5話 行くわよ! シューラ族の村!
真夜中をすこしすぎた頃。シューラ村の倉庫のほうから男の悲鳴が上がった。
「あら、早速罠にかかったお馬鹿さんがいるわね」
「確認しにいきましょうか」
倉庫の中には、逆さまに宙吊りになっている小太りの男がいた。
「た、助けてくれー! 縄がひとりでに絡みついてきたんだ! 魔物に違いねぇ!」
「なぁんだ、小汚い盗人じゃない。倉庫の火事はあなたのせいだったのね」
「は!? 俺は何も燃やしちゃいねぇぞ!」
「今はね」
倉庫内は荒らされ、床に薬瓶がいくつも転がっていた。
「こいつが荒らしたことで明日の夜、じゃなくて今日の夜に倉庫から火が上がったわけね」
「アビー様、こいつを村人に引き渡しますか?」
「引き渡す前に聞きたいことがあるの。ねえ、あなた、シューラ族の村の場所を知ってる? 村の人は誰も知らないみたいなの」
「けっ、誰が教えるかよ!」
私は右手の人差し指の先に、ろうそくほどの小さな火をつけて、男の左目に近づけた。男は恐怖で顔を引きつらせた。
「十秒後、あなたの目にこの指を突っこむ。じゅーう、きゅーう、さん、にー……」
「しししし知ってる!! シューラ族の村の場所、知ってるよ!!」
「あらぁ、それなら最初から言いなさいよ。場所を詳しく教えなさい」
私は魔道具の縄を解除して、男に地図を書かせた。
男は私の顔色をうかがいながら、おずおずと完成した地図を差し出す。
「こ、これでいいですかねぇ?」
「汚いけど、じゅうぶんよ。あなた、シューラ族がどういう状況なのか知ってる? 誰かに奴隷扱いされてるの?」
「ええと、たしか噂だと『インペラトル』って組織が、シューラ族を奴隷のように扱って戦わせてるって聞きましたよ。元帝国兵の組織だとか」
「は? 元帝国兵ってまさか……」
「エールクラルス帝国ですよ」
「はいぃぃぃぃ!?」
私は自分の耳を疑った。
エールクラルス帝国は、十年前にラピスブルー王国と平和条約を結んだばかりのライバル国家である。
「エールクラルスが、どうして私の国にいるのよ!」
「いや、あんたの国じゃないだろ」
「アビー様の国ですが? 指の爪を全部はがしますよ」
「アビー様の国ですぅぅぅぅ!!」
シルバーが男を脅している光景を眺めながら、私は考えをめぐらせた。
「魔術師の墓場は見捨てられた地……そこに元帝国兵が流れこんで好き勝手していても、誰にも気づかれないってわけね」
そこで私は、アンデッドシューラ族おじいさんに頭をかじられていた男のことを思い出した。
彼は帝国の赤い軍服を着ていたのだ。
「山賊どもがでかい顔をしていたのは、そのインペラトルっていう後ろ盾があったからかもしれないわね。けど、戦闘民族であるシューラ族が、あいつらに負けるとは思えないんだけど」
男は困った顔をして言った。
「さすがにそこまではわかりません。ただインペラトルは魔物を操る特殊な魔法を使うそうですよ」
「魔物を操る魔法ですって!? それ本当なの!?」
「え、ええ、操った魔物で村を襲ってるって話です」
「にわかに信じられない話ね」
「そんなに珍しい魔法なのですか?」
私があまりにも疑うからか、シルバーが意外そうに言った。
「珍しいと言うか、まだそんな魔法は発見されていないの。魔術師なら誰もが一度は考える魔法だけど、成功例はゼロ。実現は不可能と言われているわ」
「そんな魔法をインペラトルが使っている、と」
「もし、そんなものが本当に実用化されているなら、その応用でシューラ族たちを支配しているのも納得だわ」
イスカはインペラトルの話なんて一度もしなかったけど、彼が言っていた「道具扱いするよそ者」はインペラトルで間違いない。
「シューラ族を操るために、インペラトルはシューラ族の村に滞在していたはずよ。ラヴァはそいつらと鉢合わせした」
ラヴァがインペラトルを倒し、シューラ族を解放したのだとすれば、シューラ族が嫌うよそ者であるラヴァを信用したのも納得できる。
そのあと、イスカに何かが起きた。あのおじいさんを殺害してしまうほどの何かが。
「ここで考えていても仕方ないわね。とりあえず、シューラ族の村へ向かうわよ」
「かしこまりました」
シルバーは返事をしながら、足音を忍ばせて逃げようとする男を殴って気絶させた。
「ですが、アビー様。ラヴァを追って、封印の地とやらに向かったほうがいいのでは?」
「そうしたいのはやまやまだけど、瘴気の影響が強すぎて、十二神の予言でも封印の地の正確な位置がわからないのよ。特定するための設備も道具もないから、シューラ族に案内してもらうしかないわ」
「なるほど」
ま、それだけが理由じゃないけどね。
私たちは盗人の男を村人に引き渡し、シューラ族の村へと向かった。
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