4話 あきらめるなんて大嫌い! すべて変えてやるわよ、何もかも!
「じゃあな。あんたたちは生き残れよ」
イスカはこちらに背を向けて、木から木へと飛び移った。
血のにおいに誘われたアンデッドたちが、一斉にイスカを追いかけ始める。
「イスカ!」
イスカは振り返らない。聞こえないふりに、私はカチンときた。
「あなたに何があったのか知らないけど、勝手にあきらめてんじゃないわよ! 私があなたに自由を教えてあげるわ! 誰よりも自由に生きるこの私がね!」
「アビー様」
シルバーが気遣うような声音で私の名を呼んだ。
死に戻りのタイミングなんてわからないけど、もしイスカが死ぬ前に戻れたなら、と考える。
私は「あきらめる」という言葉が大嫌いなのだ。
「行くわよ、シルバー」
「はい」
あきらめるのは大嫌いだけど、今私ができることは何もない。何だかイライラする。
胸の奥にモヤモヤしたもの抱えながら、イスカに背を向けた瞬間、お尻に激痛が走った。
「いったぁぁぁぁい!? ちょっと、私の美尻に枝でも刺さったの!?」
背後を振り返ると、なぜか私の美尻を頬張っているラヴァがいた。
「は?」
「アビーコロス、コロスゥゥ……」
死人のように青白い顏。白く濁った目。間違いなくアンデッドである。
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁ!!」
私は声をかぎりに叫んで、ラヴァを引きはがそうと頭をつかんだ。激しい殺意に反応して全身から炎が噴き出し、私とラヴァを包みこむ。
「どこ噛んでんのよ変態女!! 今のはもうちょっと生き残る流れでしょうがぁぁぁぁ!!!」
「アビー、シネェェ……」
「お前が死ね!!!」
「アビー様ぁ!!」
シルバーの悲鳴のような声を最後に、視界が暗転する。
閉じていたまぶたを開くと、目の前にあぐらをかいたウーちゃんがいた。
「あら? 私、また魂の空間に迷いこんだのね」
「そのようだね」
ウーちゃんは私を見下ろして、安堵したように息を吐き出した。
「今回はギリギリだったね。燃えたのはナイス判断だ!」
「どういうこと?」
「きみは自分の炎で死なないと、死に戻りができないんだよ」
「は!? それじゃあ、先にアンデッドになっていたら死に戻りができなかったってこと!?」
「そういうこと!」
ウーちゃんはぐっと親指を立てた。
その能天気な態度に殺意を覚えて、にぎった拳から炎があふれた。
「そんな大事なことは先に言って!? 危うく本当に死ぬところだったじゃない!!」
「ご、ごめんね、ついうっかり!」
「うっかりじゃないの!」
ウーちゃんはびくっと身体を震わせて、視線を泳がせた。
「そ、そんな軽蔑するような目で見ないでおくれ……高まっちゃうから」
「ちょっと喜んでんじゃないわよ。というか、水晶玉をくれたあの日から全然返事してくれないじゃない」
「ごめんね、この空間はすぐ圏外になるから、あまり話せないんだよ。あ、そんなことを言っていたら、もう時間だ」
その言葉通り、私は強烈な眠気に襲われた。私の意思に反してまぶたが落ちてくる。
「待って、まだ……聞きたいことが……」
「他殺に気をつけて、良き死に戻りライフを」
手を振るウーちゃんの姿がぼやけて、再び視界が暗転した。
眠っているような、半分起きているような、ぼんやりとした意識の中で、誰かが呼んでいるということだけはわかった。
「さま……アビー様」
シルバーの声に呼ばれて、急速に意識が覚醒する。私はすっくと立ち上がって、あわてて周囲を確認した。
「ここどこ!? シルバーはどこ!? やつらに噛まれてない!?」
「誰にですか」
「めっちゃ目の前にいた!」
「さっきからずっといますよ」
シルバーは心配そうに私の顔を覗きこんだ。
「大丈夫ですかアビー様。まさか疲れてボケてます?」
「失礼ね! めっちゃ元気だわよ!」
「でも、立ったまま夢を見ていたのでしょう?」
「あ、全然信じていない顔だわ。いつものシルバーね!」
「ええ、いつもの、あなたのシルバーですよ」
私はほっと息をついて椅子に座った。
目の前のテーブルには、豆と鶏肉のスープやパン、サラダなどが並んでいる。
時間はアンデッドと遭遇する二日前の夜。場所はシューラ村で、ここは私たちに用意された部屋の中だ。
「やってくれたわね、ラヴァのやつ。よりによってアンデッドを解放したなんて……」
ラヴァがアンデッド化していたことから、封印の地に封印されている魔物は間違いなくアンデッドだとわかる。
光属性魔法があれば安全に倒すことができるけど、残念ながら私には使えない。
「アンデッドはものすごい速度で感染が広がるから、放置して逃げるわけにもいかないし、全人類ひざまずかせ計画なんて言ってる場合じゃなくなるわ」
私の大きな独り言を静かに聞いていたシルバーは、ふと思い出したように言った。
「ああ、たまに見る予知夢の話ですか」
「予知夢? え、ええ、そうよ!」
私はすこしばかりうわずった声で答えた。
シルバーに死に戻りのことは説明していないから、予知夢ってことにしたんだった。設定忘れてた。
「その予知夢によると、二日後にアンデッドが出現するわ。私たちはそれを阻止しなければいけないの」
「人々を守るため、ですか?」
「まさか! 死体をひざまずかせたってつまらないってだけよ。生きてる人間だから面白いの!」
「そうですね」
私の言葉に、シルバーは面白そうに笑ってうなずいた。
「アンデッド出現を阻止するという話ですが、具体的にはどのように?」
「アンデッドの封印を解かれる前にラヴァを叩く。そのためにも、シューラ族の村に行く必要があるわ」
目を閉じると、イスカの寂しそうな笑顔がよみがえってきた。
あんなつまらない顔より、私を殺そうとした時の顔のほうがずっと良い。
「変えてやるわよ、何もかも。そして、ラヴァをぶっ飛ばして、すべてをひざまずかせてやるわ! おーほほほほ!!」
「テンション高いですね。夜眠れなくなりますよ」
「何言ってるのよ、今から出発するわよ!」
「本気ですか? ちょっとでも休んでもらいたかったのに……」
「おーほほほほ!!」
私はシルバーのぼやきを、高笑いでかき消した。
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