11話 私がアビーより劣るなんてことはありえない!
瘴気のせいで赤黒く染まった空の下に、今にも崩壊しそうな小さな神殿が建っている。封印は二重になっていたらしく、神殿を取り囲むように三つの柱らしきものが見えたが、どれも瘴気の影響で跡形もなく崩壊して土台のみを残している。
「ラヴァ様、あれが魔物を封印している神殿です」
シューラ族のヒレンが言った。
瘴気の息苦しさを和らげるために、私はゆっくりと呼吸を繰り返した。
「ふう……瘴気の影響を受けないルートを選びましたから、ずいぶん時間がかかってしまいましたね」
「ですが、ラヴァ様のその判断は正しいと思います。封印の地から漏れる瘴気が強すぎて雑草すら生えない場所ですから、近道をすれば我々の身体が壊れてしまうでしょう」
「そうですね、早くこの状況を変えなければなりません」
私はここまで乗せてくれたオオカミの背中から降りて、私についてきてくれたシューラ族たちの顔を見回した。
「魔物を退治すれば、瘴気に苦しめられることもありません。大丈夫、あなたたちには十二神のラヴァがついています。自由のために戦いましょう!」
英雄のように、または人々が崇める聖女のように、自信に満ちあふれた声を響かせれば、それに応えるようにシューラ族たちは歓声を上げた。
高位魔術師である私が力を貸しているのだから当然の反応だ。
「ゴミ溜めにいる人間が、私の価値を正しく理解できるとは思えませんが……」
「ラヴァ様、何かおっしゃいましたか?」
「いいえ」
優越感にひたっていると、シューラ族のひとりがあわてて駆け寄ってきた。
「ラヴァ様! 大変です!」
「どうしたのですか?」
「それが、村に置いてきたはずの仲間が、こちらに向かってきて……」
「増援なら良いことじゃありませんか」
「増援ではありません! 俺たちを攻撃してきました!」
「は?」
悲鳴が上がっている方向を見れば、オオカミに乗った別のシューラ族の集団が見えた。
集団を先導している人物は、どう見てもシューラ族ではない。王都にいるような身なりの、見覚えのある女だ。
「いえ、まさか、私の見間違いですよね?」
現実逃避をしかけた私の思考をかき乱すかのように、あのうるさい声が響き渡った。
「ずいぶんとチンタラしてたのね! あっという間に追いついちゃったじゃない!」
「その声は……やはり、アビー!?」
アビーは、雲のようにモコモコとした毛玉に乗っていた。毛玉から伸びる肢が、バタバタと信じられない速度で動いている。
「何ですかそれ、羊!? 動き気持ち悪っ!!」
「同僚に気持ち悪いとは失礼ね! あなたこそ私の尻をかじる変態クソ女のくせに!」
「はあ!? かじってないですけど!?」
「ラヴァ様、我々はどうしたら……」
動揺したヒレンが指示を仰ぐように私を見た。
ちょうどいい、ここで私の十二神としての実力を見せつけてあげましょう。
「最弱魔術師風情が、この私を変態扱いするなんて万死に値します!!」
私は杖を掲げて、力強く呪文を唱えた。
「王者の血!」
地面が割れて、そこから大地が血を流すようにマグマが噴き出した。
シューラ族を乗せたオオカミたちの足が止まる。
「ふふ、私と同じ火属性の、大した魔法も使えない最弱無能魔術師であるあなたには、これを突破することは不可能! 灼熱の海で溺れなさい!」
「さすがラヴァ様! これが王を守護する十二神の力!」
ヒレンの称賛の声に、私の気分は高まった。
近頃、王都では冷遇されてばかりだったけれど、これが本来の私の価値だ。
十二神の予言をすこーし外したくらいで、私がアビーより劣るなんてことはありえない!
「得意気になっているところ、申し訳ないけど」
溶岩の向こうにいるアビーが、不敵に笑った。
「出番よフロスト! 全力で凍らせなさい!」
「何ですって!?」
アビーの右手が光ったと思ったら、目の前にはなぜかフロストが立っていた。青い瞳が、冷たく私をにらんでいる。
「な、フロスト!? あなた今どこから……」
「大魔法、雪花の海」
フロストが剣を掲げると、冷たい風が吹き荒れて、どろどろと流れる溶岩の上を白い雪が覆った。
冷えて固まった溶岩の上を、シューラ族を乗せたオオカミたちが駆け抜ける。
私はあっという間に、アビー率いるシューラ族たちに取り囲まれてしまった。
「おーほほほほ! 形勢逆転ね!!」
「そ、そんな馬鹿な!」
「さて、ここまで来たら、もう必要ないわね」
アビーは、ぜえぜえと息を切らしている羊の頭をなでて微笑んだ。
「いい走りだったわ、ロック。今後も使ってあげる」
「モーフモフモフモフ!」
アビーが地面に降り立つと、モコモコの羊は野太い声を上げて、ぽんっと弾けるようにして消えた。
「今、聞き覚えのある声が……いえ、今はそんなことを気にしている場合じゃありません!」
私は恨めしげにフロストをにらんだ。
「フロスト! どうしてアビーの味方をしているんですか!? 何か弱みでもにぎられているのですか!?」
フロストはゆっくりと首を横に振って、穏やかな顔で微笑んだ。
「とんでもない。俺はご主人様に椅子兼ペットとして所有されることで幸福になった。きみも所有されてみないか?」
「嫌に決まってますよね!?」
「ああ、この鼓動の音が聞こえるかい?」
フロストはちらっとアビーを見て、ぽっと頬を染めている。それに対してアビーは気づかぬふりをして、まったく応えようとしない。
私は何を見せられているのだろう。話が通じないというのは、ここまで恐怖を覚えるものだったとは知らなかった。
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