10話 紋章解除! これは契約よ!
「助けてくれたことには感謝してる。けど、これ以上関わるな!」
「これ、イスカ! 助けてくれた恩人に向かってなんて言いぐさじゃ!」
「長老だってわかってんだろ? 首の後ろにある紋章が消えない限り、俺たちは一生インペラトルの奴隷だ! それに瘴気のせいで身体も満足に動かせない。そんな状態の俺たちをどう助けるつもりだよ」
「それは……」
長老も、他のシューラ族たちも、反論できずに黙りこんだ。
イスカは、私という敵から仲間を守るかのように、鋭く私をにらみつけた。
「甘い言葉で俺たちを騙して利用するつもりなんだろ。もうよそ者に好き勝手されるのは我慢ならねぇんだよ!」
「キャンキャンうるさい子犬ね」
「だ、誰が子犬だ!」
「黙って聞きなさい」
私の言葉に気圧されたように、イスカは沈黙した。
「首の後ろにある紋章を解除して、瘴気に侵食された身体を治してあげるわ」
「だから、そんなこと、あんたにできるはずないだろ!」
「言ったでしょ、自由を教えてあげるって。私は約束を守る女だからね!」
「どうして、そこまで」
イスカは戸惑いの表情を浮かべて、それ以上何も言わなかった。
死に戻り前の約束なんて覚えてないでしょうけど、それでいい。過去なんて私が変えてやるんだから。
「ちょっと、おじいさん、後ろを向きなさい」
「は、はい?」
長老は素直にこちらに背を向けた。首の後ろにはイスカと同じ紋章が刻まれている。
私はその紋章に右手をかざし、ゆっくりと魔力を流しこんだ。
「暴け」
紋章と重なるように魔法陣が展開し、その魔方陣を介して様々な情報が頭に流れこんできた。
魔力の性質や種類、属性などを分析し、仕掛けられた魔法を暴いていく。
「ああ、これって……」
「どうですか、アビー様」
「魔物や人を操る魔法じゃないわね」
「そんなの嘘だ! 俺たちはこの紋章に抗えないんだぞ!?」
私の手元を覗きこんでいたイスカが不服そうに叫んだ。私は右耳をふさぎながら、イスカをにらみつけた。
「うるさいわね! 黙って聞きなさい! この紋章の魔法はただの目くらましよ。あなたたちを操っている魔道具を隠すためのね」
「魔道具?」
「見てなさい」
紋章に人差し指を当てて、指先に魔力を集中させる。
「釘を打て」
鋭く練られた魔力が紋章の一部を破壊する。紋章は効力を失い、ぼろぼろと崩れて消滅した。
「さすがアビー様、紋章が消えましたね。もしかして、ミーレスの魔法陣を崩壊させたのも同じ方法で?」
「その通りよ、シルバー! 魔法そのものに小さな穴をあければ、歯車が外れたように魔法そのものが機能しなくなるの。ほら、見えてきた」
紋章のあった場所に、豆粒くらいの赤い石が埋めこまれているのが見えた。
イスカがあっと驚きの声を上げた。
「まさか、これが魔道具か?」
「そうよ。ブレスレットの赤い石と同じね。魔法じゃなくて魔道具で使役していたわけね」
「解除」で赤い石を破壊する。紋章も魔道具も、綺麗さっぱり消し去った。
「これでもう操られることはないわよ」
私が言い終える前に、シューラ族たちが一斉に歓喜の声を上げた。
「俺たち本当に自由になれるんだ!」
「この人なら私たちを解放してくれる!」
長老は喜ぶシューラ族たちを見て、恐る恐る自分の首の後ろに触れた。そして、感極まったように声を震わせた。
「まさか、この忌まわしき紋章を解除してしまうとは……」
「もっと褒めなさいよ」
「ほ?」
すると、シルバーが私の意図を察したように叫んだ。
「魔法ではアビー様の右に出る者はいません!」
「ええ、もちろん! もっとちょうだい!」
「人助けなんて一ミリも興味ないけど結果的にそうなって人望が集まる勘違い系強欲悪女の面目躍如!」
「韻踏んでる? ちょっと意味不明だけど、主人の意図を察するなんてさすが私の所有物ね! 最高の気分よ!」
楽しいという感情が高まり、全身に魔力がみなぎる。私は長老の身体に向けて、治癒魔法を発動させた。
「傷を、病を流せ。癒しのほたる火……と瘴気浄化」
青白い光が長老の右腕に吸いこまれて、淡い紫色の光が身体全体を包みこむ。
すっと光が消えると、長老は右手を軽くにぎって見せた。
「おお!? 折れた右腕が治った!?」
「いや、それだけじゃない、瘴気に侵食された手足も治ってるんじゃないか!?」
イスカの指摘通り、赤黒く染まっていた長老の手足が、徐々に元の肌の色に戻っていく。
シューラ族たちは感激した様子で言った。
「本当だ! 長老の皮膚の色が戻ってる!」
「この人は何者なの? 奇跡の力を使えるの?」
「支配の紋章を解除して、瘴気を癒すことができるなんて……本物の救世主じゃないか!」
私はふふん! と得意気に胸を反らした。
シューラ族の称賛と、さっきのゴミ焼却が気持ち良すぎて魔力が高まってきている。これなら、シューラ族全員の治療が可能だ。
「さあ、自由が欲しければ、このアビゲイルに身を委ねなさい!」
一瞬静まり返ってから、シューラ族たちは我先にと声を上げた。
「アビゲイルさん、お願いします! うちの娘たちを助けてください!」
「アビゲイルさん、俺の両親も助けてください!」
私は微笑みながら鷹揚にうなずいた。
その時、イスカの鋭い叫び声が響いた。
「待てよ! みんな忘れたのか!?」
シューラ族たちは動きを止めて、一斉にイスカを見た。
「インペラトルから助けてくれたことや、長老の紋章や瘴気を治してくれたことは本当に感謝してる! でも、俺たちはよそ者に振り回されてきた! よそ者のせいでひどい目に遭ったことを、もう忘れたのかよ!」
「そ、それは……」
シューラ族たちは口ごもった。
このままイスカに流れを持っていかれるのは面倒だわ。
私はあることを思いついて、パチンと指を鳴らした。
「私を信用できないなら、契約って形にしてあげてもいいわよ」
「契約だと?」
イスカが疑わしげに眉をひそめて、反射的に身構えた。どれだけ警戒してるのよ。
「そう。私がシューラ族全員の紋章の解除と、瘴気や怪我の治療をしてあげる。その代わり、ラヴァとインペラトルをぶっ潰すのに協力しなさい!」
「な……なんだよそれ。治療も受けられて復讐もできるって、俺たちに好条件すぎるだろ。あんたに何の得があるんだよ」
「得ならあるわよ。一時的とはいえ、私はシューラ族という最強の戦力を手にすることができるの」
「それは、そうだが……」
イスカの煮え切らない態度に、私はだんだんイライラしてきた。
「面倒くさいわね、はっきりしなさいよ! 治療と復讐のためにお前を利用してやる、くらい言ってみせなさい! それができないなら一生そこでうずくまって泣いていたら?」
軽くあおってやれば、イスカの目が鋭さを増した。とっさにシルバーが前に出て、慎重に身構える。
「ふふ、さすが戦闘民族、迫力あるわね~!」
早く私の戦力にならないかしら~、とにこにこしていると、イスカはぽかんと私のほうを見た。
「何よ?」
「いや、挑発したと思ったら急に上機嫌になるし、本当に変な人だなって」
「普通と言われるよりマシね!」
「ははっ、何だそりゃ」
イスカは思わずと言った様子で、小さく笑った。
「わかった、契約しよう」
見守っていたシューラ族たちが、わっと歓喜の声を上げた。
そうこなくっちゃ。さて、シューラ族をどう使ってやろうかしら? ここからラヴァをどう追いつめるのか、考えるのが楽しみで仕方がなかった。
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