7話 クズ悪党どもは焼却よ!
俺は耳を疑った。こいつは今、何と言った?
「ここに残ってるやつは、瘴気にやられたゴミばかりだ。大した情報も持っていないし、戦いの道具にもならない。だったら処分するしかないだろう?」
我ながら名案だ! と笑っているミーレスの顔をぐちゃぐちゃに潰してやりたい。
首の後ろの紋章さえなければ、この男を殺して仲間を逃がしてやれたのに。
「ん~それじゃあ、イスカ。手始めにガキどもを殺せ」
「な……」
絶句する俺に、ミーレスは気を良くしたように口元をゆがめて笑った。
「全員殺したら、お前だけは生かしてやろう。まあ、瘴気に侵食された身体でどれだけ生きていられるかは知らんが! さあイスカ、まずは目の前のゴミを殺せ」
「ふ、ふざけるな! やめろ!」
再び紋章が熱を持ち、身体が勝手に動き出す。焦りと恐怖で全身から嫌な汗が噴き出した。
「やめろよ、やめろ!」
「怖いよ、イスカ兄ちゃん……」
俺を兄と慕ってくれている少女が、目に涙を浮かべて、恐怖に身体を震わせながら俺を見上げている。
彼女の手足は瘴気に侵食されて、自力で立つことすらできない状態だった。
自力で逃げられないとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
「頼む、逃げてくれ!!」
俺の右手の拳は、少女の小さな頭に狙いを定めた。
身動きのできない少女とその母親が泣き叫ぶ。
見たくない、聞きたくないのに、目をそらすことも、耳をふさぐこともできない。
だが、振り下ろされた俺の拳は少女ではなく、間に割って入った長老の顏を殴りつけていた。
「ぐおっ!」
「長老!?」
長老の痩せた身体は軽く吹き飛んで、砂埃を上げて地面に転がった。
身体中打ちつけて、無事であるはずがないのに、長老はゆっくりと立ち上がって、歯を見せて笑った。
「ヒヒ! 良い拳をしとるのう。さすがはわしの孫じゃ」
「長老、どうして!」
転がった時に負傷したのか、右腕がだらりと垂れ下がっている。
もう一度攻撃を受けたらどうなるかを想像して、全身から血の気が引いた。
俺の考えを読んだように、長老は優しく微笑んだ。
「イスカ。これから何が起ころうとも、お前に罪はない。死への恐怖はあろうとも、誰もお前を憎みはしない。お前だけは生き残ってくれ」
「嫌だ……じいちゃん、逃げてくれ!!」
ミーレスがぷっと吹き出して、大笑いしながら手を打ち鳴らした。
「感動したぞ、ジジイ! 俺はこういう家族愛演出に弱いんだよ!」
「て、てめぇ!」
「よし、イスカ! そのジジイをひと思いに殺してやれ!」
ミーレスの命令により、再び身体が動き出す。
怒りと殺意、それを上回る嫌悪感と恐怖で、頭がおかしくなりそうだった。
「嫌だ、やめてくれ、殺したくねぇよ!!」
この腕や足を潰し、舌を噛み切りたくても、俺の意思ではどうにもならない。
じわりとにじんだ涙で視界がぼやける。このまま何も見えなくなればいいのに。
「さっさとやっちまえよ! 全員殺すまでに日が暮れちまうぞ! あはははは!!」
「頼む、誰でもいいから……早く俺を殺してくれ!!」
俺の拳が長老に叩きつけられる。ことはなかった。
なぜなら、俺は目の前を横切った灰色の何かに突き飛ばされたからだ。
「うわっ! 何だ!?」
「邪魔ですよ」
灰色の何かは、少年だった。
少年は素早くミーレスに接近し、その顔面を殴り飛ばした。
「へぶっ!?」
ミーレスの身体は何回転もしながら宙を舞う。
命令者が殴られたせいか、俺の身体に自由が戻った。
少年は目にも留まらぬ速さで空中にいるミーレスに追いつくと、落下してくる身体を蹴り上げた。
そして、再び落下してきた身体を、地面に落ちる直前で蹴り上げる。何度も、何度もそれを繰り返した。
その光景を見ていると、なぜか懐かしさがこみ上げてくる。子供の頃、ボールを地面に落とさないように蹴って遊んだっけ……。
「ミーレス様がめっちゃリフティングされてるぞ!?」
「お助けしろーー!」
ミーレスの部下たちが拳銃を構える。避けろと俺が声を発する前に、少年はその部下たちに向けてミーレスを蹴り飛ばした。
「うわあ!? あぶなっ!!」
「くそ! なめやがって!」
やつらはもう一度少年に銃を向けようとしたが、今度は背後から襲いかかってきた炎の波に全員飲みこまれてしまった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
「熱い、熱いぃぃぃぃ!!」
「おーほほほほ! 今時の燃えるゴミは良い声で鳴くわね~~!!」
また、見知らぬ人間が増えた。
インペラトルが持ってきた火炎放射器を使って、容赦なく男たちをあぶって笑っているヤバイ女が。
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