もありません!」
「紋章を解除したというのは本当なのか!?」
ヒレンが私をさえぎるようにして尋ねた。
「ちょっと、あなたは私の味方でしょう!?」
ヒレンは答えない。
青年はこちらに背中を向けると、後頭部の髪をすこし持ち上げた。そこにあるべき紋章がない。
紋章を刻まれたままのシューラ族たちの間に、どよめきが走った。
「騙されてはいけません!」
私はすべてを否定するために、大声で叫んでいた。
「これは何かの間違いです! きっと紋章を隠しているのでしょう!? そうに違いありません! 高位魔術師である私ですら解除できなかったものを、そこの無能に解除できるはずがないのです!」
ヒレンたちは黙りこんでいる。誰も私の言葉を聞こうとしない。
私は焦りを覚え始めていた。
「ヒレン兄さんはその女の言葉を信じるのか? そうだよな、瘴気で動けない俺たちを置いていったもんな?」
「違う! 俺たちは助けてくれた恩を返すために、みんなを瘴気から解放するために……」
「ねえ、これいつまでつづくの? イスカが言ったこと、聞こえなかった?」
ヒレンの弱々しい声に、アビーの声が重なった。
アビーはあからさまに面倒くさそうな顔をしている。
「紋章は解除したし瘴気も治療した。ここにいないシューラ族たちは、インペラトルの増援を警戒して避難させておいたわ。あとはあなたたちだけよ。いつまでその女に従ってるの? さっさとこっちに来なさい、紋章を解除してあげるわ」
「その女の口車に乗ってはいけません!」
シューラ族たちは顔を見合わせて、ひとり、またひとりと私のもとを去っていく。
私は怒りのあまり、杖を持つ手がぶるぶると震えた。
「この私が信じられないというのですか!? 薄情者!」
「あらあら、ずいぶんと人望がないじゃない?」
「黙りなさい! 全部あなたのせいでしょう!? 今すぐ謝罪してください!」
「誰も残ってくれなくてお寂しいわねぇ! ま、自業自得だけど!」
「黙れ、黙れ、黙れ!! どいつもこいつも馬鹿のゴミ虫ばかり!! 高位魔術師である私がすべて正しいのに、なぜそれがわからないの!? 優秀な十二神であるこの私が、なぜこれほどの屈辱を受けなければならないのです!?」
「本性が出ちゃってるわよ、醜悪ね!」
早口でまくしたてる私を、アビーは愉快そうに笑い飛ばした。腹の中が煮えくりかえり、今すぐこの女を殺せと心が叫ぶ。
私は神殿の中央に設置されている、シューラ族の女性を模した銅像に視線を走らせた。
「ふふ……そうです、あの力さえ手に入れれば!」
私は杖を銅像に向けて、魔法を発動させた。
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